とある日の話




「Hey!ここか?!」


スパン!と勢いよく開けられた襖に小十郎の眉が吊りあがったが、それを何とか抑え我が主君に向き直った。

「何事です政宗様」
「小十郎、を知らねぇか?」
「知りませぬ」
「……Hum.まぁいい」
「それよりも政宗様。仕」

目的の人物がいないとわかった政宗は少し考える素振りをしたが小十郎の「仕事」という言葉にいち早く反応し、ドタドタと逃げていってしまった。
昨夜まで必要な執務は終わらせたがないわけではないのだ。そうやって溜まった執務で愚痴を漏らすことになるのを何度繰り返せば気が済むのか…。

深くなった皺のまま嘆息を吐いた小十郎は廊下側に背を向けると資料保管用の戸を開けた。

「政宗様は行ったぞ。いい加減に出て来い、


戸の中には積み上げられた紙の束と蹲る子供の姿。
規則正しく上下する肩に溜息を吐いた小十郎はその小さな細い腕を引っ張り上げる。

「オラ、こんなとこで寝るんじゃねぇ」
「…?こじゅーろーさま?」

眠そうに目を擦り欠伸を1つかいて「おはようございます」と頭を下げる。
その寝ぼけた行動に呆れたがフッと笑ってぐしゃぐしゃになってる髪を掻き混ぜるように撫でる。


「今日は政宗様と一緒に字を覚えるんじゃなかったのか?」
「その予定だったんですけど…政宗さまが邪魔ばっかりするから…厠に行くといって逃げてきました」
「そうか…」

逃げてきたというに小十郎は苦笑しか出来なくてしょんばりと頭を垂れる少女の頭を撫でた。大事な執務ということで3日間に会わせなかったというのもあり、いつも以上にかまいたくなる気持ちもわかるがへそを曲げられ嫌われてしまえば元も子もない。


「小十郎さま。ここで勉強の続きをしてはいけませんか?」


どうしたものか、と顎に手をあてると袖を引っ張られ視線を下げる。
傍らにちょこんと正座している少女は言いにくそうに俯き目だけこちらを伺っている。

所謂上目遣いだ。

知ってか知らずかはこうやって許しを請う。この顔をされて許さない奴はこの城にいないだろう。ただし、それを簡単に受け入れれば政宗様の機嫌は降下し八つ当たりは免れない。

それをわかっていては申し訳なさそうに頭を垂れる。


「ああ。好きなだけいればいい」

ポンポンと頭を撫でてやれば、顔を上げたが目を大きく見開く。
そして嬉しそうにふにゃりと笑うから俺もつられるように笑った。


とどのつまり、俺もに甘い。




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2011.04.21
こじゅ様!こじゅ様!!

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