可愛くて仕方ない
「さてと、用事も済んだしさっさと帰って報告でもしますかね」
屋根に飛び乗り首をコキコキと鳴らした佐助は懐に入っている手紙を確かめ帰る段取りを組み立てていた。するとすぐ目の前、屋根下の庭で枯れ葉をかき集めてる少女が見えた。確かあの子は。
「……ちょっとからかってみようかな」
ニヤリと口元をつり上げた佐助はクナイを取り出すと、彼女が掃いている近くの木に投げつける。すると、スタンという音と共に枯葉がヒラヒラ落ちていく。その落ち葉を少女がかき集め、頃合いを見てまたクナイを投げる。
それを何度か繰り返すと、痺れを切らしたのか少女は持っていた箒で木を突いた。
「!?!」
突いたはいいが、枯れ葉以外も落ちてきたらしい。悲鳴にならない声をあげ固まった。
「すごい顔だねぇ。どうしたの?」
「さ、佐助さん…っ」
涙目で真っ青にしてる彼女を笑わないように、素知らぬ顔で近づいた。どうやら虫が落ちてきたらしい。動いてるうちに背中に入ったらしい虫を取ってくれとせがまれた。
着物の中に手を突っ込むのってどうかと思うんだけど…子供だから気にしなくていいかな。などと佐助は暫し考えたが、本人もそういってるなら大丈夫だろうと考え忍甲を外し着物の中に手を入れ小さな虫…に見える枯れ葉を取り出す。
「はい。とれたよ」
「ありがとうございま…って!見せなくていいから!」
「そう?」
予想通りの反応に満足して枯れ葉を捨てると、彼女の綺麗な髪についてる葉も取ってあげた。
*
「えっ甲斐に行くまでそんなにかかるの?!」
「そうなのよ!仕事が早いからって大将も旦那も忍使い荒いんだよね〜」
気がつけばなぜかこのという少女と世間話をしていた。「よく奥州に来てますよね?」という問いを逸らそうとしたらこうなってしまった。早めに切り上げるつもりが彼女が聞き上手なのか自分が思ってたより鬱憤が溜まってるのか、なかなかどうして話が終わりそうにない。
「それだけ頼りにされてるんですね」
お疲れ様です。と手を伸ばしてくる少女に合わせるように少し屈めば小さな手が佐助の頭を撫でる。こそばゆいようなあたたかいような不思議な気持ちになりながら佐助はの気がすむまで撫でさせた。
「佐助さん?」
「……ちゃんってさ、変な子だよね」
いつまでも黙ってる佐助を心配したのかが覗き込む。その不安げな顔に佐助は笑って見せた。
初見はどこにでもいる女の子。でもなぜかここの城主に気に入られてて、調べたら南蛮語を理解し話せるらしい。たかだか農民の子が南蛮語を知ってるなんて怪し過ぎじゃない?
なんで疑わないのかなぁ。危険だから手元に置いてんのか?間者だったらどうすんの?
「じゃあその変な子に会いに来る佐助さんも変な人ってことですよ」
「どういうところが?」
「忍なのにお節介だし、敵なのに何かと会いに来てくれるし」
勘に触ったのか不満そうに口を尖らせる彼女に俺はヘラリと笑った。使い捨ての忍にそんな綺麗な瞳で見ないでほしい。そういうところ、うちの旦那そっくり。本当、やになるよ。
「話し声が聞こえると思えば…。テメェは庭掃除を終わらせたのか?」
「こ、小十郎さま!」
「それと猿、あの木に刺さってるクナイはなんだ?テメェのだろ。道草くってねぇでさっさと帰れ」
「木…?」
目を瞬かせたが木を見上げる。さっきまで掃除していた木の上にあるものがチラリと見えたのだろう。「あーっ!!!」と声をあげ佐助を睨んだ。この状況で来るなんて右目の旦那も人が悪いよね。と見やったがいつも通りの仏頂面で苦笑した。
が箒を掴むと同時に屋根に飛び上がる。怒ってる顔もなかなか可愛いね。
「じゃまたね。ちゃん」
「もう来るなーーっ」
ケラケラ笑って屋根を蹴ると達がぎゅんと遠くなる。後ろを振り返る頃には城が豆粒くらいの大きさだった。枝に飛び乗り、ふとさっきのの怒った顔が思い浮かぶ。なんだか笑いがこみ上げた。
「奥州に行くのがちょっと楽しみになったかも」
怪しくて変な子だけど、面白いかも。ニヤニヤと笑いながら佐助は飛び乗った枝を蹴った。
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2011.05.01
佐助のSはドSのS。といっても過言ではない。
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