二日酔い




「うぅ〜頭痛い」
頭を押さえは呻いた。昨日、慶次に連れられて花見をしたまではいいのだが実はその後の記憶があまりない。

「…やっぱりあれが悪かったのかなぁ。でもなぁ」

誰だってあの盃を見たらあれで飲んでみたいって思うじゃないか。なんせ慶次がオープニングムービーで持っていた盃が出てきたのだ。テンションだって上がってしまうでしょうよ。…って、これは酔っ払いのいい訳か。

「よぉ
「あ、慶次さん」

廊下を曲がれば同じように曲がろうとした慶次とばったり会った。どうやら私に会いに来たらしい。
「悪いな。昨日あんなに飲ませちまって」
「いえ、限界わかってて飲んだ私も悪いんで」

心配そうに覗きこむ慶次には力なく笑った。あの盃に注がれたからには飲みきらないと!とかお笑い芸人じゃあるまいし。二日酔いになるなんて簡単に予想できたのに。

「私、何か失礼なことしませんでしたか?」
「特にはされてないぜ?酔ってすぐに桜が綺麗だぁ!っていって木登り始めちまったし」
「木登り…」

私は猿か。

「そんで政宗と小十郎が来て大騒ぎになってさ…ってあれ?覚えてないのか?」
「え、ええ、まったく…」
酔っぱらった後に政宗と小十郎が来ただって?全然覚えてないんだけど…。慶次の言葉にタラリと冷や汗が伝う。何で二人共何もいってこないんだろう。

「け、慶次さん。私、何かしでかしちゃいました?」



*



慶次に話を聞いたは慌ただしい足取りで政宗の部屋へ向かった。頭がぐわんぐわんと揺れるがこの際どうでもいい。小十郎に見つからなければ。

「政宗さま!」
「Oh。Something wrong?」 (どうかしたか?)

小十郎と鉢合わせず、ガラッと勢いよく襖を開けると休憩とばかりに煙草をふかす政宗がゆっくりこちらを見やる。
寝起きのような肌蹴っぷりに一瞬目のやり場に困ったがとりあえず顔だけ一心に見つめた。

「昨日のこと、全部忘れてください!」
「何だぁ?藪から棒に。昨日っていやぁ…ああ、例の花見か」
「そうです!」
「酔っぱらって木に登って俺を呼び捨てにするわ暴言はくわ好き勝手やってくれたあれか」
「え!う、そうです…」
「そんで俺に抱きついて城に着くまで抱っこしててくれってせがんでずっと離さなかった昨日の花見な」

煙草の煙と一緒に吐き出す言葉に気絶したくなった。馬鹿か私は!なんつーことしてんのよ。下手したら無礼者!って手打ちされるレベルじゃない!


「政宗さま。失礼を承知でその辺をずずいっと記憶から抹消してほしいんですが」
「ああ?俺に生意気な口を利いて口を吸ったこともか?」
「口を吸…?………!…な、ななな!それも勿論忘れてください!」

嘘でしょ?!どさくさに紛れてキスまでしてたの私!なんで覚えてないのよ!
あ!そうか。慶次が濁してたのはこれか。道理でモジモジしたり挙動不審に視線を動かすと思ったよ。私のバカバカ!何で人前でキスなんかしちゃったのよ!

「酔った勢いとはいえ、本っ当に申し訳ありませんでした。なので全部忘れてください」

元の世界で酔っ払った時、周りが酒グセは悪くないっていってたのに!あれは嘘だったのか!しかもキス魔って…どんだけ欲求不満よ!と頭を抱えるとすぐ近くに煙草の匂いを感じ顔を上げれば目の前に政宗の顔があって肩が跳ねた。いつの間に。


「忘れてほしいのか?」
「…はい!忘れてください!」

真っ直ぐ見つめてくる政宗にも真っ直ぐ見返せば、彼は目を細め「ふぅん」と続けた。
「俺は忘れたくねぇって思ってるんだが」
「え、何でですか?!」

失態を忘れたくないって何かの脅しのネタにでもする気ですか?と恐々と政宗を見つめればそれすらも面白かったのか彼は小さく笑って「しょうがねぇな」と己の唇を指さし「Kiss me.」とおっしゃった。はい?


「なっ何でそうなるんですか?!」
「刺激的なKissを忘れるには同じKissで記憶を上塗りする方がてっとり早いだろ?」
「そ、それでもですよ!」

何故にキスなの?!と半泣きで訴えたが政宗はニヤニヤ見てくるだけで許してくれなかった。くそぉ。顔を差し出して唇をちょんちょん指さしてくるのめちゃくちゃ格好可愛いじゃんか!


「Give me a smooch,hun.」 (キスしてくれよ、ハニー)


目を閉じて甘い声で囁く政宗に眩暈がした。
ヤダこの人、女の私を挑発してる。すっごくムラムラさせられてる。私が男だったら襲われてるよ政宗さま!そんな変なことを考えながら熱くなった顔で彼の顔をじっと見ていたは、息がかからないように下に吐き出すと唇を着物の袖で拭い汗ばんだ手も拭いた。

じっとしたまま動かない政宗の頬を両手で包んだは息を殺してゆっくりと近づき鼻にぶつからないように顔を少しずらしてそっと口づけをした。


「…これでいいですか?」

呼吸が苦しくなったところで唇を放し、ぷはっと大きく息を吸い込むと長い睫毛を動かした政宗はゆっくりと瞼を開けを見据えた。しかし何も言ってこない彼に不安に思ったはやや強張った顔で「政宗さま…?」と呼ぶと彼は己の唇を親指でなぞりから視線を外した。

「あの、政宗さま…?どうし」
「アンタ、素面と酔ってる時の差が極端だな」
「ど、どういうことですか?」

もしかしてもっと失礼なことをしたのかと冷や汗を流せば昨日はディープキスをしたらしい。流石にそこまでは想像してなくて今度こそ眩暈がして目の前が一瞬真っ暗になった。二日酔いの頭痛が戻ってきたよ。ディープキスなんて文字でしか見たことないわ。辛うじて洋画くらいだよ。何やってんの私。


「政宗さま…本当に申し訳ありません……でした」
「んなことないぜ。アンタとのKissはどっちも刺激的だったしな。Feels so good.」
「や!そういう問題では…?!」

そりゃ政宗はキスに慣れてるかもしれないけど(深く考えたら撃沈案件だけど)褒められたところで喜べるものでもないのですが。赤い顔のまま困惑していると政宗はの手を取り手首にキスを落とした。


「…次からは俺が連れてってやる。だから前田や他の奴に誘われてもホイホイ着いてくんじゃねぇぞ」
「ホイホイって…はい。お願いします」

まるで誘惑に弱いお子様じゃないか。結果だけいえば間違ってないけど。それでも次の約束を取り付けてもらえたのは嬉しかったので、素直に頷くと政宗はにんまり微笑みの髪を梳いてくれた。


「お前、まだ頭痛いんだろ?俺が直々に二日酔いに効く物を作ってやるよ」
「…助かります」
「北の方ならもう少し後でも桜が残ってるだろ。早く治して花見をし直すぜ」
「?!はい!…あいてて」

政宗の手料理と花見のリベンジに大きく頷けば脳が揺れ顔をしかめた。けれど、機嫌のいい政宗の声を聞いてたらそれだけで大分よくなる気がする。現金だなぁ、と思いながらもは一緒に出来るだろう花見を思い浮かべ頬を緩ませるのであった。




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2011.09.19
2016.02.26 加筆修正
2018.10.05 加筆修正
英語は残念使用です。ご了承ください。

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