天然?




今日は湿気が多いのかダラダラと嫌な汗が伝い落ちる。まるで火あぶりの刑にあってるような気分だ。は今まさにそんな気持ちで正座していた。隣には幸村が同じような顔をして正座している。目の前は勿論。

「まったく!何してくれてんのさ!!」
「「面目次第もございません…」」

佐助である。

と幸村が首を傾げてる間にお祝いだ祝言だと大騒ぎになったのを収めてくれたのはやっぱり佐助だった。近くに座ってる慶次は「めでたいね〜」なんて他人事のようにいって眺めてただけだし。

「でもまさかこんなことになるなんて思ってなかったんですよ…」
ちゃん!だからいつもいつもいってるでしょうが!嫁入り前の娘がフラフラしたり気を緩めちゃダメだって!」
「いや佐助。あれは殿のせいでは」
「勿論旦那のせいでもあるんだよ!未だに嫁さん貰わないからこういうことになるんじゃない!!」
「なんだ幸村。ご正室もまだ取ってなかったのかい?」
「そっ某はまだまだ未熟ゆえ、そのようなことは一切断つつもりでお館様にお使えする所存」
「っかぁ〜そりゃ周りも心配するわけだ」


呆れた顔で見てくる慶次に幸村は顔を赤くして立ち上がった。
「お舘様に認めていただかぬうちは守れるものも守れないと思い某は…!」
「はいはいわかってますよ旦那!前田の旦那も邪魔するなら出てってくれる?」
「へーい」
「騒いでた連中には何もない他言無用っていっといたけど、これでちゃんを隠しておけなくなったから覚悟しといてよね」
「覚悟…?」

「一応これでも一部の者にしかちゃんのこと教えてないんだよ。でも今回の騒ぎで難しくなった。今城の中は旦那とちゃんの関係の話とちゃんが何者かの話題で持ちきりだ」
「ああ俺も聞いた!ってどこのお姫様なのかって」
「ホラね。大将にも伝えておくけど、最悪場所を変えることになるかもね」
「なんと?!」
「しょーがないでしょ。ちゃんが竜の旦那の預かりものだとバレたら正式な扱いをしなきゃいけない。身分がつくならお姫様としてそれ相応の格好とかしてもらわなきゃいけないし、都合が悪ければそれこそ人里離れたとこに住んでもらうしか」
「それはならぬぞ!!」


幸村との噂は思った以上に大きな波紋を広げてるらしい。それ相応のお姫様ってもしかして暑苦しい着物を何枚も重ねて着るあれも入るんだろうか。この夏に?うわぁ。嫌だ。
想像してげんなりしていると隣の幸村がいきり立った。

殿が人里離れた場所に住むなど某は許さぬ!そんな寂しい想いをさせられるか!!」
「ならぬもなにもちゃんを無事に置いとくのが先決でしょ。それとも噂どおりにちゃん娶るつもりなの?」
「うぐっ…」
「それも含めて考えてものをいってよね」

子供じゃないんだから、と佐助は溜息を吐いた。そうか。姫でいれることになってもいつ室に入るかと周りが噂するだろうから流れは自然と幸村の奥方コースになるってことか。横をみやげれば同じようにこっちを見ている幸村と目が合った。顔が真っ赤だ。


「某は殿を妹のように思っているでござる」
「恋心は持ってないってことかい?」
「こっ恋など某は…」
「前田の旦那」

益々赤くなる幸村に佐助が慶次を睨んだ。色恋が素人の幸村には難しい難題だったらしい。ちょいちょいと幸村の袴を引っ張るとはにっこり微笑んだ。


「ありがとうございます幸村さま。そのようにいっていただけて私も嬉しいです」
殿…」
「私も幸村さまのことを兄だと思ってお慕いしてもよろしいですか?」
「っ…勿論でござる!!」

どちらかというと大きな弟のイメージで見てたけど。しゃがみこみ、視線を合わせてきた幸村はぱぁっと顔を輝かせるとの手を覆うように握り締めてくれた。

「それにしてもどうやってあいつらを勘違いさせたわけ?」
「うーん?…確か昼寝から覚めてあまりにも暑かったからこう掛衿を」
「そういえば汗だくだったのだ。佐助湯浴みの用意はできるか?」
「幸村さまはこの辺で丸まってて」
「もういいでしょ!ちゃん隠して隠して!」


広げた掛衿をぐいっと戻された。佐助が睨みつける方を見れば慶次が興味津々で覗き込んでいる。「確かに勘違いするかもなぁ」とぼやくと佐助が更に目を吊り上げた。

の首周りは白くて綺麗なんだなぁ」
「前田の旦那はもう部屋に戻りなよ!さっさと戻らないと明日みっっちり仕事やらせるからね!」
「げ!そりゃ勘弁!!」
じゃあな!!!手を上げた慶次は颯爽と出て行ってしまった。相変わらず逃げるのが早い。


「佐助」
「わかってますって!ちゃんも部屋に戻ってちゃんと寝るんだよ!それから今度やらかしたらお仕置きだからね!!」
「は、はい…っ」
いうだけいって佐助は姿を消した。部屋に残ったのはと幸村だけで急に部屋の中が静まり返る。


殿」
「はっはい!」

再び視線を絡めてきた幸村は手を伸ばしそっとの頬に触れた。そのくすぐるような仕草と温かさにドキリとしてしまう。

「某、妹がいなかったので殿にいっていただけて本当に嬉しかったでござる」
「幸村さま…」

「どうか末永くこの城に留まっていてくれよ」


それはまるで告白のように響いてを硬直させたのはいうまでもない。




-----------------------------
2011.10.04

TOP