癒されタイム




こういう時、忍だったらよかったのにって思う。

掃除は嫌いじゃないさ。仕事してるより何倍も気楽でやりがい感じてるよ。だって綺麗になったら心晴れやかになるし友達だって呼べちゃうもん。
でもこの小さな身体は大人の時の半分くらいしか自由にならないし(主に高さと腕力)時間もかかるから容易でない。

1日の空き時間をもっと作って有意義に使いたいと思うのは無理な願いなのかな。

「…いいなぁ」

ぼそりと呟き柱を拭いていた手を止めた。道場の方から木刀をぶつけ合う音が聞こえる。政宗と小十郎が鍛錬をしているのだろう。ほぅ、と溜息をついたは彼らがいるであろう方を見て肩を落とした。
障子をいくら見つめても向こう側が見えるわけではない。こういう時忍だったら監視という名の観覧ができるだろうに。いっそ千里眼とかそういうのが備わってれば遠くても見ることが出来るのに。


「殿も片倉様も熱心ね。ここまで聞こえてくるなんて。怪我などされなければよいのだけど…」
「そうですね…」

がここまで気にしてるのは他の女中の会話を聞いてしまったからだ。やれ政宗が舞うように格好よかっただの、やれ竜のように美しかっただの、小十郎の横顔がたまらなくときめいただの…そんな羨ましい言葉ばかりだ。
私だってBASARAファンなのだ。隔たれた画面を眺めていた頃とは違う。手を伸ばせば触れられるのに、聞いてることしか出来ないもどかしさに眉を潜めた。

。そこが終わったら庭掃除をお願いね」
「あ、はい」

一緒に掃除をしていた女中の佐和さんに声をかけられ我に返ったは雑巾を桶に浸し、庭を見やった。雪に備えて枝が折れないように身体を軽くしようとしてるんだろうけどそれにしたって多すぎやしないか?目の前に広がる茶色い葉っぱにうんざりして肩を落とした。


「おーいたいたっこんなとこにいたんだ!」


今日も鍛錬してる2人を見れないのか、と落ち込んでいるとこちらに近づく足音が聞こえ振り返った。のっしのしとやってきたのは成実で、道場で政宗と打ち合ってたのか汗を拭きながらこちらに歩いてくる。
佐和と一緒に頭を下げると成実は笑って表を上げるように声をかけてくれた。

のこと、ちょっと借りるよ」
「わぁ!」

にこやかに佐和に声をかけると彼女が了承したかしないかでを抱き上げてしまう。いきなりのことで驚いた声をあげただったが、成実は気にする素振りもなく踵を返し、戻っていく。

「し、成実さまっ私まだ庭掃除が…」
「ん?あー大丈夫。いくら掃いたって葉が全部なくなるまで落ちるんだ。今日やっても明日やっても同じだろ?」

遠のいてく佐和には慌てて成実を止めようとするが、彼は笑って意に返さない。確かにあの葉の落ち方では明日も同じくらい地面を茶色に染めているだろう。角を曲がり佐和が見えなくなったところで、成実のいう通りだなと諦めたは肩の力を抜き大人しく彼を見やった。


「……成実さま、どこに行くんですか?」
「んふふ。いいところさ」

何か悪戯を考えついたような笑みに首を傾げていると、すぐ近くで大きな音が鼓膜を揺らし弾けたように顔を上げた。

「あ…っ」

視線の先には真剣な表情で向き合い木刀を構える政宗と小十郎がいての心臓が大きく揺れた。ピリピリしてる空気に呼吸するのすら戸惑う。こくりと唾を飲み込むと2人同時に踏み込み、互いの木刀を打ち付けあった。

怖い顔はよく見てたけどこんな小十郎の顔を見るのは初めてだ。
政宗もいつもはニヤニヤとに悪戯する顔しか見てないけどこんな顔もするんだ。
ゲームをプレイして知ってたはずなのに。ドキドキして目が離せない。


「すごい…」
「じゃあ、もっと近くで見ようか」

無意識に成実の着物を掴むと彼はニヤッと政宗に似た笑みを浮かべ、を抱えたまま歩き出す。どんどん近づく距離と共に感じる気迫や肌を撫でる風には手を胸の前でぎゅっと握った。
怖いような、そうでないような気持ちが入り混じって心臓がバクバクと不規則に鳴り響く。

「お?」
「?」
「隙あり!!」

じっと2人を見つめていると成実が声をあげ、小十郎が木刀をしならせた。その次の瞬間、カランと地面に政宗の木刀が落ち勝敗が決まった。


「しーげーざーねーーーーーっ!!!!」
「うわっなんだよ!!八つ当たりはよくないぜ?!」
「Shut up!八つ当たりはテメェの方じゃねぇか!!俺に負けた腹いせにを連れてくるとはどういうことだ!!」

終わっちゃった、と少し残念に思っていると、くるりと振り返った政宗がこちらにダッシュで走り寄りを奪い取る。急に変わった視界に目を瞬かせていると政宗の後ろで木刀を拾い上げた小十郎と目が合った。

「でも小十郎はを見ても動揺しなかったぜ」
「What?!」
「成実が席を外した時点で、こんなことになるのではないかと予感しておりました」


溜息を吐く小十郎に成実は「してやったり。これで梵との差はなくなったってわけだ」とニヤニヤ笑って政宗を見やる。
どうやら、3人で勝敗の数を競っていたらしくこの勝負で政宗と成実の数が同じになったらしい。相当悔しいのか政宗は地団太を踏んでの身体も一緒に揺れた。

「Goddamn!成実っテメェ後で覚えとけよ!!」
「いいよ。今度は負けないさ」

も見てることだしね。と声をかけてきた成実に視線を合わせると頭の後ろを押さえられ、視界いっぱいに政宗の首筋が見えた。凄い汗だ。

「Don't approach!She taints!!」
「政宗さま…それヒドイ…」
「ちょっと何いったんだよ梵!!南蛮語じゃわかんないだろ!?」


近寄るなはいいにしても私が汚れるって…。ぎゃいぎゃいといがみ合う従兄弟同士に溜息を吐いたは懐から手拭を取り出し政宗の肌に押し付けた。


「…?」
「あの、汗を拭かないと風邪をひくかもしれませんし」
「え〜梵だけ?いいなぁ」
「Ha!羨ましがってもテメェにはやらねぇよ」
「それをいうなら。顔が赤いが大丈夫なのか?」

髪まで濡れてるんだから冷える前に拭いた方がいいだろう。そう思って首に触れると政宗は目を細め「Thanks」と薄く微笑んだ。それに気を良くしてこめかみの辺りも拭いていると小十郎に声をかけられ目を瞬かせる。
「本当だ。大丈夫?」と聞いてくる成実に驚いて自分の頬を押さえると予想以上に熱くて眉を下げた。


、Are you all right?」
「はい、大丈夫です。その、鍛錬をしてる政宗さまと小十郎さまを見てたら胸がドキドキしてしまって……つい、見惚れちゃいました」


噂どおりの格好いい姿を見れてとても満足だったはへにゃりと微笑み、その笑顔にあてられた男達は緩む頬を必死に堪えながらの頭を交互に撫でた。




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2011.04.27
可愛いは正義!(笑)

英語は残念使用です。ご了承ください。

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