ヘルプ!ヘルプ!




今日は慶次とブラブラと城下町の外れの方まで散歩していると武田軍の人達と遭遇した。その人達は普段は農業をしている所謂『農兵』の人達で以前橋の修理工事で顔見知りになっていた達は呼ばれるままに彼らの元へと向かった。

「何してるんだい?」
「いやあね。前の戦で拾った火縄銃やら刀をもう一度使えるようにできねぇか色々試してるんだけど中々うまくいかなくてさあ」

「この銃なんか水を吸っちまって火薬を入れてもうんともすんともいわねぇ。慶次のあんちゃん、何かいい考えはねぇかい?」
「うーん。そうだなあ…見た感じまだ使えそうだよな」
「そうなんだよ。だから捨てるにも捨てれねぇし、なんとか直す方法はねーかい?」

うーんと腕を組む男達の中心にはかき集めたらしい火縄銃やそのパーツに欠けたり折れたりしてる刀、それから具足など戦に使うものが勢ぞろいしていた。具足の色が赤だったからきっと前の戦で不要だと捨てちゃったものを持ち帰ったのだろう。
一瞬、追剥みたいなことを思い浮かべ、ゾッとしたがそれを無理矢理気づかないフリをして慶次が持ってる火縄銃を見た。


「中は掃除したの?」
「しましたともさ。天日干しもしたし、覗けば綺麗になってるって様だってわかるはずだべ」

確かに中を覗けば地面が綺麗に見える。ただこれだけ長いと天日干ししても乾きづらいかもしれないなあ。日差しも強いが湿気も多いのだ。これだけ自然溢れる世界なら朝露だけでも湿気ってしまうだろう。

「わわっ様!手が汚れちまいますよ!!」
「何を今更」
修理工事の時気兼ねなく呼んでくれてたのに、と思いながらは銃口を手で塞ぐと慶次に火穴から息を吹いてもらおうと思った。ちゃんと空気が通るか確認する為だったんだけどこっちも不思議そうに見てくる。この鉄の銃結構長くて重いのよ?しかも両手塞がってるし。

「慶次さん早くして。腕が痺れる…」
「あ、ああ。でもこれで何がわかるんだ?」
「火穴が塞がってないか調べるの。息が届かなければ詰まってるってことでしょ?」
「「「「おお〜…」」」」
「いや、そんな感心することじゃないと思うんだけど…」

恥ずかしいな。感心する男達になんともいえない表情で慶次に息を吹いてもらうと掌をくすぐる空気を感じた。ここが詰まってる訳ではないらしい。うーん、と声を漏らしたは期待するような男達の視線を見ないように視線を動かし「あ、」とひらめいた声を出した。


「じゃあ、火にかけてみましょうか」
「えええ?そんなことしたら溶けちまうでしょーよ!」
「それに爆発とかしたらどうすんだ?!」
「大丈夫ですよ。掌に火薬ついてないですし」
「つってもな。鉄砲ってどうやって作るのか知ってるのか?火で溶かして作るんだぜ?」
「知ってますよ。だから少し炙るだけでいいんですって。それなら変形もしないだろうし中に水分があるなら蒸発すると思うんですよね」

試しにやってみたら?というに慶次を含めた男達は半信半疑で火を熾し銃を炙ってみた。火の先端のところに銃を掲げさせ(ちなみに人がいない方向に銃口を向けている)、待つこと2分くらい。冷めるまで数十分。
慣れない手付きで銃底をネジではめ込み、銃床という木で支える部分をくっつけ用意する姿を恐々と見て、いざ発砲すると見事向こう側にある木に命中した。


「う、わー…結構煩いんですね…煙もすご…」
「え?もしかしてって火縄銃使ったの初めて見たのか?」
「うん。見せてもらったことはあるけどちゃんと触ったの初めて」

以前触らせようとした政宗を小十郎が必死になって止めてたっけ。
思い出してクスクス笑っている周りでは羨望の眼差しで男達がを見つめている。勿論本人は思い出に浸っていて気づきやしない。

「それにしても火で炙っただけでできちまうとは…こりゃ盲点だったぜ」
「でしょ?」
火なんて、なんでも溶かしちまうもんだと思ってた、という声には頬杖をつき「でも、」と付け加えた。


