揺らいで壊れて




『政宗さまには"月にでも帰った"とお伝えください』

あんな言葉いうんじゃなかった。思い返すだけでも恥ずかしくい。
その原因はわかってる。

綱元が政宗の子供が出来るまで帰るなって手紙に書いてあったからだ。

頭ではわかってる。1番目だろうと2番目だろうと気持ちに揺らぎがないなら嫉妬なんて考える必要もないし、この時代はこれが普通なんだし。そう考えるけど感情は相変わらず面白くないって思ってる。それを踏まえて旅に出ろっていったなら綱元は正解だと思うよ。


「離れて少しでも消化できればいいけど」


それでなくとも政宗に怒られそうな伝言と元の世界に逃げ帰ろうと不可解な行動をとった後だ。少しでも落ち着いてもらわないと困る。


結局、が目覚めた場所に元の世界に帰れるようなものは何もなかった。
ただ漠然とあの場所に戻ったら元の世界に帰れるのかもしれないって思ってた程度だから落胆はしなかったけど、この世界に1人置き去りにされた気分になってへこんだのは確かだ。

「(元の世界に戻っても痛みは変わらないのにね)」

この失恋に似た苦しさは当分付き纏うものだ。帰ったとしても2度とこの世界に来れないとわかったらそれはそれで悶々しそうだし。それだったらいっそ同じ世界を感じながら見守ってる方がまだマシなようにも思える。そんな訳で今の頭の中はごちゃごちゃなのだ。



殿!殿!」
「どうしましたかぁって!」

ぼんやり縁側で空を見上げていたら幸村が勢いよく走ってきて床の上にドン!と皿を置いた。置いた皿があまりにも勢い良すぎての身体と団子が宙に浮く。よく上の団子落ちないな。

「甲斐名物の団子でござる!一緒に食しましょうぞ!」
「は、はい。ありがとうございます」

このてんこもり、ゆうに100本あるんじゃないか?この人何本私に食わせる気なんだ。内心これ以上は太りたくない、と考えながらも串を一本取った。
なんだかんだいいながらも幸村が持ってくる団子は旨いのだ。


「美味しい」
「まことに!」

満面の笑みの幸村にも微笑み返した。空には入道雲がもくもくと空に描かれている。
もうすぐ夏も近い。




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2011.09.30

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