はじめての忍者




「………」
「………」
「あれ?おっかしーなー。この出方すると大抵は驚いて腰抜かすんだけどな〜」

めっさ驚いてますよ!ただ驚きすぎて声が出なかっただけで!

今日も政宗の監視という名の文字勉強の為、彼の執務室に来たのだがもぬけの殻だった。多分私が来るのが遅いから探しに行ったんだろう。そしてそれを口実に逃げ出したに違いない。

温もりがない座布団を呆れた視線で見たは、部屋の隅で自分用の文机を引っ張り出した。今日は雨漏りをしていた納屋の補修を手伝っていたのだ。小十郎が報告してるはずだから知らない訳ないのに。どこに行ったんだ。

入れ違いになるといけないから小十郎がつれて帰ってくるまで(間違っても自主的に帰ってくるとは思っていない)大人しく待っていようと思った。そしたらなんとなく視線を感じ、なんとなく天井を見上げてみると天井から逆さ吊りになってこっちを見てる猿飛佐助と目が合い、固まってしまったのだ。


「よっと!あー何もしないって。だから助けとか呼ばないでね。面倒だから」

佐助は天井から抜け出すと1回転して、音もなく畳の上に着地した。それに驚き目を見開くと、佐助はへらりと笑って釘を刺す。まぁ呼ぶ気はないけど何しに来たんだろう。お舘様の用事だろうか?
こてん、と首を傾げていると佐助は少し困ったように頭を掻き「もしかして喋れない?」と聞いてくる。喋れると首を横に振れば佐助はホッとしたように笑った。

「そりゃ(手間が省けて)よかった。じゃあ聞くけどここの主は今どこ?」
「政宗様は現在逃走中です」
「逃走、中?」


何から?と今度は佐助が首を傾げたがは答えなかった。その代わり視線だけ山積みなった紙に向けるとそれを追いかけた佐助が「ああ、なーるほど」と手を打った。

「うーん。どうすっかなぁ。右目の旦那の気配も近くにないし…この仕事終わんないと俺様帰れないんだよね〜」

出た俺様呼び!
面倒臭そうに頬を掻く佐助を眺めながらは頭の中ではしゃいでいた。
さっきから話さないでいたのはこのテンションの高さのせいだ。ついうっかりまだ聞いていない佐助の名前を呼んでしまいかねる。それはさすがにまずいのでただ佐助を観察していると案の定、目が合った。


「何?俺様の顔に何かついてる?」
「(おおっ俺様呼び2回目!)あなた、忍?」
「そうだよ〜。俺様、働き者のつよ〜い忍なの」

自分で言うかなそういうこと。佐助らしいけど。「お嬢ちゃんは忍見るの初めて?」と視線を合わせてきた佐助に驚きながらも頷く。ここにも忍がいるのは知ってるけどまだお目にはかかっていない。そしてこんなに忍んでない忍も初めてだ。

「…なんか今、失礼なこと考えてなかった?」
「ううん。政宗さまに大事な用事なの?」
「そうそう。返事を持って帰らなきゃなんないからさ…これじゃ帰るに帰れないんだよね」

残業手当て出ないのに…と幸薄そうに微笑む佐助が不憫で綺麗なブラウンの頭を撫でてやればオカンは苦笑に変えて微笑んだ。


「俺様のこと慰めてくれんの?優しいねぇ」


扱いがどう見ても小さな子供に対してのように感じるけど(そこまで子供じゃないよ)、小十郎を見てるせいかゲームを知ってるせいか妙に可哀想になってしまった。

「んで、お嬢ちゃんはここで何してんの?」
「(今更その質問?)…文字のお勉強」
「ここで?」
「見張り役なの」

何の、とはもう聞かなかった。代わりに佐助は「ぶふっ」と噴出すと顔を逸らし肩を震わす。
「マジかよ」とかなんとかぶつぶついってる。そこまで可笑しいことかな?


「クク、いいこと聞いたよ…っお嬢ちゃん名前は?俺は猿飛佐助。佐助って呼んで」
「佐助さま?…さん?」

そう、と頷く佐助の笑顔はさっきまでのうそ臭さが少し消えたみたい。ちょっと前進?

「私は、」
「オイ猿飛!!なんでテメェがここにいる!!」
「小十郎さま!」
「おっと!俺様は何もしてないぜ」


思いきり開いた襖に驚き見やればパリパリと放電気味の小十郎が入ってくる。その右手には襟首を掴まれ引き摺られてる政宗がいて佐助と一緒に顔が引きつった。うわぁ、政宗が焦げてるよ…。
これから説教するんだろうなって安易に予想が出来て余計に顔が強張った。隣にいる佐助も両手を挙げ無実だと訴えると「大将から文を預かってるんだ」と早々に切り出す。


「一応、返事を持ち帰るまでが仕事でね。ここで待たせてもらってたってわけ。ああ、その辺の紙は全然触ってないから。この子が証人」

ね!とウインクして話を振ってくる佐助に、は小十郎と彼を見比べながら小さく頷く。すると小十郎が眉間に皺を寄せたまま「そうか」と息を吐き出した。

、ここはもういい。後の勉強は自分の部屋でやってくれ」
「はーい」


小十郎にいわれ弾かれたように立ち上がったはあまり広げてなかった筆や硯と急いで片付け廊下に向かった。

「あ、佐助さん!私、っていいます。ゆっくりしていってくださいね」

出て行く間際、佐助に小さく手を振って襖を閉じた。その目が興味津々という感じに見られてたけど小十郎が何かいいたそうに口を開いたので早々に逃げ出した。



その後、忍んでない忍がうんざり顔で門から出て行くのと、1週間くらい大人しく執務室で仕事をこなす城主を見かけたのは別の話。




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2011.04.27
佐助参戦(笑)大好きです。

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