君色シンデレラ・番外・クリスマス


聖者の夜のクリスマス。パーティーしようぜって適当に声をかけまくったら予想以上に参加者が集まった。侑士には「何でそうなる前に気づかへんねん」と呆れられたけど間違いなく俺の顔の広さに嫉妬してると見た!顔がちょっと悔しそうだったし。

そんなことを思いながら岳人は周りを見渡し持っていたジュースを煽った。
呼びすぎてしまった人数は案の定会場とか諸々自分の手に余るものになってしまった。

そこで登場したのはやっぱり跡部で今いる会場もセッティングも全部やってくれた。持つべきものは仲間だな!と笑ったら侑士に叩かれたが料理もうまいし、眺めも最高だしみんなも楽しそうだからいいんじゃね?と軽く考えていた。


「…えらい賑わっとるな」
「お、侑士今頃来たのかよ」
「スマンな。彼女がなかなか帰りたないいうから時間食ったわ」
「……それ、俺への嫌味だよな?」

ぬっとやってきたのは疲れ顔の侑士でじと目で睨むと彼はさも勝ち誇ったように笑った。自分がモテるからって自慢しやがって。
負け惜しみに「そいつも連れてくれば良かったじゃねーか」といってやれば「一応連れてきてるで」とDSを見せてくる。何が言いたいんだ?と見せてきたゲーム機を見て首を傾げると侑士はニヤッと笑っただけだった。

「それにしてもジローはどこにいてもジローやな」
「んー?なに?」
「寝るか食うかどっちかにしろっていってんだよ」
「んー。どっちも欲Cーじゃーん?」


立食の中、椅子に座って食べているジローはさっきからうつらうつらしながら皿を持って食べている。見てるこっちはヒヤヒヤするからどっちかにしてほしいんだけど本人はどっちも譲る気がないらしい。
さっきから光るフラッシュに今日の珍場面として記録に残されんだろうなーって思った。


「跡部から連絡はあったんか?」
「さっきあったけど道混んでて遅くなるとかいってたぜ」
「さよか。じゃあも遅なるっちゅーことやな」
の奴本当に跡部にくっついてったのか?」
「くっついてった、というよりは拉致された、が正解やけどな」

跡部がいろんなことを経験せなあかんいうて連れてったわ、と溜め息混じりに零す侑士の顔は珍しく面白くない、と表情に出ていた。


岳人は全然知らなかったが侑士とは1年からの知り合いで2年までは同じクラスだったらしい。しかも最初にできた友達同士とか。
何で教えてくれなかったんだよ!といったら「教えたら減るんや」とか返されたけど。

実はコイツってのこと好きなんじゃねーの?と思いながらウエイターから飲み物を貰った侑士を見ていると「キャー」とテニスコートとかでよく聞く悲鳴が出入り口の方から聞こえてきた。


「やっとお出ましやで」と呟く侑士と一緒に視線を動かすとパーティ会場から直行したらしいスーツ姿の跡部が現れた。既にネクタイを緩めていて着崩してるあたり、気兼ねがない様子が伺える。

跡部の傍らには走ってきたのか肩で息をしてるがいてこちらもドレス姿だ。正装というよりはカジュアルな感じでワンピースドレス、といったところだろうか。いつも見るとは違う格好と顔に俺はなんとなくドキドキした。

いや、好きとかそういうんじゃなくて、なんとなく跡部と絵になるというか。あいついつの間にあんなに綺麗になったんだろ。
2人は手を振るこっちに気がつくとまっすぐ向かってくる。


「あ、跡部くん。私何か飲み物持ってくるよ」
「大人しくしてろ。靴ズレしてんだろ」

俺が持ってくる、と来た早々に離れていった跡部に俺は目を瞬かせた。跡部があんな優しい態度で女の頬を撫でてくの初めて見た。


「あれ?さっき跡部来てなかったか?」
「来たけど飲み物取りに行ったぜ」
「ふーん。あ、」
「どうも」

食べ物を乗せた皿にがっつきながらやってきた亮に顎で跡部がいる方を教えてやれば早速女友達に捕まっていた。あーあ、アイツ跡部好きだったよな。
多分おんなじことを思いながら視線を戻した亮はを見て一瞬目を泳がせた。おいおい、余計な動揺誘うなよ亮!

