白髪は変態が多いらしい




私という人間は結構図太く出来てるらしい。どんなに落ち込んでもどんなに何もしなくても腹も減るし眠りもするし排泄だってする。ぼんやりしてても毎日が通り過ぎていく。そしてまた冬がやってくる。

「また外を見ているのかい?」

小さな小窓から見える景色を眺めていると背中から柔らかく温度のない声がかかった。振り返ると外の雲よりも白い髪と肌の変態…もとい竹中半兵衛が格子越しに立っている。

「寒くなってきただろう。そろそろ雪も降る頃だと思うよ」
「そうですか」

親しげに話す半兵衛に冷たく返すと彼は小さく微笑んで小さな格子の出入り口から中に入った。は今豊臣の領地内にいる。場所はよくわからないが城内部の牢屋に入れられているのだろう。唯一の救いは地下ではなく外が少しでも確認できることだろうか。


「今日も機嫌が悪いようだね」
「そんなことはありません」

そんな他愛のないいつもの会話を繰り返す。そういう時必ず空を見る半兵衛が不思議だったけどつっこむ気はなかった。

「それより、さっきから視線が痛いんですけど」
「ん?ああ。彼は有能な部下だよ。君もきっと気に入る」

気に入る?気に入るどころじゃないよ。格子越しに正座してる人ずっと私を睨みつけてるんですけど!めちゃくちゃ射殺さんばかりに睨んでてどうやって逃れようか考えてるのに気に入るかどうかの話なの?何これ嫌がらせ?嫌がらせなの?

「半兵衛様。何故このような女に話しかけられるのですか?」
「………」

まるで会話すら時間の無駄だといわんばかりのトンガリ頭…もとい石田三成には顔を引きつらせた。しかも何か若い!トンガリ頭だけど小っちゃい!そんなと三成を見た半兵衛はくすりと笑って刀を鞘から抜き取る。


「っ!!」
「君にはまだこの子の利用価値を教えてなかったね」

あとずさるに半兵衛は躊躇なく前へ進み、の腕を取った。それを振り払うことは出来ない。腕を切り落される!そう思って顔色を青くすると半兵衛は口元を弧に描きの腕に刀を宛がった。

「…いたっ!」

スッと引かれた刃にぎゅっと目を瞑ると腕に熱が広がったのと同時にドン!という音が格子の向こうにある壁を貫いた。その衝撃に三成は格子にぶつかり、のすぐ横には壁だった木の破片が突き刺さった。


「どうだい?なかなかだろう」
「……これは!」
「この娘に危害を加えれば天から罰が下る」
「……」

ぽっかりと開いた穴に三成は開いた口を閉じれない状態で固まっていた。も同じだ。何これ。私にこんな力があったの?そう思って半兵衛を見れば可笑しそうにこちらを見ていた。

「君の能力は利用価値がある。存分に使わせてもらうよ」

秀吉の為にね。固まったを尻目に半兵衛は刀を仕舞うと格子の外へ出て行く。そして動けないんでいる三成に何か耳打ちをし去っていった。残ったのは固まったと三成、それと外に通じる穴があるだけだ。


「…っ」
視線を流せば格子のドアは開いたままだ。そして大きく開いた穴。窓から見る限り城の中でも外の方だ。裾を破って短くしたらもしかしたら走って逃げれるかもしれない。いつまでもこんなところにいるわけにはいかないんだ。だってみんなが心配してる。

三成と見比べ格子に近づこうとずるずる近づいていく。格子に手をかけようとしたところでキィ、と格子のドアが動いた。

「………」
「………」
やばい。目が合った。

「こっちだ」

起き上がった三成はの手を掴むとやや乱暴に引っ張り起こし牢屋からどんどん離れていく。

「え?え?」
「半兵衛様のご命令だ。貴様を別の座敷牢へと移す」

逃げるなよ。三成の抑揚のない声に愕然とした。ずっとあの小窓から地図と脱走ルートを考えていたのに。流れていく外の光景を見ながらは唇を噛み締めた。



通されたのは窓がない本当の座敷牢では肩を落とした。床に敷き詰められた畳に前の牢屋よりも暖かく過ごせそうだと思ったけど…それよりも。

「あの、なんでしょうか」
「……」
「い゛っ!!」

格子を潜り中に入ると何故か三成も入ってきた。そのことに驚いていると彼は無表情にの手を取り顔を近づける。三成はの袖を捲くるとさっき半兵衛が傷つけた赤い線をじっと見つめそしてべろりと舐めた。
ピリッと走る痛みに声を上げたは逃れようと腕を引っ張ったが三成は離すどころか更に力を強め傷のある腕に吸い付く。

「いった!いたたたた!!痛い痛い痛いってば!!!」

傷を抉る気か!バシバシと硬い三成の頭を叩いたが彼は血を吸い出すように舌を使ったりちゅうちゅうと吸っている。吸血鬼じゃあるまいし。


「……なんなのぉ…」

やっと放してもらった腕は真っ赤になってて傷がどこだかわからなくなっていた。恨みがましい目で三成を見れば満足げな顔をしてやがる。何その恍惚そうな顔は。

「竜の血というのも悪くないな」
「あの人に何いわれたんですか…」

ぺろりと薄い唇を舐めた三成に問えば至極簡単だといわんばかりに答える。


「貴様の血を飲めば同等の力が手に入ると聞いた」
「……」

噂に違わぬ妄信バカっぷりよね。そんな力手に入るわけないじゃないか、そう思って脱力すると三成は綺麗な白い布を取り出しの腕に巻きつけていく。手当てをしてくれるらしい。どうせなら最初からそうしてほしかったよ。




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2011.12.08
2013.11.28 加筆修正
家康に合わせて小さくしてみました(萌)

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