直感で生きる男




ゲームで見ていた頃の彼は熱血おバカ。真っ直ぐで熱くて素直で可愛い。プレイもやり易くて政宗の次にレベルをMAXにしていた。
それがこの世界に来て変わったところといえば意外と頼りがいがあるってこと。女の子に破廉恥だあ!と顔を真っ赤にして走り去るけど殿様の顔もちゃんとあって少し驚いた。

そんな幸村と今、紅葉狩りをしている。天気は快晴。馬に揺られながらは背中にいる幸村に守られてるような変な安心感を感じていた。

「いかがでごさるか?ここから見る景色もなかなかであろう?」
「そうですね。ここも綺麗」

馬を止め、幸村が見る方に視線をやれば穏やかな川に頭を垂らす紅葉があり黄色く色づいた他の葉と混じりあってとても美しかった。それを言葉にすれば幸村は満足そうに頷き手綱を振るう。まだ本命の場所ではないらしい。

幸村から二人きりのデートを誘われた時はどうなるかと思ったけど至って普通に紅葉狩りを楽しんでいた。順々に幸村が案内してくれ、紅葉が見易いようにゆっくりと歩いてくれる。
前にも思ったが幸村の馬使いは上手い。見知らぬ人間を乗せたら少しくらい嫌がってもいいだろうにこの馬は幸村のいうことをちゃんと聞いてくれている。政宗の馬に乗った記憶が一番トラウマになっているにとってかなりの衝撃だったのはいうまでもない。

「もう少しいったところに川辺がある。そこで少し休もうか」
「はい」


にっこり微笑む幸村にも返すように微笑んだ。ここに上田城の面々がいたら泣いて喜ぶだろう。
本当は余計な噂が立つから行きたくないって思ってたんだけど、いかにも楽しみにしてました!という顔で幸村が迎えに来た時、断る言葉も失ってしまった。
幸村は悪くないんだよね。幸村は。問題はその部下なのだから。

現在のところの味方は慶次と佐助くらいだ。その慶次も恋の話題とあって傍観者でいるつもりらしいし、佐助に関しては敵なんだか味方なんだかよくわからないとこがあるんだけど幸村とくっつけようというつもりはないらしい。
そういえば最近心なしか佐助の視線が意味深なんだけどあれはどういう意味なんだろうか。赤や黄色に染まる木々を眺めながら姿が見えない迷彩忍を探そうとしたけど保護色ゆえか見つけられなかった。


川辺に着くと幸村はを下ろし、愛馬の首を撫でながら水が飲めるところまで連れて行った。その大事な扱いにまた新たな一面を見た気分になる。

「そんな風に女の人にもできればいいのに」
「な、何かいったでござるか?!」

ぼそりと呟いた言葉が聞こえたのか、幸村には珍しく意味を汲み取って顔を赤くした。それくらいで赤くなっちゃダメでしょうに。あまり触れたくないけど、でもこの城主がはっきりしないから私も周りも困るんだよね。
慌てる顔も着物も赤い幸村には大きく深呼吸をすると「幸村さま」と呼びかけた。


「幸村さまはいつかお嫁さんを娶るんですか?」
「なっ何故そのようなことを…!」
「単純な興味です」

「……う、む。なくはない…そのようにしなければ真田家の血筋が途絶えるのでな…しかし、某は」
「お舘さまに認めてもらうまではお嫁さんはとらない、と?」
「う、うむ」
「じゃあ幸村さまを好きだっていう人がいたらどうするんですか?」
「んなっなんと!」

そんな馬鹿な!という衝撃的な顔で(それでも顔が赤い)こっちを見てくる幸村に、は内心苦笑したが気取られないように気軽な感じで微笑んだ。
「例えば、の話ですよ。もし今幸村さまを慕ってる人がいたらどうします?」
「え、あぅ…」
「それでもお舘さまの忠義の方を大事になさいますか?」

それでも信玄が大事だといえば話はそこで終わり。まあ、幸村はお舘さま命だしそれに代わるものなんてないだろうけど。でも大事なものをもうひとつ増やしてもいいと思うんだよね。


「私は幸村さまがそんな器量の狭い方だと思ってないんですよ」
…」
「今は佐助さんの他にもたくさんの部下の方がいるじゃないですか。それに千太さん達や城下町の人達のことも抱えてるんですよ。今更1人や2人増えたところで"真田幸村"が揺らぐわけないじゃないですか」

