甘く、ゆるやかに
痛い…。感じる鈍い痛みに目を抉じ開けると襖が見えた。その絵柄に見覚えがあった。上田城で借りていたの部屋だ。
「私、生きてる…?」
「ああ。生きてるぜ」
返ってきた声に目を見開いたは慌てて身を起こそうとしたが痛む背中にあえなく布団に落ちる。
「バカ。無理するんじゃねぇよ」
「ま、政宗さま…」
差し入れられた手で反転させてもらうとすぐ近くにずっと会いたかった人の顔がありの頬に赤みが差す。
整った顔と強く真っ直ぐな隻眼の瞳。手を伸ばし確認するように頬を撫でれば彼はくすぐったそうに目を閉じた。その感触に涙がはらはらと零れ落ちる。やっと触れたかった。触れられた。その気持ちが涙になり、嬉しくて、たまらなくて頬を伝った。
「政宗さまだ…」
「ああ」
「政宗さま…」
「ん?」
「夢じゃない…?」
「…なら試してみるか?」
細められた瞳が近づきは目を閉じた。合わせられた唇の感触に身体が震えた。
柔らかくて温かくてとても優しい。啄ばむように何度も重ね、味わうそれに身体がじわじわと熱くなる。本物だ。と重なった唇の感触と大きな手の温かさに酔いしれているとぬるりとしたものが歯列をなぞってくる。
「…」
誘うような掠れた声に薄く口を開ければすかさず政宗の舌が入ってくる。手馴れた動きによからぬことが過ぎったがそれはすぐに溶けて見えなくなった。
越後で受けたそれよりも優しいけれど遠慮した様子もなく、荒らされる口内に眉を潜め身を引こうとすれば後ろ頭に手が回り口付けを深くされる。ん、と鼻につく声を漏らせば腰に回った手を更に引き寄せてきて隙間がないくらい密着した。
「あ…?…これって」
「…ああ、これか」
さすがに息苦しくなって彼の胸を押せばひんやりとした金属が指先に当たり、触れてみる。
首を引っ張られるような感覚に気がついたのか、濡れた唇を舐めてから身を離した政宗は(エロいにも程がある)触れていたネックレスに目を細めるとその手を取りチュッとキスを落とした。
「ネックレス…もしかして、ずっとつけてくれてたんですか?」
「ああ。文字通り肌身離さずな」
の手の中には彼に預けた竜のシルバーネックレスがある。これは春の終わり頃に戦に行く政宗にお守り代わりにつけたものだ。まさかずっとつけてくれてると思ってなくて目を丸くすると政宗は口元を吊り上げの額にキスをする。
顔を上げれば濡れた頬を舐めてきた。
「お陰でこうやって生きてに触れることが出来る」
「政宗さま…」
指の腹で目尻を撫でられたはまた涙が零れ政宗に抱きついた。彼はそんなを「会わない間に随分と泣き虫になったな」と笑ったが、放そうとはせず怪我をしてる背を気遣いながらも抱きしめてくる。その温かさに余計に涙が出た。
帰って来た。帰ってこれた。この腕の中に。政宗の下に。
「政宗さま…き…」
「ん、なんだ?I beg your pardon?」 (もう1度いってみな)
「政宗さまが好きです…」
彼の肩に顔を埋め、くぐもった声で漏らしてみたが聞こえなかったようでもう一度、と背を撫でられた。その優しい手に促されもう1度、彼の耳元で囁けば回された手に力が篭った気がした。
も会わせるように政宗をきつく抱きしめればさっきよりも温かい体温が伝わってくる。
生きて帰ってこれたらいおうと決めていた。恥も外聞も迷惑かどうかも関係なく、ただ私の想いを吐露したかった。だって死んでしまったらもうこの人に会えないのだ。
あの座敷牢は他のどこよりも死を身近に感じて怖くて仕方なかった。助けを呼ぶことも出来ず、心を通じ合わせる人もなく、ただ1人で耐えるしかなくて辛かった。夜、夢で政宗に会えた時が、奥州にいた頃が何度を癒してくれたことだろう。
もう1度政宗に会いたいと願ってそれだけを糧に生きてきた。手酷い仕打ちにも耐えられた。
じくじく熱を持つ腕に力を込めたは政宗の名を呼んだ。
「会いたかった…ずっとこうしたかった…」
「俺もだ」
人の、政宗の体温がこんなにも心地よくて愛しいものだと思わなかった。それを噛み締めは涙で歪んだ視界を閉じる。髪を梳くように撫でる手には安堵の息と一緒にまた涙を零したのだった。
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2011.12.22
英語は残念使用です。ご了承ください。
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