勿論告げ口しました
「Hey!俺のいうことが聞けねぇのか?!」
「やだったらやなの!」
「ねぇ、いったいなんの騒ぎ?」
奥州を覆う雪も溶け桜の木が芽吹く頃、城の廊下の一角でと政宗が唸り声をあげんばかりに互いを睨みつけていた。
そんな声を聞きつけ、1人増え、2人増えと気付けは野次馬で廊下が埋め尽くされていたのだが2人は知るよしもない。いや、正確にいうならば本当に気づいていない者と気づいていたがあえて放っておいた者だ。前者はで後者は勿論政宗だ。
その賑やかさに呼ばれた成実も面白半分に声をかければ、政宗は邪魔するなと睨み付け、は目を丸くした後周りを見て顔を真っ赤にした。
実に面白い、と成美は思ったが怖い従兄弟に睨まれにやついた口を引き締める。
「2人で何面白…じゃなかった、ケンカしてんの?」
「ケンカじゃねぇ。の奴がdriveに誘ってやってんのに断りやがんだ」
「どら…い……?」
「drive. 馬駆けだ」
「あー。嫌なの?」
「だっだってまだ仕事あるし、政宗さまの運転怖いし」
運転?と思ったがすぐに馬術のことだとわかった。理解して「あー」と同意の声を漏らす。その声にすらビクッと反応してが俯いてた。耳まで赤く染め、袖を掴みまごまごと揉んでいる姿がなんとも可愛らしい。
いいよなぁ。梵ってばこういうの毎日見てるんでしょ?隣に視線を送れば今にも噛みつかんばかりに睨み付ける従兄弟の顔。あまりの不機嫌顔に思わず吹き出しそうになる。
「確かに梵と遠駆けに行ったら尻が猿みたいになるだろうねぇ」
「馬酔いもします」
顔を真っ赤にさせながらもしっかり意見をいうに今度こそ吹き出した。
「ってば器用だね〜」
「成実!テメー何笑ってんだ!」
「だって梵の誘いを面と向かって断った子初めて見たからさ…!イテーっ!!!…っていうか今思い出したんだけど…イテテっ髪引っ張んないでよ!」
城主の誘いを断る子なんて見たことがない。そう笑えばは益々縮こまる。あまり責めると豆粒になってしまいそうだ。
そしたらいきなり政宗に脛を蹴られるわ髪をむしるように引っ張られるわで泣きそうになる。泣くマネをしたら「気持ち悪ぃ」と吐き捨てられた。梵、最近俺の扱いひどくない?
「梵、大事なこといい忘れてるんじゃないの?」
「あぁ?」
「を遠駆けに誘った、り・ゆ・う」
だって小十郎も大好きなのことだ。政宗をサボらせる口実をわざわざ作る訳がない。そのせいでにまで被害が及び説教されたのも1度や2度じゃないのだ。どんなバカな子でも気づく。
いつもの政宗ならうまくいいくるめるのにここまで大きくしたのは遠駆けより面白いものを見つけたってこと。
どうせからかうのが楽しくなって目的忘れちゃったんでしょ?と肘でつついてやれば目付きの悪い従兄弟は左目を丸くして「Ahー」と頭を掻いた。やっぱり忘れてたな。
「。お前に見せたいspotがあるんだ」
「見せたいスポット、ですか?」
「お前、前に他の田畑を見たいっていってただろ?」
おっさすがは梵。いいとこ突くね。が考えてる、考えてる。相変わらず勤勉だなぁ。
顎に指を添え思案してる彼女はいたく真剣だったが、赤い頬と瞬きの多さについ後ろから羽交い締めにして頭を撫でまくりたくなる。
そんな妄想が顔に出ていたのか、殺気を隠さずに飛ばしてくる従兄弟にこっそり笑った。
「Do you go?」 (どうなんだ?)
「えと…小」
「I'd like to go out with you.」 (2人で行きたいんだ)
「…………じゃ、じゃあ仕事が終わってから」
「Duh!So let's go now!」 (今すぐだ!)
不安がありありと見える顔で頷くに言うが早いか、政宗は彼女を担ぎ上げさっさと玄関の方へ歩き出す。
俺はというと、2人の遠駆けを邪魔するように立ちはだかった。おー睨んでる睨んでる。でもその睨みには慣れきってるんだよねぇ。
「…成実」
「あんまし遅くならないようにしなよ。門限早いんだから」
季節上春になったとはいえ日はまだまだ短い。夕方までに帰らないと小十郎の説教も長くなるんだからね。にこやかに笑って道をあけると政宗の肩の上で「ええっそんなに遠いんですか?」と顔色を悪くする。
だって梵が連れてこうとしてるとこはそういう遠い場所だもん。遠駆けっていったでしょ?
助けて!と涙目で訴えてくるにやっぱり可愛いなぁ、とにんまり笑って俺は軽く手を振った。
「俺、城主には逆らえないから」
「なぁ!そんなーっ」
勿論ウソである。恨みがましく睨んでくるを笑って見送り、政宗は「行ってくる」と軽い足取りで去っていった。その両極端の2人に口元がヒクついたのはいうまでもない。
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2011.06.08
英語は残念使用です。ご了承ください。
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