酒と桜




!花見に行くぞ!」
ドタドタと大きな音を立て襖を開け放った慶次は春の木漏れ日のような顔で笑った。

額の怪我以降城の外に出てなかったはその甘い誘惑に乗ってしまったのだが、後にその選択が過ちだったのかもしれないと後悔することになる。



*



「Shit!出遅れたぜ。まさか前田が連れ出すとはな」

いつも以上に早く執務を終えた政宗は「いつもこれくらいの気合で執務に取り組んでいただきたいものです」とかいう小十郎を尻目に急いで来てみたが、そこにの姿はなかった。一足早く花見と称して前田が連れ出したと知った俺は素早く馬に乗り、腹を蹴った。

「行き先を聞いた者の話によれば武田、上杉と共に花見をした桜に向かったようです」
「Ah、あの場所か。そういや前田も気に入ってたな。んじゃそこまで飛ばすぜ!」
「はっ!」

Speedを上げた政宗の後ろでは駆け落ちした女房を探す夫のような形相の小十郎が馬を走らせる。眉間の皺も3割増だ。

「小十郎。奴がに手を出すとは思わねぇぜ?」
「そんなことになれば私が斬り捨てます」

そして自分も責任をとって腹を切るとかいいだしそうな小姑に政宗は人知れず溜め息を吐いた。



山の中腹にある桜の木は500年生きているという大木でげん担ぎによく花見をする場所だった。満開の時期は過ぎてしまったが、散り桜も中々に美しい。
そこにを連れていこうと自分も考えていたから余計に悔しさがある。

「前田あああっ!」
「ゲッ」

見つけた派手ながたいに小十郎が吠えると、前田と一緒に周りにいた鳥達も一斉に飛び立つ。しかし肝心のの姿はない。逃げようとする前田を取り押さえた小十郎も気になったのか、前田を締め上げ聞き出そうとした。

「テメェ、をどこにやった?」
「ぐえ…」
「答えねぇと…」
「Stop.小十郎」


襟を締め上げてるせいで声どころか呼吸もままならない前田の顔は真っ青だ。呆れてそれを止めれば、風来坊は動く手で上を指差す。

「テメェ、冗談も程々に」
「あー!政宗さまと小十郎さまだー」
!」
桜の木を見上げれば、枝の上にちょこんと座ったが手を振っている。

「お前、何でそんなとこに登ってんだよ!」
「えーだって桜綺麗なんだもん!」
!動くなよ!今俺が助けに行くかんな!」
「だーいじょーぶですよー!」

ケタケタ笑い足を振るに小十郎は前田を放って大木にしがみつく。随分なバカ親ぶりだ。


「俺が登る。小十郎は前田を見張ってな」
「しかし!政宗様に怪我でもあれば」
「No problem.ガキの頃に散々登ったんだ。今更落ちるかよ」

笑う俺に腑に落ちない顔で見ていた小十郎だったが息を吐いて後ろに下がった。

「……お気をつけて」

だからガキじゃあるまいし、木登りぐらいでそんな神妙な顔すんなよ。


「すごーい!政宗さま夢吉みたい!」

がいるところまで登れば上機嫌に拍手で迎えられた。肩に乗ってる夢吉という猿と目があった俺はなんともいえない気分になる。お前は俺を大道芸か何かと勘違いしてねぇか?

「(猿飛じゃあるまいし)ほら、降りるんだからこっちにこい」
「えーやです。もっと桜見てたいもん」
「Don't be selfish.怪我したらどうするつもりだ」 (我儘言うな)
「だってこんなに桜が綺麗なのに…ちょっとくらい花見をしたっていいじゃないですか」

不貞腐れてそっぽを向くにジリジリともたげる悪戯心を押し退け、との距離を縮ませた。

「…おい
「ふふふ。変な顔」

捕まえやすいように近づいたつもりが何故か俺が捕まれた。引き伸ばされた政宗の頬を見てはケタケタと笑う。


「お前、酔ってるだろ」
「えー?違いますよぉ。私酔ってません」
「飲める量はちゃんとわかってるっていってなかったか?」
「勿論わかってますよー」

わかってたらそこまで酔わないだろうが。俺の頬を引っ張りへらへら笑うを見ていたら段々イラついてきた。

「ん!……ふっ…ん」

イラついた勢いでを引き寄せそのまま唇を塞いでやる。驚いたは腕を突っぱね暴れたが足場を作り見上げていた政宗よりも不安定に座ってるの方が分が悪い。
腕の中に落ちたはしがみつくように政宗を受け入れるしかなかった。


「はぁ…政宗の変態……」
「お前は飲み過ぎだ。酒の味しかしねぇ」

どさくさに紛れて舌を捩じ込んだら案の定酒の味しかしなかった。
いや、それよりも煽るように舌を絡めてくるに内心焦ったのをバレないように取り繕うのがやっとな自分が情けない。

「……か…」
「An?」
「政宗のバーカバーカ!スケベ!変態!」
「…テメェ。仕舞いにはしばくぞ…」

仮にも一国の主にいうセリフじゃねぇだろうが。叱るつもりで低い声を出したがすぐに飲み込んだ。震えた腕で突っぱね、潤んだ…というより今にも泣きそうな目で俺を睨み付ける。それを真っ赤な顔でされれば押し退けていたものがまた疼きだす。


「ん!やっ…ん、…っ…ん…ん」
「どうだ。まだ抵抗すんのか?」

息ができないくらい口を塞いでやれば、ぐったりしたが耳まで赤くして俺の肩に顔を埋めた。こいつ、やっぱり酒の味しかしねぇな。


「…信じらんない…」

ぼそりと呟かれた言葉に笑うと首に回った手に力が入る。熱い程の体温に抱える腕に力を入れ直した政宗はを落とさぬよう、木から飛び降りた。




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2011.09.19
欲求不満か。

英語は残念使用です。ご了承ください。

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