何の話ですか?




入り組んだ廊下を潜り抜けたはヒョイっとある部屋を覗き込んだ。
いつもこの時間に執務をこなしてると佐助がいっていたがどうだろうか。

甲斐に入ったは幸村の好意でこの上田城で過ごしている。表向きは怪我をした慶次の療養と壊した場所の修理の為なんだけど、にとっては隠れる為の場所だ。
本当はもっとこう、人里離れた家に隠居してるみたいに過ごすのかと思ってたけど予想より遥かに自由にさせてもらってる。勿論城の外や政宗達への手紙のやりとりなどはできないんだけど、奥州を出る時変な伝言を頼んだ手前、会いたくないと思ってるのが本音だ。

あまりにも怖がり過ぎて、放電してる政宗と小十郎に追いかけ回される夢を見てしまったから余計にそう思うのかもしれない。

殿?どうなされた?」
「あの、お邪魔してもいいですか?」

戸が開け放たれた風通しのいい部屋で執務をこなしていた幸村は筆を止めこちらを見やる。執務中はあの破廉恥極まりない服を着てる人とは思えないくらい普通に着物を着ていることに少なからず驚いた。

「ああ、かまわない」と了解を得て足を踏み入れると墨を乾かす為か幸村の周りに書状が何枚も床に広がってる。それを踏まないように部屋の端に座った。

「すまぬな。急ぎのものがあって…何か急用でござるか?」
「いえ、慶次さんと話をしてたら佐助さんに追い出されちゃって」

慶次が修理してる近くでお喋りしてたら危険だからと佐助に追い出されてしまったのだ。それでここに来たんです。そういって肩を竦めれば、その様子を思い浮かべたのか幸村はくつくつと笑った。その姿に思わずドキリとする。


「…暫くここにいてもいいですか?」
「構わぬ。この仕事が片付いたら佐助に内緒で団子でも食べぬか?」
「いいですね」

微笑む幸村に笑顔で返すと彼はまた背を向け筆を動かす。その姿が妙に政宗とダブっては膝を抱えた。
政宗の執務室でずっと背を見てたから記憶が反応したんだろう。凄く似てる訳じゃないけど机に向かう姿は変わらない。信玄や抱える家や民、そして国の為に働いてる頼もしい背中。触れたいのに触れられない、恋しくて堪らない大きな背中。

「(どうせならもっと触っておくんだった)」
それはそれでまた切なさが募るのだろうけど。



*



暑い、そう思って目を開ければ射し込む眩しさに目を細めた。パリッという音と共に顔をあげると日向の中に自分がいて、そりゃ暑い訳だと納得した。どうやら自分はいつの間にか眠っていたらしい。頬についた畳の跡をばんやりと撫でた。

「あ、」
腹の辺りが重いと思って見れば何でか幸村が寝ていた。と並んで寝ていた幸村は額や鼻の頭を汗で光らせ眉をひそめている。かなり暑そうだ。

「何で一緒に寝てるんだろ…」

寝る前幸村は仕事をしてたはず。机の方を見れば綺麗に畳まれた書状が山積みになっていた。終わって見てみたら私が眠ってたということだろうか。
腹にかけてある羽織と重石の幸村の腕に、これかけてくれたのは幸村か佐助か悩みつつ欠伸をかいた。失礼な話だけど幸村がそういう気遣い出来るとはちょっと思ってない。

「ん…」
身じろいだ幸村に起きるのかと待っていたが、彼は目を閉じたまま何かを探しそれを手繰り寄せる。どうやら日陰を探していたらしい。起き上がったを陰にしてまたスヤスヤと眠りだした。

「暑いんだけどなぁ」


巻き付かれた腕に頭を垂れた。幸村を見れば汗がこめかみから伝い落ちる。よくこんな中で寝ていられるものだ。指で汗をすくったが後からまた伝い落ちる。下手したら脱水症状でも起こしてしまいそうなくらい汗だくだ。

「幸村さま。こんな暑い所じゃなくてもっと涼しい場所で寝ましょう。ね?」
「む…ぅ」

貼り付いた髪をよけながら起こしてみたが敵はかなり手強いようだ。さっきよりも強い力で抱きしめられ猫のように幸村が丸くなる。
もう少し様子を見てから起こそうか、と半ば諦めたは襟元を少し開け風が入るように手で扇いだ。私まで脱水症状おこしそうだ。


「失礼いたします。殿、信玄様の使いが参りまし…た…」
「?わかりました。今幸村さまを起こします」
汗で濡れてる幸村の髪や額を袖で拭っていると、丁度部下の人がやってきてこちらを見るなり目をこれでもかと見開いた。寝てる幸村の代わりに答えてみたものの、部下の人はとんでもないものを見た!という顔で慌てて去ってしまう。

「幸村さま、幸村さま。起きてください!信玄さまの使いの方がいらっしゃいましたよ」
「ん…?お舘様…?」
「あ、起きた」

それは起きるんだ。本当にお舘さま好きなんだねぇ。
クスクス笑いながら挨拶をすると欠伸を噛みしめながら幸村が返してくた。目を擦る姿が妙に可愛い。うん、やっぱり政宗とは違うよ。幸村は可愛い。

「それにしても暑いでござるな」
「随分寝ちゃってたみたいですね。起こしてくれれば良かったのに」
「いや、気持ち良さそうに寝てる殿を起こすのは忍びなくてな。それより殿、髪が」
「ぐしゃぐしゃですか?」

笑う幸村に慌てて手櫛でとかすと頬に貼り付いた髪を梳いて整えててくれた。指が通る度、感じる風が気持ちいい。

「汗だくになってしまったな」
「水浴びしたいですね」

「あ、あのぉ」


声がする方を見やれば先程の部下以外に数人の男女入り交じった大人がじっとこっちを見ていて、は幸村と一緒に肩を揺らした。

「な、なんだお前達?!」
「うぅっ幸村様おめでとうございます!」
「え?」
「今日はお赤飯にしますね!様の好きなものもご用意致しますよ!」
「こんなめでたい日はない!今夜は宴だあ!」


「「はぁ?」」


いきなりめでたいめでたいと騒ぎ泣き出す大人達にと幸村はなんのことかわからず首を傾げたのはいうまでもない。




-----------------------------
2011.10.04
とっても勘違い。

TOP