他愛のない日常




任務から帰って来た佐助に気がついたのは日が真上に昇った頃だ。水が入った桶を持って走っていくと縁側で丁度忍甲を外してる佐助がいた。

「お疲れ様でした」
「おっちゃん。気が利くねぇ」
悪いね、といって桶を受け取ると手拭を浸しそれを絞って顔を拭いた。「ふぅ、生き返る〜」と呟く声に飲み屋のサラリーマンを思い出したのは内緒だ。

「あ、顔のペイント…」
「ん?ああ。変な顔かい?」
「ううん。やっぱり格好いいなって思って」

今は額あて?も外してるから素の佐助が拝めてしまう。ていうか随分無防備じゃないか。それも踏まえて「やっぱ可愛いですね」と言い換えれば何故かこけられた。器用だな。

「何で可愛いなの?俺様格好いいって評判なんだけど」
「忍が評判なったら困るじゃないですか。忍べませんよ」
こういうやりとりもここ最近のことである。クスクス笑いながら佐助の隣に座ると手を拭いた彼がこちらを見やった。


「じゃあしっかり任務遂行してきた可愛い俺様にご褒美くださいな」


にっこり微笑む佐助は少し屈んで頭を見せる。いい大人が子供に頭を撫でられる光景は傍から見たらシュールだろうけど、いつの間にか定着してしまったやりとりのひとつだ。

「お疲れ様です」

少し硬い髪の毛を撫でるように手を動かし、それからぎゅっと抱きしめて2回ぽんぽんと背中を叩く。意味はないけど小十郎や政宗にされて嬉しかったことを集めたらこうなった。佐助には内緒だけど。

「佐助さん?」
「…あともうちょっと」
手を放しても頭を下げたまま動かない佐助を伺うと彼はもう少し、と強請ってくる。それに少し驚いたが「甘えん坊ですね」と笑ってもう一度頭を撫でた。

「みんな元気でしたか?」
「うん。みたいだよ」
「佐和さんは?」
ちゃんが無事だっていったら喜んでたね」
「そうですか」

何もいわず出て行ってしまったからお世話になった人達がどうしてるか心配だったのだ。だからこうやって佐助が任務の時にそれとなく話を聞いたり伝言を頼んだりしていた。
中でも1番心配してくれてそうな佐和の様子が聞けて安堵の息を漏らしたの首を風が撫でる。

奥州を出て行く時に任務を遂行をしたという報告として長門に髪を渡したのだ。それはひと房だったけど髪の毛がばらばらなのも変だと思ってその後ボブショートまで切ってもらったら幸村に酷く心配された気がする。
いっそ仏門にでも入ってみようかと冗談で言ったら本気で止められたのを思い出し小さく笑うとこつんと、佐助が額を合わせてきた。この人自分がイケメンだってこと気づいてるのかな。気づいてやってるなら本当いい性格してるよね。


「何か面白いことでも思い出した?」
「先日幸村さまが私が尼になるといったら大騒ぎしたのを思い出しまして」
「あーあれね。まったく旦那も少しは落ち着いて物事を考えてほしいよ。ちゃんが尼になるわけないのにね」
「なりませんかね?」
「ならないでしょ」

にっこり近すぎる距離で微笑まれはうっと詰まった。挑発するような笑顔にドキドキしてる自分が情けない。


「でも意外。佐助さんってあんまり人にベタベタ触らないと思ってました」
「…それって遠まわしに触るなっていってる?」
「まさか」
スキンシップは多いなぁとは思ってるけど。意趣返しのつもりでいってみればあからさまに肩を落とすので笑ってしまった。

「俺様も意外だったんだよね。あんまり触るの好きな方じゃなんだけど何かちゃん見てるとこう触ってみたくなるんだよね」
そういって頬に触れた手にドキリと心臓が跳ねた。優しいというかくすぐったいというかを緊張させるには十分で。

「こうしてると疲れがスッとなくなるんだよね。まるでご利益がある岩に触ってる気分」
「私は岩ですか」
一言多いですよ。とじと目で睨めば近くの障子が開き、2人が一斉にそちらを見やった。


「人が怪我で寝てるってのに近くでいちゃつくのやめてくんない?」

顔を見せたのは不機嫌そうにしてる慶次でその不貞腐れた顔に佐助と一緒に噴出した。

「何々?慶次さん寂しいの?しょうがないなぁ」
「えーダメだよ。ちゃん。行かないで〜」
「…俺乗らないよ?幸村じゃないし」

草履を脱いで上がろうとすれば佐助に止められ腕の中に閉じ込められた。本当に触るの好きだなこの人。私を岩だと思ってるみたいだけど。そんな2人のやりとりを白い目で眺めた慶次は溜息を吐いて寝転がるので、その上にダイブしてやったのはいうまでもない。




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2011.09.30

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