嘘が付けない亮に慌てた俺は「あ、そうだ!」と視線をこっちに向けさせさっき侑士が出したDSの話をした。そしたらは呆れた顔になって侑士を見やる。

「忍足、またやってんの?何週目?」
「うーん。10…は、いってんちゃうか?」
「大好き過ぎでしょ。え、クリスマスイベントは攻略出来たの?」
「それが、凡ミスしてぼっちになってもーたん」
「うわ。ありえない。クリスマスなんてイベント中のイベントなのに!」
「そうなんや。もうそれで俺へこんでもうてん。慰めてや」
「…一体、なんの話なんだ?」
「「ゲームの話」」


しくしくと顔を覆って嘘泣きする侑士を不憫そうに頭を撫でて慰めるの光景が異様過ぎて引き気味に見ていれば怖いもの知らずの亮がつっこんだ。そしてあっさりと告げられた言葉に愕然とする。ゲームかよ!

「侑士!お前俺を騙したな?!いってたデートもゲームだったんだろ!!」
「……!」
「あれ。忍足彼女できたんだ」

お前だってぼっちなんじゃねーか!と噛み付けば、が驚いたような顔をしてきた。どうやら前の彼女と別れて以来フリーだと思っていたらしい。
いや、だから、そのデートもゲームで…あれ?違うか?ゲームイベントができなかったからデートは出来なかったってことで…あれ?

ん?と首を傾げると侑士は「、何が食いたい?取って来たるわ」と逃げるようにそそくさと岳人達から離れていった。え、どっちなんだよ侑士!


「あー喉渇いた。跡部くんまだかな?」
「っ!あ!俺のでよかったら飲むか?!」

まだ女友達のところにいる跡部の後ろ姿に俺は慌てて自分が持ってたグラスを差し出した。するとは目を瞬かせ「あ、ありがとう」といいながら受け取った。ほんのり赤くなった頬になんとなくドキリとしてしまう。

そんな感じだったから視線もなんとなくの唇に向いてしまって、あ、これ間接キスじゃね?と今更気付いた。

、さん…これ、どうぞ」
「あ!樺地くん!!持ってきてくれたんだ!ありがとう!!」
「ウス」
「それに鳳くんと日吉くんも。こんばんは」
「こんばんは」
「こんばんは、先輩。今日のドレスとてもお似合いですね。綺麗ですよ」
「ばっ…!長太郎…っ」
「あ、ははっありがとう」


しかし、岳人の邪な気持ちはあっさり跡部の代わりにやってきた樺地に砕かれ、新しいグラスがの手に収まった。いや、いいんだけどよ。そう思いつつ、躊躇なく褒める鳳に亮とが顔を赤くすると「何してんだ、アーン?」と通る声がこちらに届いた。

「お前ら、これだけ人数がいるってのに見知りだけで固まってんじゃねぇよ」
「別に固まってたわけじゃねーよ。たまたまだ」

むしろ跡部が来るまでバラバラだったんだ。そう言わんばかりにいう亮に、鼻で笑った跡部はまっすぐの元へ向かうと隣に並び樺地から飲み物を受け取った。ていうか、腰に手を回すとかちょっとエロくないか?


「んで、そっちはどうだったんだよ」
「美味Cーものあった?」
「ジロー、お前な…」

食い物かよ、と呆れる亮にはフフッと笑うと「うん、たくさんあったよ。」と頷いた。

「でも、緊張してあんまり食べれなかったかな。跡部くんも殆ど口にしてないよね?」
「アーン?俺は味見で一通り食べたからそうでもねぇよ。…腹すいてんのか?」
「うん、ちょっとね」
「あーこれ食べるー?」
「本当?ありが」
「まち。そんな食いかけよりこっち食べや」

いつの間にか戻ってきた侑士はどこの敏腕ウエイターだよっていうくらい大量の皿を持ってやってきた。しかもてんこもり。「食いすぎはあかんで?」といいながらデザートの山を手渡す侑士に跡部のこめかみがヒクリと動くのが見えた。


「ありがとう。あ、忍足取ってきたんだし、忍足も食べなよ」
「じゃあそのケーキを」
「俺食べたい!それ美味しそう!、それちょーだい!!」

ハイ、ハイ!と目を輝かせ完全覚醒モードで手を上げるジローに今度は侑士の顔が引きつった。しかも今度は何もいってこない跡部が気になった。「あーん」して食べさせてっけどいいのか?ジローはいいのか?

