ほんわか




「ゆきむらあああああっ」
「ううぅお舘さまああああっ」

ずどおぉぉん!ぐわしゃあああん!という地響きのような音には文字通り身体が浮いて布団から飛び起きた。夜着のまま外に躍り出たは辺りを見回すが地震のような雄叫び以外城内は朝の静けさを保っていて呆気に取られた。

そこではたと気づく。
これってまさか殴り愛?!


「しまった!見に行かないと!!」

BASARAファンだったら必ず成し遂げないといけないイベントの1つだろう。
"ううおやかたさまあああ"と響く声には逸る気持ちを抑え声のする方へ走っていく。

「うわっ」

中庭に出るといきなり視界が真っ暗になり浮遊感に襲われた。逆らう重力に思わず目を閉じれば背中とお腹に何か当たってることに気づく。更には頬には温かい体温まで。


「おー偉いね。さすがちゃん。ちょっとやそっとじゃもう驚かないか」
「あ、おはようございます佐助さん」
「はい、おはようさん」

瞼を開ければ、足元には瓦、身体は佐助の足の間にすっぽり収まっている。少し火薬の匂いがすると思ったらそういうことか。

「ここなら被害も遭わずにすむだろうからね。ほら、あそこで殴りあってるのが真田の旦那と大将だよ」
「うわっ痛そう」

指をさしたのは瓦礫の破片も飛んでこない顔が判別できるか否かの遠い距離で、自己主張の激しい赤がの目を捉えた。あのもふもふしてるのがお舘さまだろう。それで全速力で走ってるのが幸村か。
信玄の大きな拳が振りかぶり幸村の顔が変形するくらいのパンチに顔を歪めると「そうだよね。その反応が正常だよね」と安堵に似た溜め息を吐く迷彩忍者に少し同情した。幸村はそのまま庭に突っ込んでいく。あの辺慶次が直した辺りじゃなかったっけ…。


「おっと。大将と旦那がお呼びだ」
「うわわっ」
やっと殴り愛が終わり佐助はを抱え立ち上がる。横抱きにされ世に言うお姫様抱っこの浮遊感に驚いていると視界が急に変わり反転したかと思ったら視界いっぱいに赤が広がった。

「おおか!」
「おはようございます。信玄さま、幸村さま」

佐助に下ろしてもらい、見上げた2人はやたらと高かった。うーん。首が痛い。それに熱気も凄い。これ絶対夏だからじゃないよ。この2人から出てるよ。温暖化進めてるのこの2人といっても過言じゃないくらいムンムン熱気が来てるよ。どんな身体の構造してるの?

「こんな朝早くからどうかしたか?」
「どうかしたかじゃないですよ!旦那達の煩い掛け声にちゃん起きちゃったんです!!」
「さ、佐助さん!」
「おおそれはすまなんだ。少々熱が入ってしまったようじゃのう幸村」
「はっ!これはお舘様が不甲斐ない某の為の鍛錬。殿にはお恥ずかしいところをお見せした」
「だだ大丈夫です!熱が篭ったお2人を見てたら私も元気になってきましたし!」
「おおっそうでござるか!ならば殿もお館様の拳を」
「だーんな!ちゃんは女子だよ?それにこんな小さい身体で大将の拳受けたら大怪我じゃすまないでしょ」


謝る2人に慌てて言い繕えば殴り愛に誘われてしまった。でも私は殴るより見てる方が好きなんだよなぁ。そんな心のぼやきを聞いたのか佐助が助け舟を出してくれ、それを聞いた幸村は少し残念そうだったが頷いてくれた。
体格が同じくらいのいつきならまだしも普通の人間にその拳は無理だと思う。殴られてテンション上がるのは幸村ぐらいだって。

しゅん、としている幸村にどう元気付けたらいいかなあ、と佐助に意見を仰ごうとしたらしたら大きな手で視界を覆われ、目の前にお舘さまが現れた。
まさか抱きかかえられると思ってなかったは近くなった信玄に何度も目を瞬かせ、ピッと背を伸ばす。政宗よりも、小十郎よりも凄い安定感。さすがお舘さまだわ。

「はははっよ。幸村を責めるでないぞ。こやつはこやつなりにお主を思うてそういったのだ」
「はい。存じております」

お、どうやら助け舟を出してくれるらしい。信玄の片腕に抱えられながらにこやかに頷けば彼も目を細めにっこり微笑んだ。それから幸村に視線を落とすと自分の考えを汲んでくれていた…もとい信玄に目を輝かせ見上げている。崇拝者の目だ。

「幸村さま。あの、また見に来ても構いませんか?」
「?!無論!!」

キラキラと羨望の眼差しを向けてくる幸村にお伺いをたてれば、耳をピンと立てたような顔で見られ、嬉しそうに頷かれた。なんだかぶんぶん振ってる尻尾まで見えそうだよ幸村。

その横で信玄が佐助を見てにんまり笑ったことをは知らなかったけど。



*



「可愛いですねぇ」
幸村や信玄と別れ、は着替えの為に部屋に戻っていると「誰が?」と後ろから声がかかった。勿論佐助だ。てっきり幸村達の世話をしにいくと思っていたんだけど彼は何も言わずに着いてきている。

「勿論、幸村さまですよ」
「……真田の旦那にはいわないでよ」

落ち込みそうだから。肩を竦める佐助には笑って頷いた。まぁどこかでついぽろっといいかねなそうだけど。
「まさか大将まで可愛いとかいわないよね?」
「いいませんよ。信玄さまは格好いいです」

あのもふもふした兜を被ってる時は可愛いかもしれないけど。多分そっちはいわないだろうな、と思ったところで自分が使わせてもらってる部屋に辿り着いた。


「部屋の位置、ちゃんと覚えたようだね」
「そうですね。大分慣れましたから」
「……」
「……」
「……」
「……佐助さん。私着替えたいんだけど」
「うん。そうだね」

帯に手をかけても去らない佐助にあれ?と思って声をかけるとどうしようかなぁ、という顔で目を彷徨わせてる彼がいて。なんだろう、とも考えていたけどいつもより下の視線に気がついた。彼には珍しく膝をついてしゃがんでいるのだ。


「お仕事お疲れ様でした」

そうだ。佐助と会うのは3日ぶりなのだ。なんかいつも近くにいるような気でいたからしっかり抜けてたよ。はごめんね、という気持ちも込めてぎゅうっとめいっぱい抱きしめ頭を撫でれば「苦しいよ」と苦笑された。

「おかえりなさい。佐助さん」
「ただいま。ちゃん」

無事でなによりです、と微笑めば照れくさそうにはにかんだ佐助が凄く可愛いと思った。




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2011.10.25

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