「そ、そうでござろうか…?」

あとは女の子の免疫さえなんとかなれば、と考えたところで愛馬から離れた幸村が真っ直ぐこちらに歩み寄りの両手を握り締めた。あれ?なんか凄く真剣な顔してるんだけど。

「…そなたがそのように俺のことを真剣に考えているとは思わなかった」
「あはは…(自分に関わってることだからね)」
「な、ならば、その、俺とめ…めおっ…!!」
「わーっ大丈夫ですか?!」

真剣に語りだしたと思ったら舌噛んだよこの人!大丈夫?!としゃがみこんだ幸村を覗き込めば涙目の彼と目が合った。


「…は聡明でござるな。そなたのような女子に兄だとぬかしていた自分が情けない」
「(えええーっ?!どうしちゃったのー?!)何いってるんですか!幸村さまは頼りになりますよ!政宗さまみたいにお仕事しょっちゅうさぼったりしないし、おやつを隠れて食べるのは困りものだけど…こうやって色々連れてってもらえるの、私は嬉しいです!」
「…っそうか!」

落ち込んだと思ったら浮上したらしい。幸村は砂利の上で正座をすると「殿!」とこれまた懐かしい呼び方で呼ばれた。なんだか改まった物言いにもその場で正座をしてしまう。

殿。某は、お舘様よりこの上田を預かっているがまだまだ修行が足りぬ未熟者だ」
「は、はい」
「某の夢はお舘様がご上洛され天下を統べることと、お舘様に認められ一人前の武将になること…だが、殿がいうこともまた然り」
「……」
「真田家の内を守り、某を支えてくださる方がいればそれ以上に心強いものはない」
「そうですね」

前半は意気揚々と、後半は顔を真っ赤にして喋る幸村の目はずっと強い意志を持って輝いている。その目がとても綺麗だと思った。


殿。その、某がそなたに見合う男であればどうか、めおっ…っ!」
「きゃーっ幸村さまー?!」

また噛んだのー?!口を押さえ倒れる幸村には慌てて近づき舌の傷を見せてもらった。うわー傷になっちゃってるー。

「血が出ちゃってますね…深くはないみたいですけど。大丈夫ですか?」
「ふむ。らいじょうぶら」

舌を出し、なんとも可愛らしい返しに笑みを作ってしまいそうになったが、潤んだ瞳と目が合ったらそれも引っ込んだ。あれ、なんか顔近くない?

「幸…、」
殿…」


「はーい。そこまでー」


めりっと音がするような引き離し方には思わず尻餅をついた。頭を押さえ込む相手を見れば今迄姿が見えなかった佐助で、彼は幸村の舌を見て「何やってんのー」と呆れた声を漏らした。

「佐助!邪魔をするな!!」
「邪魔?ちゃんを襲おうとしたくせによく言うよ」
「え?」
「ち、違うぞ!某は、ただ…殿の気持ちを聞こうと…っいつつ」
「気持ちって?ははーん、わかった。ちゃんに室入りしてほしいって言いたいんでしょ」
「ええ?!」
「旦那〜周りに乗せられて勘違いしちゃってるんじゃないのー?」

ちゃんはお子様だよ?佐助の馬鹿にした発言が少し気になったが今はそれどころじゃない。幸村が何だって?


「勘違いじゃない!俺なりに考えた結果だ!!」
「へぇ?でもちゃんのことは妹みたいだっていってたじゃない」
「それは、そうなのだが。しかしそれは殿がこの上田に末永くいてくださればと思ってのこと!だが本当の妹であれば嫁ぐのは当たり前。殿が奥州に帰られるかもしれないと聞き、そのようなことを考え…俺は、俺は」

自分の話なのになんだか蚊帳の外にいる気分で話を聞いているといきなり幸村の視線がこちらに向き、バチンとぶつかった。

「俺は殿がこの上田から出て行かないためにはどうしたらいいのかずっと考えていた」
「…旦那、」
殿。無理を承知で聞き届けてもらいたい。どうか某とめおっ…っっ!」


2度あることは3度ある、ということだろうか。近くで佐助が「ああもう。だから止めたのに」と盛大な溜息を吐いている。途中まで凄く格好よかったのにね。
良かったのか悪かったのか、は心のどこかでホッとしながら目の前で悶絶する幸村の頭を撫でてあげた。




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2011.12.01

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