キス・ミー




正直言って、政宗の馬に乗るのは嫌いだ。だって酔うんだもん。車酔いだってしたことない私が何が悲しくて馬に乗って酔わなきゃならないんだ。動物好きなのに!

「うぅ…気持ち悪い…」

どこまで走ったのかわからないが、成実の言う"遠乗り"に相応しく随分遠い場所まで来てしまったらしい。この奥州で1番背の高い建築物であろう米沢城が見えないのだ。
は下ろしてもらった近くの木の根元にずるずると座り込むと大きく息を吸い込んだ。うう、胃酸で喉がヒリヒリする。

ブルルン、と鳴く政宗の馬『太刀風』は少し走り足りないようだ。こんだけ重そうな改造されて、無茶な走りされてるのに元気だね。木に繋がれ、足元の草を食む太刀風の顔を撫でようとしたら食事の邪魔するな!と歯を剥かれたので大人しくすることにした。

眼下には緑生い茂った山しか見えない。右を見ても左を見ても山、来た道も馬1頭くらいしか幅がないあぜ道。そんな光景に思わずちゃんと帰れるんだろうかと不安になってしまう。これでも舗装されてるっていうんだから昔の人の足腰はかなり強い。私がこんなところに放置されたら絶対餓死するなぁ。


、Are you OK?」
「政宗さま…」

想像して震え上がったは両手で腕を擦ってると上から声がかかり顔を上げた。木漏れ日をバックに現れたのは近くの湧き水まで水を汲みに行っていた政宗で。
彼は「This is water.飲んどきな」と持っていた竹筒を差し出してきた。は礼をいってそれを受け取ろうとしたが、さっきまで振り落とされないように必死に政宗にしがみついていた為、手に力が入らず竹の水筒はそのまま地面に落ちてしまった。


「あ、わわ…っごめんなさい!」
急いで持ち上げたものの、水は随分軽くなっててはがくりと肩を落とした。どうしよう、政宗に怒られる、と恐る恐る顔を上げればむっつりした目とかち合い、身体が大きく跳ねた。

「仕方ねぇな。俺のをくれてやる」
「で、でも…」
「俺は少しでいい。先にお前が飲め」

もう1つの竹筒を取り出し差し出されたが、飲むべきか否か少し迷った。でも口の中の気持ち悪さには勝てずは断りを入れて口をゆすぎ、冷たい水を胃に満たした。


「ありがとうございました」

目の覚めるような冷たさと美味しさに気分も少し晴れたは水筒を政宗に差し出した。礼を言うと政宗は機嫌が治った顔で口元を吊り上げ自分も水筒に口をつける。

「あ…」
「?何だ?」
「い、いいいいいえ!」

ふと、目に付いた唇に思わず顔が熱くなった。じっと凝視してたのが気になったのか、もれ出た声に返しただけかわからないが政宗の視線がこっちに向くと同時には視線を逸らした。

わざとらしいほど動揺してる自分が情けなくなる。私は子供か!いや、今は身体は子供だけど!一応中身は大人なんだから!間接キスとかぐらいで動揺するなんて情けなすぎる!せめて普通のキスされてから動揺すべきでしょ!


「わっ政宗さま、顔近い!」
「What's wrong?顔が赤いぜ?」
「いえっどこも悪くないですってば!」

恥ずかしい、と反省してると端正な顔が視界いっぱいに現れ思わず咆哮した。腕いっぱい突っぱねてみても政宗は離れてくれなくて、逆に心配そうに見てた目が面白そうに細くなってる。ああヤバイ。ヤなこと思いついた顔だ。

「Why are you so upset?、俺が何かしたのか?」
「し、してません!」
「勿体つけずに教えろよ。俺のせいなんだろ?」


かーくーしーんーはーんー!!!
ニヤニヤしながら迫る政宗には泣きそうになりながら後ろに下がったが木が邪魔してそれ以上は逃げれない。
いいたくない!絶対いいたくない!!どうにかして話を逸らさなくては!

「あ、そうだ!わっ…私に見せたいスポットってどこなんですか?…田畑は見えないようですけど」
「Ah〜そんな話だったな…んな目で見なくても今度連れてってやるよ」
「今度?」
「Yes.もう少し太刀風を走らせなきゃなんねぇんだ。だが今日はもう無理だろ?」

今更思い出したかのような話し振りに思わずじと目で政宗を見てしまったが自分の体力が限界だということに頭を垂れた。



*



帰り道、今度はゆっくりと馬を歩かせながら山道を進む。うん。これなら大丈夫そうだ。政宗の前に乗せてもらい見える景色に機嫌よくしていると腹に回ってる腕を引かれ政宗が覗き込んできた。


。そういやお前ってkissしたことはあんのか?」
ぶっ!
「…どこをどう考えてそこに行き当たったんですか」

今迄の会話でそんな話はこれっぽっちもなかったしさっきの話も逸らしたから連想もできないはずだ。
というか、間接キスだって教えてないのに。何を勘付いたんだ?

「んなことはどーでもいいだろ?それよりあんのか?ないのか?」
「………ノーコメントで」

どっちを答えても政宗が面白がる気がしてさっさと終わらせてしまおうと視線を芽吹く木の蕾に移したが、彼の手で強制的に視線を戻された。


「なら、俺が教えてやろうか?」
「はぁ?」

馬を止め、顔を近づける政宗にはさっきよりも顔が熱くなった。冗談、といいたかったけど政宗の目を見たら息を呑むしか出来ない。そのうち政宗の顔が視界いっぱいになり反射で目を瞑ると、額にチュ。というリップ音と何かを押し当てられる感触がした。


「………」
「………プ、…!驚いたか?」

ニヤリと笑う政宗には開いた口が閉じれなくなった。自分がしてしまった行動に気がつき、みるみるうちに顔が真っ赤になる。

そう、政宗は私にキスはキスでも唇にする気はなかったのだ。それを私は目を瞑って構えてしまった。

そんな自分を思い出してしまったは頭の中でもんどりうった。ああもう私のバカバカバカ!!!額を手で隠したが顔の赤さは当分引かないくらい赤い。もしかしたら頭皮まで赤いかもしれない。それを裏付けるように政宗が面白可笑しそうに肩を揺らしてる。


「お、おでこならおでこにするっていってよ!!」


怒ったフリをして声を荒げれば近くにいた鳥が一斉に飛び立ち、その音に肩を揺らすと政宗は声を出して大いに笑った。




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2011.07.05
成実の続き。ただの子供(笑)

英語は残念使用です。ご了承ください。

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