見知らぬ土地で




ふと、気づけばはテレビを見ていた。そこは自分が暮らす為に借りていたアパートで、ベッドに寄りかかりながらぼんやりモニターを眺めている。流れてる映像は時代劇のようだ。背中越しに下げ髪で華やかな打掛を羽織ったお姫様がさめざめと泣いている。

『何故じゃ!何故…っ私はただ殿の御子を産み、……の安寧を願っているだけのに』
『……様…』
『この身が憎い!この身体でなければ殿ともっと触れ合い、話し、憂いも怒りも触れることが出来よう。殿の近くで支えることも…できただろうに』

崩れ落ちるお姫様に侍女が慌てて駆け寄り抱き起こすが、彼女はぐったりしたまま涙を零し床を濡らした。


『いっそこの身体のまま抱いてくださればよいのに…そうすればこの胸の内も晴れるやもしれぬ…』
『何を仰いますか。……様は……様のお身体を想い、こうやって政務で忙しい中足繁く……様の元へ通ってらっしゃるではありませんか。この屋敷とて』
『…ふっこの屋敷は殿の最後の贈り物じゃ。使えぬ女子の私へ送った…呪われた身体の私では子を授かっても……を貶めるものしかならないと…そういうことだろう?』

くくく、とさっきとは打って変わって気が触れたようにお姫様が笑って侍女の手を払いゆるゆると立ち上がった。


『誰でもいい。誰でもいいから私をここから連れ去ってほしい。この身体などいらぬ。魂だけを抜き出し、ここから、同じ身体になろうとも救える世界へ』


ずっと背だけを映していたカメラがお姫様の周りを回って顔を映す。その視線と目が合ったはビクッと身体を揺らすと視線を揺らした。何か見てはいけないものを見た気がして怖くなった。
そのままリモコンでテレビを消すと逃げるように立ち上がった。不安が胸の内で騒いで落ち着かないその足で玄関のドアを開いた。



*



掴んだドアが柔らかくてほんのり温かいことに違和感を覚えたはゆっくりと瞼を開けると目の前に白と紫が視界に入った。

「そろそろ離してくれないかな?」
「へっあ!ご、ごめんなさい!!」

嘘っ半兵衛の手を握ってたの?!と一気に頭が回転したは慌てて手を放し謝った。でも、何故ここに竹中半兵衛がいるのかわからず何度も目を瞬かせ首を傾げた。

「あれ。ここ…どこ?」
「ああ。君はずっと眠っていたから知るはずもないか。ここは秀吉が治める大阪城だよ」
「大阪?!」


なんですと?!と声を上げると半兵衛はクスリと笑って起き上がろうとしたの肩を押し布団に戻した。周りを伺えば天井の色も梁の形も全然違う。少なくともが知る甲斐の屋敷のどれでもないとわかり唾を飲み込んだ。

「まだ病み上がりなんだ。大人しくしていた方がいい」

その方が君の為だ。そういって半兵衛は色素の薄い顔で微笑み布団をかけてくる。その優しさが逆に不気味でならない。

「なんで私がここに?」
「君の能力にひと欠片の才能を感じたんでね。お越しいただいたというわけさ」
「で、でもあそこには」


お手伝いさんとして女中が何人かいたのでは?と、口にしようとして噤んだ。一気に乾いてく喉に緊張が走る。まさか、と頭のどこかで思う反面違っていてほしいと願った。

しかしそれは呆気なく打ち砕かれる。

「ああ、あの屋敷に数人ほど忍がいたみたいだけど…とんだ期待外れだったよ」
「こ、殺したの…?」

思わず出てしまった言葉に唇を噛んだ。かさぶたになっている下唇はすぐに皮が破けじわりと痛みが広がる。聞かなくてもわかってることなのに。


「折角の立てた計画に泥を塗られるのは嫌いでね。全員始末させてもらった」
誰か見知りの人でもいたのかい?と苦笑する彼にはそれ以上聴くことは出来なかった。

「それにしても君はいろんな肩書きを持っているようだね。農民の子だったり、片倉小十郎を後見人に置いたり、伊達家の城女中だったり。1番新しい肩書きは真田幸村の妹だったかな」
「……」
「どれが本当の君なんだい?」


マスクの奥にある半兵衛の目が何かを探るように細められ、の肩がびくりと揺れる。そんなの、こっちが聞きたい。


「私はよ。

全てを暴かれそうな瞳に対抗するにはそう答えるしかなくて。自分の名すらあやふやに感じる自分に、は泣きそうになりながらきつく瞼を閉じた。




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2011.12.08

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