あれ?




政宗がつけたキスマークは、胸元を中心に首周りや二の腕の内側など皮膚の薄いところを狙ってしかも病気かと言わんばかりにつけられ正直引いた。
最後の方は泣いて懇願したが言うことを聞いてもらう代わりになっがいディープキスをされて湯あたり状態になったのはいうまでもない。

愛情は嬉しいけど正直身体持つ感じしないです筆頭。

私の心臓木っ端微塵に吹き飛ばす気ですかっての。「可愛いお前が悪いんだよ」とか殺し文句が本当に私の命日になる日は近いと思う。

そのうち心臓麻痺で死ねるじゃないだろうか。
でも少しは反省もしてる。

確かに身体晒すのよくない。うん。次またやったら痣みたいなキスマークがもっと増やされそうだ。


その重い愛をくれた政宗は今高らかに笑っている。雪が溶け下山した政宗達は宣言どおり馬対決をした。
その対決は何故か信玄にまで伝わり異様な賑わいをプラスしてしまったが。

そのせいで風林火山の横断幕の前に信玄と2人で座ることになって本当生きた心地がしなかった。


だって信玄ってば競走始める前に「幸村ぁあ!ここで勝たねば男ではないぞ!!この勝負勝ってを娶るがいい!」なんていうんだもん。

政宗と小十郎は戦でも始めんのかっていうくらい殺気立つし、信玄大笑いだし幸村やる気満々だし。信玄の隣にこれでもかと着飾って座ってる景品の私はどうすればいいのだ。着物が重過ぎて逃げることも出来なかったけど。



「ご満足いただけましたか?信玄さま」
「ふむ。あの幸村が負けてしまうとはな…これはまた一から鍛えなおさんとならぬな」

そうですね。でも政宗に発破かけたのもお舘さまだよね?その証拠に髭撫でながらにんまり笑ってるもん。してやったりなんて顔してるもん。あ、こっち向いた。

「その為にもお前の助力が必要なんだがのう」
「それは以前も申しましたように」
「伊達にはあの片倉がおる、伊達三傑もいよう。正室もおるではないか」
「うっ…幸村さまにだって信玄さまがいらっしゃいますし佐助さんだっています」
「幸村が気を許してる女子はだけじゃ」
「そ、それでも私は」
「Hey!そこまでだ」


段々答えづらくなってきたところで助け舟が入った。助かった、という顔を前面に出して政宗を見ればぽんと頭を撫でられ彼は信玄を見やる。

「Battleは俺の勝ちだ。二言はねぇと真田もいったんだ。は連れて帰らせてもらうぜ」
「仕方あるまいの」
「仕方ねぇのはこっちだ。をやるとは一言もいってねぇぞ」

むしろここに置くこと事態予定外だったんだからな、と視線をこちらに戻した政宗はを抱き上げた。

!奥州に帰るぞ!!」
「はい!」

満面の笑みの政宗にも嬉しくて笑顔で頷いた。



*



奥州に戻る準備も整い、あとは身支度だけ、となった頃、はウロウロと廊下を歩いていた。
あともう少しで出発だと小十郎がいっていたからそろそろ部屋に戻らないといけないのだけど、そう思いながらもの足取りは部屋とは反対の方へ向いている。

「お?じゃねぇか。こんなとこで何してんだ?」
「あ、慶次さん。佐助さん見てない?」
「佐助?」

ひょこっと顔を出した慶次さんに佐助の行方を聞けば桐の間付近で見かけたらしい。
忙しそうにしてたからもしかしたら出て行ってるかもともいわれた。


「そういえば慶次さんこの後どうするの?」
「この後?ああ、俺はもう少し甲斐にいて花見満喫したら南に行こうと思ってるんだ」
「そっか。何か寂しいな」

風来坊の彼がいつまでも一緒な訳なかったのだけど甲斐とも離れ、慶次ともお別れになるのかと思うと寂しくて仕方がない。しょんぼりと頭を垂れれば慶次が優しく頭を撫でてくる。この手ともお別れか…。


「夢吉も寂しがってくれてるの?」

慶次の腕を伝っての肩に下りてきた夢吉が頬を撫でて慰めてくれた。それがくすぐったくて嬉しくて笑みを浮かべると慶次がぽんぽんと頭を撫でてくる。

、その顔だ。俺は一緒に行けねぇが双竜がついてんだ、心配ねぇよ。それに俺は風来坊だしいつでもお前に会いに行くさ」
「慶次さん…」
「そん時は今みたいな笑顔で出迎えてくれよ」

