触れて、全部包み込んで
雪が深々と降る午後、は政宗の部屋で童話を読んでいた。随分前に取引先から貰ったらしいが政宗には合わなかったようで暇を持て余してる私に渡してきたのだ。
タイトルは『ラプンツェル』。英書だったから慣れるまで時間がかかったけど、塔の上のお姫様、美しく長い髪を梯子がわりに、ってところで気づいた。それだけだったらまだいいんだけどこの本、読んでくうちに内容が怪しくなっていって思わず眉を潜めた。
「わからない単語でもあったか?」
後ろでそうのたまったのはここの城主。何を考えているのか政宗は私を膝の間に入れて火鉢にあたっている。
一昨日、羽織を羽織って火鉢を抱え込む寒がり政宗がいいことを思いついたと目を輝かせたのが切欠だった。からしてみれば暖かくなったのは自分で政宗は大して変わってないように思うのだけど。
それでもこの殿様は湯たんぽ代わりに私を抱えて仕事の書類を眺めてる。
「もういい」
「なんだ。もう Giving up か?」
ハァ、と溜息を吐き本を閉じる。ニヤニヤと後ろから覗き込む政宗にはじろりと睨んだ。
童話の原型は残酷で卑猥だというのを昔聞いたことがある。子供用に何度も書き直しても読んだことのある童話になるのだろうが、今手にしてる童話はよりオリジナルに近いか、悪意があるようにしか思えない。
ニヤニヤ笑ってるところからすると内容をわかってて私を試してるんだろう。ただの子供が読んだら何が起こってるのかわからないかもしれないが、私は一応大人である。ここまで露骨で卑猥だとグロささえ感じてしまうよ。
「ポルノ小説を子供に見せないでください」
「Oh,sorry!…想像しちまったか?Pretty faceが真っ赤だぜ」
「これは火鉢が熱いからです。自分だって顔が赤いじゃないですか」
頬をくすぐる指を握り締めたが政宗は痛そうな顔をこれっぽっちもしない。
火鉢の火の色で顔が赤く見えるのは当たり前だしこれだけくっついてるんだから必要以上に暖かいのは当たり前だ。なのになんで笑うのよ。
「Please don't be tense.I'll love you much.」 (緊張するなよ。俺がたっぷり可愛がってやるぜ)
「なっ……バ、バ、バ、バカじゃないの?!破廉恥!」
後ろから抱きしめられ、耳元に囁かれた言葉と一緒に息も吹きかけられたら声だって荒げたくなる。というか、見た目子供相手に何遊んでんのよ!
「破廉恥っていうならあの文章読んでPornographyだってわかるも十分破廉恥だろ?」
「確信犯がなにをいうか!」
「Ouch!」
掴んでた指を逆方向に曲げてやれば痛そうな顔と一緒に腕の力も抜けた。その隙をついて逃げ出せばムッとして指を擦る政宗と目が合った。
「テメェ、折れたらどーんだよ」
「折れない程度しか力入れてまーせーんー。っとに大袈裟なんだから」
ヒヤリとする背中に随分長いことくっついてたんだなって思ってそれはそれで顔が熱くなる。「捕手術なんていつの間に覚えたんだよ」とブツブツいってる政宗には小さく笑って背を正した。
「政宗さま、何か飲まれますか?寒いようなら小十郎さまにお願いして火鉢か温石をお持ちしますけど」
「Ah,熱い茶だな。小十郎は呼ぶなよ。それでなくとも昨日説教されたばっかりなんだからよ」
「フフフ。Yes,sir.」
「Please return early.寒くてかなわねぇ」 (早く戻ってこいよ)
「Yeah.」
暖かい執務室を出る時、政宗がニヤッと笑ったのを見てもニヤッと笑い返し襖を閉めた。刺し込む様な外気にブルッと身体を震わせるとは緩む頬を押さえながら軽い足取りでその場を後にした。
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2011.06.01
英語は残念使用です。ご了承ください。
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