拠りどころ




壊した壁の修復も粗方目処がつき、休みをもらった俺はを連れて上田の城下町に来ていた。懐には出ると思ってなかった賃金が収まっている。

「よぉし!今日は俺の奢りだぜ!好きなものを買ってやるからどんどんいえよ!」
「ありがとう慶次さん!ていいたいとこだけど、私もあるんだなぁこれが」

私も働いてるからお小遣いもらったのよ。とは懐から巾着を見せニヤリと笑った。

はじめこそ、籠の中の鳥のようにを城の中に閉じ込めていたが最近になってやっと城の外も出歩けるようになったのだ。日に照らされるの顔を見た慶次は良かったな、と彼女の頭を撫で人が多い方へと歩いていった。

2人で団子を食べたりに鮮やかな着物を買ってやろうとして止められたり(派手だっていわれた)、小間物屋でが物思いに更ける顔を眺めてたりして楽しんだ。


「あ、」
「どうした?足疲れたか?」
声を上げたに疲れたのかと声をかけたがどうやら違うらしい。が手にしたのは綺麗な髪飾りでも着物でもなくただのカブで。それがどうしたと問えば歯切れの悪い声が返ってくる。

「このカブ、奥州より大きい」
「そうだな。こっちは気候も暖かいし育ちやすいんだろうな」
「それって土壌も豊かってことですよね。いいなぁ」

その顔が本当に羨ましそうで驚いた。まるで次の言葉は政宗にも食べさせてあげたい、とかいいだしそうだ。


「土が豊かっていうなら、ここの土を分けてもらったらどうだ?」
「うーん。いい考えなんですけど持ち帰ってもちゃんと育つかどうかは…。土自体は奥州も悪くないんですよね。小十郎さまの畑とか。多分日光の熱しゃ量とバクテリアの繁殖が…」
「ねっしゃりょう?ばく…?なんだそれ」
「…スミマセン。なんでもないです」

しまった、という顔をするのでそれ以上聞かなかったがは腕を組み、まだぶつぶついっている。

「ミミズがたくさんいたら土が…いやいや、あんなのたくさん見たくないし。やっぱり肥料を分けてもらった方が」
。もしかして我慢してるんじゃないか?」


覗き込み目を合わせるとは目を何度も瞬かせた。
「なんで?」
「あんた今いい顔してるぜ?無理して独眼竜達のこといわないでいたろ?」
「……あ、」

思い当たる節があったらしい。気まずそうに頬を掻いたは小さく笑った。

「そこまでじゃないですよ。慶次さんといるの楽しいし」
「けど一緒にいたいだろ?」
甲斐に来てからは一度も政宗達の話をしなかった。わざと話さないでいたのはいらぬ情報を漏らさないためかこれ以上寂しくならないためのものかはわからない。

「俺は甲斐にも奥州にも属さない風来坊だ。だから俺にくらい弱音吐いたって構わないんだからな」
「……慶次さん」

けど不安で寂しいのはわかってるから。の頭をポンポンと撫でれば目を細めたが手首に巻いている山吹と瑠璃色の髪紐を見せてくれた。


「これ。政宗さまに貰ったものなの。だから大丈夫だよ」
「…そっか」
「でも辛くなったら頼ってもいい?」

髪紐を見つめるはどこか寂しそうで触れれば壊れてしまいそうだ。そんな目で見つめられたら嫌なんていう奴はいないだろ。

「ああ。そん時はどーんと頼りな!」

胸をどんと叩くと肩に乗っていた夢吉も同じように自分の胸を叩く。それを見て笑ったの笑顔はとても綺麗だった。




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2011.10.11

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