慶次と別れ、桐の間に行ってみたがやはり佐助の姿はなかった。やっぱり外かな、と渡り廊下を渡っていると後ろで羽根の羽ばたく音が聞こえる。

振り返れば丁度佐助が大きな烏から下りてきたところだった。



「佐助さん!」
ちゃん?…うわっ」

声をかけたと同時に走って飛びついたを佐助は見事キャッチしてくれた。
「何やってんの!危ないだろ!!」と怒る声が聞こえるがこうでもしないと佐助に逃げられてしまいそうだったので聞かなかったことにした。


「だって、今日でお別れ、なんですよ?」

予想以上の女々しい言葉に自分でも驚きながら首に巻きついてる腕に力を込める。
あの日以来、こうやってちゃんと話すのは久しぶりなのだ。

上っ面な会話はしてきたけどこうやって触るのも全然なくて。自分からあんな話しといて抱きつくとか自分勝手だけど、でも最後くらいは許してほしい。


「佐助さん。色々お世話になりました。ありがとう」


幸村や信玄には昨日の送別会でいったけど佐助にはいえなかったから。肩に顔を埋めてるせいで聞こえてるかどうかわからないけど顔を上げていうことは出来なかった。

だって酷い私を迷惑だってそんな顔してたら立ち直れない。


ちゃん。顔上げて」

濡れ淵に下ろされ、隣に佐助も座ったことを確認して恐る恐る顔を上げた。そこには春の日差しで赤く染まった髪を揺らした佐助が微笑んでいる。

いつものヘラリとしたものではなくて、多分幸村に向けるあの笑顔みたいに優しい瞳だ。



「あの、佐助さんに私、そのお礼をと」
「お礼…?」

意を決して腕を広げれば目を瞬かせた佐助がふにゃりと笑って頭を下げた。

まるで、甲斐に来たくらいの頃に戻ったかのようなそんな優しい時間で。頭を撫で、そしてはありがとうと一緒にめいっぱい佐助を抱きしめた。


「佐助さん。あんまり無理しないでくださいね」
「それは旦那達次第じゃないかな」
「…じゃあ、ちゃんと休める時間作ってください」
「それも旦那達次第だろうね」
「……」
「……」
「…佐助さん」
「ん?」
「今めいっぱい元気送るんで受け取ってください」

むむむ、と念じるように佐助を抱きしめていたら彼の身体が震えだしたので何事かと覗けば何でか笑ってた。人が真剣に悩んでるっていうのに何事か。


「ありがとちゃん。元気出たよ」
「薄っぺら!何か子供扱いされた気分!」

涙目でいわれても嬉しさ半減ですよ。
心配してるのに!と口を尖らせれば佐助はまた肩を震わせて笑うので頬を抓ってやろうと手を伸ばした。が、簡単に捕まれてしまった。チッ。

「元気でないわけないよ。だってちゃんがわざわざ俺様を探して会いに来てくれたんだから」
「今ちょっと後悔してますけどね」
「俺様、嬉しかった」



捕まれてる手を引かれ、そのまま佐助の胸に落ち抱きしめられる。微笑む彼に心臓がドキリと跳ねて顔が熱くなったから丁度良かったと内心ホッとした。
それから忍装束から伝う草木と佐助の匂いに目を細めると名前と一緒に髪を梳かれた。

「また会いに行くよ。仕事でも暇な時でも」
「遠いですよ?」
「俺様を誰だと思ってんの?……寂しがり屋のちゃんを放っておくわけないでしょ」
「……」
「遊びに行ったらまた俺様と会ってくれる?」
「勿論です」


まるで、あの屋敷であったことはなかったかのような以前の雰囲気の佐助にホッとして身体を離せば微笑む顔があって。

それにつられてにっこり微笑めば彼がゆっくりと近づき、近づき、あれ?と思う頃にはすぐ目の前で。反射で目を閉じたと同時に唇に柔らかいものが押し当てられた。


「?!☆…っ☆?!?!?!?」
「いっとくけど、俺様"諦めた"なんて一言もいってないからね。勿論続行だから」
「は?なん…えぇ?!」
「今回は仕方なく見送るけど、隙あればいつでも竜の旦那から掻っ攫うつもりだから」
「え?ええええ?」
「覚悟しといてね、ちゃん」

口を手で覆い、佐助を見上げればにっこり笑ってそうのたまった。
その笑顔が今世紀最大に真っ黒に見えたのはいうまでもない。


何故そうなった?!




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2016.03.21

なぜかこうなった…。
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