一家団欒みたいな




「…どの、…殿。殿!」
「うぇ?!は、はい!」
かけられた大きな声に肩を揺らせば空の椀を持った幸村が不思議そうにこちらを見ていた。

「どうしたんだよ。もう眠くなったか?」
「寝ながらご飯食べませんよ。ただ…ちょっと考え事を…あ、幸村さまおかわりですか?」
「う、うむ」

幸村から椀を受け取ったは慶次のつっこみから逃れるようにご飯をてんこもりにして彼に手渡した。
囲炉裏を囲んでそれぞれ名高い武将達が政宗のご飯を食べてるとかある意味異様だが、この和み方はどうだろうか。和気藹々とまではいかないけど妙にしっくりくる。

そんなことをぼんやり考えながら周りを見ていれば隣に座って汁をすすっている政宗と目が合い慌てて視線を下げた。


「何か嫌いなものでも入ってたか?」
「ああ?俺の料理にケチをつけてんのか?なら全部食えるに決まってんだろうが」
「前田。に喰えない野菜なんざねぇんだよ」

向かい側に座って夢吉と一緒にご飯を食べていた慶次が茶化すように笑ったがの両隣は射殺さんばかりに睨み返した。ダメだよ慶次。それ地雷じゃん。
小さくなる風来坊を不憫そうに眺めていると盛られたご飯に手をつけないままの幸村がじっとこっちを見ていた。

「悩み事でござるか?」
「…へ?」
「何やら難しい顔をされておられる。ここには信頼できる甲斐の民と政宗殿達しかおらぬ故、もしよければお話いただけないか?」
「悩みごと、ねぇ」


真剣な表情の幸村に目を瞬かせていると肩が急に重くなった。政宗がの肩に腕を回して体重をかけてきたのだ。首に触れる感触とほんのりと香ってくる政宗の匂いに顔が熱くなる。きっとニヤニヤした顔で笑ってるんだ、この筆頭は。

「悩みごとがあるなら聞いてやるぜ? honey.」
「ハッ?!……っな、ないです!ありません!!」
「Really?本当はあるんじゃないのか?もっと lovelove したいとか monopoly (独占)したいとか」
「な!(ここでいうことですか?!)」
「("欲求不満"って顔に書いてあるぜ honey.)」
「…っ!!」

耳元に囁かれた言葉に思わず手で顔を隠した。それじゃ隠しきれないって政宗が笑ってる時点でわかってるけど恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。欲求不満って!

「政宗殿!いくらなんでも殿に寄りかかりすぎでござる!殿は怪我人ですぞ!」
「Oh!Sorry.食べたくなるほど pretty なもんだからつい、な」
「…っ!」
「政宗様。あまりをからかいますな」


今にも泣き出しそうな顔で口を金魚のように動かしていれば幸村と小十郎が助け舟を出してくれた。でなければ政宗が髪を撫でるのと一緒にくすぐってきた指に悲鳴を上げてるところだ。
でも、ストッパーでこの2人がワンセットなんて珍しい。佐助がいないせいかな。

「倒れたら俺が介抱してやればいいだけだろ?No problem.」
「そうそう!俺も面倒みるし」
「そ、某も殿を介抱いたす!」
「…アンタらは部外者だろうが」
「か、甲斐にいる間、殿をお預かりしているのは某だ。殿に何かあれば某の責任!故に介抱する義務も某にある!!」
「それは俺達に返すまでの話だろうが。今はこの通り、俺の手元に戻ってる。アンタの出番はないぜ」

の肩に手を回し引き寄せた政宗は不敵に笑って、鼻息荒く豪語した幸村を詰まらせてしまった。
ああもう、発言権も人権も放って置かれてるのになんで私はドキドキとか嬉しいとか思ってるのかな。恥ずかしいくらい顔熱いな!、と1人ごちていると幸村と目が合った。え、なんでそんな捨てられそうな子犬の顔してるの?


「…殿…某は迷惑であろうか?」
「えっ」
「おい。に聞くんじゃねぇよ」
殿が困っている時に傍らにいたいというのは迷惑か?」
「そ、そんなこと…もご!」

潤んだ瞳で真っ直ぐ見つめてくる幸村には耐えられなくなって頭を振ろうとしたら口に何か熱いものを突っ込まれ言葉を遮られた。

「政宗殿!殿になにをなさるか!!」
「Ha!知らねぇな!俺はが好きなにんじんを食わせてやっただけだぜ」
「…っあひゅい」
熱々のにんじんをなんとか飲み込み焼けた舌を出して手で扇いでいると小十郎が同情した顔で頭を撫でてくれた。同じところがまた火傷して痛い。政宗の馬鹿野郎。

「あはははっ本当、がいると和むねぇ!とても前まで敵同士だったとは思えない光景だよ」
「風来坊。いっておくがこれはあくまで休戦だ。真田といつまでも仲良しこよしをするつもりはねぇ」
「別にいいと思うけどねぇ。冬の間だけとはいわず雪が溶けてもこのままの方がも喜ぶと思うぜ?」


な、と笑顔でこっちに振られは目を瞬かせた。正直まだ舌がヒリヒリしてて喋りたくないんだけどこの期待するような意味深な視線を一身に浴びせられると居心地が悪い。
どうしたものか、と視線を彷徨わせていると幸村が先に口を開いた。

「某も奥州との戦は、当分する気がないでござる」
「はあ?」
「へ?」
「奥州とは同盟国でござるし、殿の傷のこともある故」

殿が望むならば、と幸村が満面の笑みだ。こっちを見る視線がやたらと暑苦しいのは気のせいだろうか。

「それはそうと殿、雪が溶ければ次は春でござる。甲斐の桜もなかなか見事でござるよ。よければ某の馬で花見にでも」
「Stop!テメっ俺のいる前で堂々とを誘ってるんじゃねーよ!しかも何だ、馬って!は馬が苦手なんだよ!!」
「そうでござるか?某、何度も殿と同乗したことがござったが」
「わーっ幸村さま!ノー!ノー!」
………


テメェ、馬が苦手だと俺に嘘ついてやがったのか? 手を振って幸村の言葉を遮ろうとしたが政宗にはしっかり届いてしまったようだ。
背中に冷たい視線が突き刺さる。くそう、と目の前のワンコを睨んだが小首を傾げて不思議そうに私を見てる。ちくしょう、悔しいけど可愛い。


「馬術は幸村の方が上ってことか」
「なんだと?! Hey真田!雪が溶けたら馬勝負だ!!どっちがうまく乗りこなせるか勝負しろ!」
「相判った!その勝負お受けいたそう!!」
「政宗様。奥州には、」
「真田との勝負がついてからでも遅くねぇだろ。いいか真田!Don't escape!」

慶次の言葉で政宗に火がついたのか雪解けまで甲斐に留まることが決定してしまった。私は構わないけど、小十郎が溜息と一緒に頭を抱えたので同情の意味も込めて背中を撫でてあげたのだった。

向かい側に座った風来坊が、悪戯が成功したような顔で笑ったのが見えたのはいうまでもない。




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2011.09.23
英語は残念使用です。ご了承ください。

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