全部飛んでけ
「できた!」
小十郎に貰った紙で出来上がった紙飛行機には満足気に頷き部屋の隅に寄った。
空に飛ばす前に試さないとね、全然飛ばなかったら格好悪いし。そう考え反対側の柱に向かって紙飛行機を飛ばした。
「あいて!」
「ええっ佐助さん?!」
手首のスナップをきかせて飛ばした紙飛行機は予想軌道を大きく外れて上へと上昇してしまった。そしてそのまま天井にぶつかるかと思われたが、なぜか調度顔を出した佐助に当たってしまい慌てて駆け寄った。
「えっえっ大丈夫?佐助さん!」
「ビックリした〜ちゃん何これ?」
降り立った佐助の手には握りつぶされた紙飛行機があり、「あー…」と声を漏らす。彼の顔を見れば頬にほんの少し赤みがさしていた。
「俺様としたことが油断してたよ〜。まさかちゃんが俺様を攻撃するなんて…っ」
「や!そんなつもりは全然!これはたまたまで…」
「けど、これかなり鋭くない?ちゃんに当たったらどうすんのさ…てあれ?」
視線を下げると紙飛行機はぶつかった衝撃で先端がひしゃげていて佐助は首を捻った。うん、紙だからね。
「ごめんなさい。佐助さんが来ると思ってなくて」
申し訳なさそうに俯き、目だけ上目遣いに見れば佐助はへらりと笑って「大丈夫だよ」といってくれた。
政宗さまに用事ですか?と聞けばさっきまで一緒だったらしい。そのついでに私の顔を見に来てくれたのだけどこんな結果になってしまい…。さめざめと泣くマネをする佐助にはもう一度謝り、紙飛行機を返してもらった。
うん、お前はもうダメかもしれないね。皺だらけだ。
「でもそれ変な形してるね。何に使う道具なの?」
「えっと、ね。これは"紙飛行機"といって飛ばすものなの」
他に説明のしようがなくてはもう一枚の紙を取り出すと佐助に見えるように床の上に置いた。
「ここをこうやって折って、こうして、こう、とこうやって、こうするんです。それでこう飛ばすんだよ」
「へえ、鳥みたいだね」
すいっと流れるように飛ぶ姿に佐助は驚きと感心したような声色で呟いた。だから攻撃するものじゃないといえば彼は悪戯っぽく笑ったけど。
「それでちゃんはそれをどこに飛ばすつもりなの?」
「………これを飛ばして、ずっと…ずっと遠くにいるお世話になった人達に届いたらなって…」
女中さん達と話しながらふと友達のことを思い出して、いてもたってもいられなくなったのだ。連絡手段は全て断ち切られ、言葉を届けることはできないけれど、もしいつか帰れるなら、会えるなら心配させないように思いだけでも伝えたくて。
「鳥みたいに飛んでいけないから、せめて紙飛行機を飛ばそうって…そう思ったの」
「ふぅん…………届くといいね」
フッと胸へ暖かな空気を送り込むように囁かれた言葉はを優しく包んでいく。ぽとりと落ちた紙飛行機を拾い、振り返ると膝の上で頬杖をついた彼と目が合った。いつもとは少し違う優しい微笑みにドキリと高鳴る。
「あっそうだ!ほっぺた大丈夫?薬持ってくる?」
「大丈夫。紙に負ける俺様じゃないからね」
こんなの唾つけとけば勝手に治るよ。そういって笑う佐助の頬に触ると彼は途端に口を噤んだ。肌理細やかだな。羨ましい…そんなことを考えつつ優しく頬を撫でると何度か目を瞬かせた佐助が不思議そうに声をかけてくる。
「ちゃん。くすぐったいよ」
「いたいのいたいのとんでけ〜」
「………俺様、子供じゃないんだけど」
何でも飛ばしてどうすんのさ。と苦笑する佐助にはにひ、と笑って「佐助さんをこき使う上司の人達に飛ばしておきました」といってやれば思いきり噴かれた。
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2011.05.11
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