それでも許してしまうのだけど
呼ばれた声に応じ、ヒラリと舞い降りる。今しがた主人である幸村が退席したところだ。この部屋には自分と信玄しかいない。
「して、お前はどうだ佐助」
振られた話題に佐助は肩を竦めた。
。奥州の生まれで元は農民。昨年村が焼き討ちに遭い、孤児として片倉小十郎に引き取られる。その後伊達政宗の女中になるが焼き討ちにあった際、記憶を失っているという。
やや出来すぎてる気もしなくもないがよくある生い立ちだ。
しかし幸村には違うように写ったらしく、不幸な身の上と奥州内部に命を狙う者ありと聞いてを守ることにえらく躍起になっていた。
「俺からは特に。監視の報告もこれといったことはありませんからね」
「お前自身はどうだ?」
「俺ですか?……まぁ、いい子だと思いますよ。不便を文句もいわずに大人しくしてますし…そこそこ働きますし」
「素直ではないのう」
ニヤリと笑い視線を向けてくる信玄に佐助は隠しもせず盛大な溜め息を吐いた。どこかで自分の行動が漏れたのだろう。
「あの子をもう少し調べる必要があったまでのことですよ。後でちゃんと報告するつもりでしたし」
「に仕事を与えたのもそうか?」
「はい」
仕事といっても修復工事をしてる前田慶次の手伝いくらいだ。深い意味などない。なのに信玄は顎を撫で「ならばそういうことにしておこうか」と含み笑いを浮かべている。
「だが、あれだけ触れ合っているのなら気付きそうなものだがな」
「ぶっ………な、何の話ですか?」
うわ、マジかよ。ちゃんと事前に気配を調べてたのに。素知らぬ顔でとんでもないことを吐く信玄に佐助は勘弁してくださいよ、とげんなりした顔で彼の背を見やった。
前田の旦那が話…はないな。ずっと俺がいたし。気づかなかったってことはそんだけ気が緩んでたってことだろ。そんな時の顔なんか他人に見せれるものじゃないだろうね。あ〜考えれば考えるほど恥ずかしくなってきた。大将も人が悪いよね。
「に何か感じなんだか?」
「…さぁ、俺にはさっぱり」
鋭く研ぎ澄まされた視線に俺はげんなりとした顔を引き締めた。そのせいで嘘までついてしまう。否、今はまだ断定できないから報告しないだけだ。
に触れて感じる温かい気持ちはなんなのか。あの安らぐ心地好さは何かまだ見つけていない。確証がないものをいっても混乱させるだけなら言わない方が身の為だ。そう自分に言い聞かせた。
それでも感じる罪悪感に似た恐怖を佐助は面に出さないように目を伏せる。
「ふむ。お前が何も感じないというならそうなのだろう。…それよりも、あの話を幸村にするでないぞ」
「が人質として交渉の材料になることですか?」
「うむ。の生い立ちを聞いたばかりだ。同情故に勝手に送り返すやもしれん」
「まさか!…といいたいとこですが否定はできませんね」
自分の心に実直な上司のことだ。を利用してるとわかれば何かしら不満をいうだろう。叶わなければ実力行使の可能性もある。そう考えるとあんまり2人を会わせない方がいいのかもなぁ。
仲良く団子を食べる2人を思い出し、佐助は溜息を吐いた。
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2011.10.04
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