「これだけいい材料が手に入ったんだから鍬とか鋤を作ればいいのに」
「「「「ああ…っ!」」」」


それが今日1番の盲点だったようだ。



別に武将になって名声を轟かせたいって訳じゃないみたいだけど、あの熱血体育会系の気迫に影響されたのかここにいた全員、「武田様や真田様のお役に立つ物を準備しておきたい」と常々考えてコツコツ修理をしていたらしい。
しかし、残念ながら刀はともかく火縄銃は日々進化していて古くなった形体は捨てられる。前に嬉々として語っていた政宗の言葉を思い出し彼らが持ってる火縄銃を見て2世代くらい前かな、と判断していた。

素人が修理をして暴発した例も少なくないって聞いてるし手に入れた武器は自分達の使う道具にしてしまうのが1番だろう。あとで慶次にも相談しておこうと、と考えていたらその本人がの隣に座った。

「しっかしはスゲェなあ!実は鍛冶師の才能でもあるんじゃねぇーの?」
「そういうのはないですよ。少し考えたらみんなも気づく範囲ですって」

熾した火の周りにはいつの間にか村の人達が集まって宴会が始まっていた。この時代、水も大事なら火も大事なのでそこで夕食を作ってしまおう、ということになったらしい。
そのご相伴に預かっていたは1番いい席でこの村で1番いい器で煮汁を飲んでいた。質素だけど身体が温まるなあ。

「いやいやいや!気づかねぇって!火の先端が熱いとか下の方がそれほどじゃないとか初めて聞いたぜ?」
「とかいって信じてないでしょ?」
「あー…今度試してみる」


視線の奥の方では先程が試した蝋燭で遊ぶ大人達がいる。その光景はなかなかに滑稽だが見える笑顔になんとなく笑みがこぼれてしまう。
火の温度は下の方が低い。そう説明する為に蝋燭を用意してもらって男達が注目する中、は意を決して蝋燭の芯を摘み火を消したのだがその光景はあたかもマジックショーのようなものに見えたらしく男達の目が輝いたのはいうまでもない。

にしてみれば雷を落としたり火を噴いたりしてる方がよっぽど凄いと思うんだけどここの人達は度胸試しをするかのように蝋燭消しを楽しんでいた。ただし隣にいる慶次だけは引き気味に見てるのだけど。
意外と度胸ないな風来坊、そう視線を流せばお椀を渡された。勿論煮汁が入った器じゃない。そして煮汁を貰ってこい、というわけでもない。鼻先にはほんのりアルコールの匂い。

「久しぶりに飲みたいだろ?」
にかっと笑う慶次にも似たような笑みを浮かべた。


空は藍色に染まり、闇色に包まれる中達のところは温かい色に包まれていた。爆ぜる薪の周りを村の人達が独特のテンポで歌い踊っている。
酔っ払いの慶次もそれに混ざっていて、大柄の彼が女性に教えてもらってる姿を見た男達が冷やかしの言葉を投げる。困ってる慶次を眺めながらも笑い、他の人達に合わせて手拍子を打った。

様…っと、さん足りてるかい?」
「千太さん!」

失礼しますよ、と隣に座り込んだ千太はにっかり笑うと薪の周りで踊る人達を眺め嬉しそうに目を細めた。先程「せめて慶次さんと同じ呼び方にしてください!"さま"はいりません!」と豪語したせいか呼び方はぎこちないものの距離感はずっと近い。

のお披露目以降、他のところにも飛び火していて仰々しい扱いを受けることが多くなった。それは勿論農兵のところにも行き渡っていてさっきまで千太達も遠目に敬われていたのだ。
修理工事をしていた時のことを知ってるとしてはかなりのダメージで、いい加減にして!と啖呵をきった訳だが笑ったのは慶次だけだった。


「いい村でしょう?」
「そうですね」
「幸村様が治めてる村ですから」
「幸村さまもやりますね」

「へい。俺は戦孤児だったんですが幸村様の父君の昌幸様に拾われこの村で過ごすようになりました。昌幸様が亡くなられた後も父君が残された場所だからと何かと気にかけてくれてるんです」
「そうだったんですか」
「再び幸村様がこの地を統治するようになって、嬉しくて嬉しくて。俺は死ぬ気でお力添えしようと思ってます」

オレンジ色の炎に照らされた千太は目をキラキラと輝かせ笑みを深くする。その瞳が幸村のように綺麗で嬉しくてニコニコしていると、千太はの方を見てなんとなく照れたように笑い「その、」と切り出す。なんとなく空気が変わったように見えた。


