追いつめられる




日も落ち始めた頃、厨では食欲をそそるような匂いが漂っていた。鍋の中には金吾も涎を垂らしそうな野菜がどっさりを入ってる。
そしてその鍋の蓋を開けて味見をしてるのは政宗だったりする。

この状況に至る前、夕食に使う野菜達を確認しに行ったら案の定というか野菜好きの小十郎の目が光って、ついでに足を怪我してる老女の"おせん"に無理はさせられないと政宗が厨に立ったのだ。
それをだけがぼんやり眺めてるわけにもいかず3人で夕飯を作り出した。

ちなみにこの屋敷の主人であり先程の老爺・源三は夕飯を食べる為の囲炉裏の用意をして自室に戻っている。政宗が「うまいdinnerを食わせてやるから期待して待ってな」と豪語したからだ。

非参加の幸村と慶次は今頃温泉に浸かっているところだろう。怪我人でもないのに、と小十郎が文句をいったが当の怪我人が料理をすると聞かないので仕方ない。
そして佐助だが、寝ずの番をするといったのに幸村に何か仕事を言付かってしまったらしく屋敷にいない。見送った際の佐助の寂しそうな背中と嬉しそうに見送る幸村の顔が妙に残った。


「Hey!も味見してみな」
「は、あひ!あひゅいあつい!」
「HAHAHA!油断大敵だな!!」

膳を用意していると政宗に声をかけられ振り返る。口を開けろともなんの言葉もなくつっこまれたものに目を白黒させ舌に乗せれば思った以上の熱さに吐き出しそうになった。
それを手で押さえて熱さを逃がしながらも飲み込むと杓子を持って笑う悪戯好きの彼を睨んだ。割烹着着せるぞ、この料理好きめ。

「もう!何するんですか!!」
「Ah-n?ぼんやり別なこと考えてるお前が悪いんだろ」
「なんですか、その屁理屈」
「俺と2人きりだってのに随分と余裕じゃねぇか」

ギクッと肩を揺らした。舌なめずりでもしそうな口元と視線に思わず身体が強張ってしまう。

勢い余って政宗に告白してしまったあの日からこんなことをよく言われるようになった。わざわざいわれなくたって十分にわかってるのに政宗はわざと突きつけてくる。


料理も後は仕上げだけ、となったところで小十郎は包丁を手に取りなにやら難しげな顔で見つめていた。それをどうしたのかと問えば刃こぼれが気になると言い出し今は井戸端で包丁を研いでいるはずだ。
変なところでマメなんだよな、と笑って見送ったが残された状況に気がつくのはそうかからなかった。

ぎこちなくなるのが嫌で違うこと考えてたのに。人の気も知らないで、と政宗を再び見ればすぐ目の前に彼の顔があって飛び退こうとした。

「Weit.逃げんじゃねぇよ」
「だって、…っ」

うわ!と驚きの声を上げたが腕を引っ張られ、そのまま転がされる。驚きとふわりと香ってくる彼の匂いに、心臓が息苦しくなって口で呼吸をすれば政宗が可笑しそうに口元を吊り上げた。くそう。余裕って顔しちゃってさ。
どうにか逃げようと身体を動かしてみたが膳が腕に当たりかちゃかちゃいうくらいでうまく動けなかった。そうこうしてる間に膳を倒さないように政宗が手で押しのけてしまい、その手をの顔の横に置いた。

傍目から見たら幼女虐待なんだろうけどここには止める人も怒る人もいない。
真っ直ぐ、自分しか見ていない隻眼にの心臓がこれでもかと跳ねた。
あああ、やばい。これ弱い。私こういうシュチュエーション弱いわ。


「ま、政宗さま、鍋は…?」
「…お前、萎えるこというなよ…No sweat.もう火から下ろした」

いやだって気になるものは気になるし。はぁ、と盛大な溜息を吐いた政宗は頭をがっくり下げたので旋毛が見えた。ここ押したら下痢になるんだっけなーと思いながら彼を伺った。やらないけどね。怒られるから。


「猿飛に何もされなかったか?」
「?はい。何も」
「…Really?」
「Sure.」

何とか落ち着こうと呼吸を繰り返しているとそんなことを問われ息を呑む。
政宗は何の話をいってるんだろうか、と暫く考えてみたが出てきたのはさっきの温泉のことくらいだった。お姫様抱っこ…ダメだったんだろうか。いや、恥ずかしくないのかっていわれたら勿論まだ恥ずかしいけども。

でも佐助さんが頑張ってくれなかったら温泉にまともに入れるかわからなかったし。


「あの、佐助さんは私のこと手のかかる妹、としか思ってませんよ?」

だって本命は綺麗でスタイル抜群のかすがだし。もしくはかすがみたいな人だし。働き者の佐助を労いたかっただけですよ、といってやれば何か思い当たったらしい政宗が「Ah−…」と頬を掻いた。

「そういや、お前には人を癒す力があったな」
「…忘れてるとは心外ですね」

政宗は興味ないみたいだから仕方ないけど。佐助は結構助かってるっていってくれたんですよ、といってやれば政宗の目が細くなった。あ、失言だったかも。


「Ha-n?じゃあ奴に毎度あんなbody contactをとってるって訳か?」
「え、み、見えてました?」
「俺の視力の良さを舐めんなよ?」

俺ならずとも全員見えてただろうぜ、とのたまう政宗に一気に顔が赤くなる。うわー。それ恥ずかしいんだけど。「道理で猿が色気付くはずだ」と舌打ち混じりに吐き出した政宗を恐々と見上げるとニヤリと笑われた。その笑顔なんか怖いんですけど。

。Who do you like?」 (お前は誰のことが好きなんだ?)
「こ、ここでいうの?」
「Yes.」

自分を好きか、ではなく誰を好きなんだ?という問いには目を右往左往してしまう。ここには政宗と自分しかいない、はずだ。音も竈の中で爆ぜる薪の音だけ。ほんのり暖かい空間に押し倒されてたままは赤くなった顔でもごもごと口を動かした。

だ、誰もいないよね?小十郎聞いてないよね?
いや、聞かれてもいいんだけど、でも改めて口にするのは果てしなく恥ずかしい。

「Speak up.」 (聞こえねぇな)
「政宗さま、です」
「Good!」


外した視線を戻せば政宗は満足げに笑っていてホッと息を吐く。…やっぱり焼きもち、だったのかな。なんてありえないことを考えながら目を閉じると左右の瞼に、額に唇が落とされ、それから唇に落とされた。
優しくて柔らかい唇に感覚がとろとろと溶かされていく感じだ。だから「舌を出しな」という言葉にもすんなり従ってしまう。

「さっきので scald したんだろ?まだ痛いか?」 (火傷)
「ううん」
「じゃあ続きだ」

そういって出した舌に吸い付いてきた政宗にはビクッと肩を揺らす。そのまま逃げるように舌を引っ込めたが、政宗はの中を抉じ開けさっきよりも深く食らいつくように絡めてくる。

鼻につく息が漏れる度、こめかみや頬を撫でられ腰の辺りをくすぐるような手にはたまらず政宗にしがみつく。
首に回した腕に政宗が小さく笑ったように思えたが、それを問えるような状況じゃなくて。

はまどろみに落ちないように必死にしがみつくことしか出来なかった。




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2012.02.17
英語は残念使用です。ご了承ください。

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