友達になりました
「、甘味でも食べるか?」
「小十郎さま。私を食べ物で釣ろうとしてませんか?」
差し出された団子には疑わしい目で小十郎を見やる。目が合った途端、眼力の強い小十郎の肩が微かに揺れたのをは見逃さなかった。
別に甘いものが嫌いって訳じゃないし、ダイエットをしてるわけでもない。
ただ、政宗の右目で軍師の小十郎はなんでか子供というか女の扱いがいまいちなのである。先頭きって指示するのはお手のものだが、慰めるとか体のいい嘘をつくのがいまいち下手なのだ。
今の会話だって裏が見え見えで気づいてくれといってるようなものだ。というか、食べ物で手を打とうなんて軍師にしては安直過ぎじゃない?
「それで、私はいつまでこの部屋にいればいいのですか?」
「うむ。その、だな」
そして歯切れも悪い。
「あと五日はここで」
「5日!?」
額の傷の血も止まり、いつも通りに動けるのにまだダメなのか。命令は政宗がしてるんだろうけどそこまでして私を隠す必要あるの?そんな思いも相まって小十郎がいいきる前に大声をあげてしまった。
その後、必死に言い訳する小十郎に根負けしたは、仕方なく近くの中庭が見える廊下に座って団子を食べていた。部屋じゃ絶対食べない!お願い聞いてくれなきゃ家出する!とかあることないこと騒いで許可をもらったはいいんだけど。
「(さっきから誰かに見られてる気がするんだよなぁ…)」
はじめは屋根裏に張り付いてる忍の長門かと思ったけど(慶次や佐助と会ってたことを政宗に報告されて何故かえらい怒られた上に今も監視続行中だったりする。ちなみに名前は小十郎に教えてもらった。本人滅多に降りてくれないし口きいてくれないんだもん)チクチクするのは左側の方だ。上からじゃない。
かといって周りを見てみたけど人影はなく近くで鶯が鳴いてるくらいだ。長門さん、場所移動でもしたのかな。そんなことを考えながら最後の団子を手に取ると、それほど離れてない植木から真っ赤な人が「あぁ!」と大声を上げ立ち上がった。
「(ゆ、ゆ、ゆ、幸村だぁ…!)あの、なんの御用でしょうか」
「あ!いや!某はその…っ」
冷静を装って声をかけたがすぐにでもツッコミたくて仕方なかった。いつからそこにいたの?とか、なんで隠れてたの?とかだ。
この城に戻ってずっと会いたいと思ってた人の1人だから勢い余って抱きついてしまいたい衝動に駆られた。はためく長い鉢巻きと裸ジャケットに戦隊もののレッドを彷彿とさせる赤、それから髪の毛がワンコみたいにふわっふわだ。
政宗のライバルで武田信玄命の真田幸村、その人だ。
「その、城を見回るうちに迷子になってしまい…」
…わかってはいたけど幸村って本当嘘つけない子なんだね。
それを証明するように持っている団子を左にずられば幸村の視線が左に流れ、右にずらせば右に視線が流れる。その動きがあまりにも可愛くてにまにましていたら、幸村がいきなり土下座した。
「も、申し訳ありませぬ!某、団子の甘い匂いに吸い寄せられここまで来てしまったでござる!」
「ぶふっ」
そうそう。そういえば幸村団子好きだったね。でもここまで好きだとは思ってなかったよ。本当にワンコみたい。吹き出したを不思議そうに見上げてくる彼に(なんだか耳とか尻尾が見えてきそうだ)にっこり微笑んだ。
「いいですよ。私もうお腹いっぱいでしたし」
廊下を降り幸村と同じ目線までしゃがんだは「一本しかないですけど」と団子を差し出した。
「おおおっなんと!よ、よろしいのでござるか?!」
「はい。冷めないうちにどうぞ」
「か、かたじけないでござる!」
いうが早いか団子を手に取ると一気に二個を食べてしまう。1本しかないんだけど味わうとかしなくていいのかな?
「そんなに食べたかったならもっと早く声かけてくれればよかったのに」
「滅相もない!!団子はそなたが食すものであったのだろう?それを物乞いのように強請る訳には…」
あんだけの視線送っといてよくいうよ。クスクス笑うに幸村は顔をジャケットくらい染めると「申し訳ない」と頭を垂れた。自分のいった言葉に気がついたんだろう。
そういう素直なところ嫌いじゃないんだけどな。ゲームでプレイするのも楽しかったし、幸村のこと結構好きなんだよ?
しょぼん、と耳が垂れ下がってる(ように見える)顔の幸村には廊下に置いていたお茶を手に取ると落ち込んでる若虎に差し出した。
「冷めちゃってますけど、よろしければお口直しにどうぞ」
「か、かたじけない。その…」
「です。次は多めにお団子貰っておきますね」
だから、今度は一緒に食べましょう。そういって微笑むと目を丸くしていた幸村がぱぁっと晴れやかな笑顔になり「承知いたした!」と元気良く頷いてくれた。
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2011.08.31
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