「それにしてもさんはまだお若いのにいろんな知識をお持ちなんすね」
「そんなことないですよ。中途半端にかじったものばかりで…まだまだ勉強不足です」
「そんな!俺、昼間のさんを見て感動しました。勿論知識の多さもだが俺達なんかの為に着物が汚れることも気にせず親身に考えてくだすったり、こうやって一緒に馬鹿騒ぎしてもらえるなんて夢にも思ってなくて」
「あら。前は一緒におにぎり食べたじゃないですか」
「あ、いや!それは…そうなんですが。身分を明かしてからも俺達と話してくださるのがとても嬉しいんです」
「……」

「幸村様にはもうこの人しかいないって思いました」
「へ?」
この人ってどの人ですか?
「勿論さんですよ」

「うえええええええっ?!」


の雄叫びに周りの目が一気にこっちへ来た。驚きのあまりはお椀を落とすし顔を赤く染めたまま固まっている。それを千太は真剣な表情でに押し迫った。

さん。その、失礼とわかっちゃいるが幸村様とのこと、真剣に考えちゃくれないか?!」
「…へぇ?!」
「わかってる!様は勉学の為に甲斐にいなさるんだろ?けど、幸村様はこういっちゃなんだがそういうことにはからっきしで、誰かが押してやらねぇと進むものも進まなくなっちまいそうでさ」
「そ、そういうのは当人同士で話すものでは…それに、幸村さまだって好きな人がいるかもしれないし…」

いってて本当にいるのかなあ?と思ったことはこの際伏せておこう。そのの発言に目を丸くした千太で、こっちを見つめながらぽつりと呟いた。

「その好きなお人ってのは様でしょう?」
「へ?…いやいやいや!そんな訳ないじゃない!って!慶次さん茶化さない!!」
「ええ〜」
「ええ〜じゃない!!」
なにが「よっ!もてる女は辛いねぇ」よ!思わず慶次に噛み付いちゃったじゃない。でもそうだよ。なんで幸村が私を好きなわけ?妹だっていったんだよ?それを千太に話したけどなんでかあっちも引き下がらなくては混乱した。だからつい漏らしてしまったんだ。


「千太さん!私には…その、心に決めた人が」

「「「何だって?!」」」


ぐいぐいと押してくる千太に堪りかねてつい、ぽろっと好きな人がいると口にすれば会話に混ざってなかった人達が一斉に声をあげてきた。
何っ?!と視線を向ければここに集まってる人達の殆どが驚いた顔をしてそれから頭を抱えたり嘆いたり泣き出したりする人達がその場を占領した。

「だからいったんだよ!こういうのは早い方がいいって!!」
「そんなこといったってよお!こういう時こそ手順を踏めっておっ母がいってたんだぜ!」
「当たり前だよ!幸村様の場合は普通の嫁じゃ逃げ出しちまうのがオチじゃないか!うちの村まで走って逃げてくるなんて尋常じゃないことさ!」

「だからこそ、様がいいって俺はいったんだよ!ああもうっ」
「つっても俺達農民じゃ意見なんか通らねぇだろうがよ!」
「それにしたって幸村様はなにやってるんだい!こういう機会なんて滅多にないってのに!!」
「佐助様も佐助様だ!こういう時こそ忍の出番じゃねぇか!」
「そうだそうだ!相手を暗殺するなり貶めるなりできることさ、たくさんあるだろ!」

…最後の方はさすがに困るから。
好き勝手に騒ぐ人達に引け腰で眺めていると近くにいたふくよかなおばさんがに前のめりで近づき手をぎゅうっと握り締めた。


様!幸村様のこと、どう思ってるんだい?」
「え、えと…頼りになるお兄ちゃん、です」

凄い。打ち合わせもしてないのにみんなの肩が一斉落ちた。ちょっと面白く感じてしまったが慶次の方を見ようとしたら「様!」と大声で呼ばれた。

「あんたの想い人がどれだけいい人かはわからないけど、幸村様も捨てたもんじゃないよ?いずれは甲斐を背負って上に立つ御方だし、なにより一途でお優しい方さ!一生様を大事にしてくれると思うよ!」


玉の輿なんていいじゃないか!と凄い剣幕で捲くし立てられの顔が引きつった。まるで幸村が婚期を逃した寂しい人扱いだ。

「で、でもそのうち幸村さまにもいい人が現れるかもしれないし」
「幸村様にとって様が一生のうちに出会えるか出会えないかの貴重なお人なんだよ!」

頼むよ!後生だから!!と拝みだした村の人達に今度こそは慶次の方を見て助けを求めた。




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2011.11.27
ダラダラ書いたら長くなっちゃいました。幸村のところは周りがやきもきしてそう(笑)

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