「ジロー。あっちに新しいデザート来たみたいやで」
「マジマジ?!俺行ってくるーっ!!」
「うわ、……あーやっぱり集まってた」
「「滝、」」


俺のも持ってきてくれっていいたかったけど、ジローの動きが早くて捕まえられなかった。食い荒らされないうちに俺も行こうと思っていればデザートの皿を持ったが「食べる?」と差し出してきたので反射的に頷いた。

一瞬、約2名に睨まれた気がしたけど見なかったことにした。

ジローと入れ替わりにやってきた滝と跡部達が話してるのを尻目に黙々ととデザートを食べていると、鳳と日吉、樺地も侑士が取ってきた皿を持ってこっちにやってきたので生ハムとローストビーフを奪った。

「向日さん、意地汚いですよ」
「うるへー日吉。俺の前に肉を持ってくるのが悪ぃんだよ!」
さん、も、いかが、ですか?」
「わあ、ありがとう!」
先輩はチーズ好きなんですか?」
「うん。このレアチーズも美味しいよ!」

食べて食べて、と皿を出してくるに鳳は困ったように笑って「跡部さんに怒られちゃうんで」と丁重に断った。


「そういや、靴ズレしたっていってたけど立ってて大丈夫なのか?」
「えっそうなんですか?」
「立ってる分には大丈夫だよ。こっちに来る途中で手当もしたし」
「だからって痛くないわけじゃないですか!樺地!」
「ウス。座って、ください」
「え、大丈夫だよー」
「帰り、歩けなくなって無様な格好で運ばれたくないなら座った方がいいですよ」
「ううっ…」

畳み込むような2年組に言いくるめられたはしょんぼりした顔で「スミマセン、お手数をおかけします」とさっきまでジローが座ってた椅子に腰掛けた。


「やるねー。これならいつお姫様をエスコートしても安心だ」
「っ…な、何いってんですか!!俺はそんなつもりで」
「騎士がたくさんいてさんも寂しくないでしょ」
「…いい加減にしてください」

いつの間にやらこちらに寄ってきた滝が2年組をからかうので鳳は顔を真っ赤にし、日吉は少し困った顔で睨んだ。鳳はともかく、日吉は奥にいる跡部のことが気になってるんだろう。さっきからチラチラと視線が動いてる。
わかってないのは「そだねー」と平和そうな顔をして滝に同意してるぐらいなもんだろう。

「跡部くんも食べなよ」というの言葉に引き寄せられた跡部は樺地から皿を受け取ると静かに並んで食べ始めた。ことはしのげたらしい。ずっと不機嫌そうに睨んでたからな。今は今で侑士が不機嫌そうだけど。



「腹も膨れたことだし、少し身体を動かすか」

カラになった皿を下げさせた跡部は不思議そうに見やる俺達に見えるように手を掲げるとお決まりのように指を鳴らす。するとどこからともなく軽快な音楽が聞こえ始めた。
あ、これ授業とかで踊ったやつじゃね?少しアップテンポな音に会場内にいる奴らがざわつきだす。


「お前らも好きに踊りな!存分に楽しめ!!」


跡部がそう言うとわぁっと歓声が上がりノリのいい奴らが真ん中の方へ躍り出る。少し離れたところでジローが女友達に手を引かれていくのが見えた。

「オラ、行くぞ
「え、ええ〜?!…私まだ食べたいのに…」
「アーン?十分食っただろうが。もっと食いたいなら動いて消化してからにしろ」
「ううっ…はぁい…」

手を引っ張る跡部にはブツブツ文句を言ったけど最後は立ち上がった。足怪我してるのに容赦ねぇな、と思いながら眺めていると跡部はさらりと落ちたの髪を流れるようにすくって耳にかけた。その見えた白い首筋に思わずドキリとする。

跡部はに何か耳打ちするとフッと見たこともないような顔で微笑んだ。で顔を真っ赤にすると眉を寄せながらも跡部の手をぎゅっと握り締める。それから2人で中央の方へと駆けていった。


「…日吉、見たか?」
「……見ました」
「あれ、ぜってー見せつけてるよな?」
「……でしょうね」

踊りに興味がないのか、たまたま並んでた日吉も同じものを見たらしく、伺えば奴の顔もほんのり赤かった。多分自分もだろう。

露になったそこに見えたのは赤い花が2つ。耳朶の下と首の付け根だ。髪に隠れるところだから見ようと思わなければ見えない場所だけに余計にいやらしさを感じてしまって。
ここに来るまでは2人きりだった、とか、だけ妙に息が上がってたのはもしかして、とか。多感な中学生には刺激が強すぎる。


「あれで付き合ってねぇとかなくね?」


が気がついたらどうなんのかな?と思いながらも向かい合って踊る2人は呆れるほど幸せそうで、あーはいはい。ごちそうさま、と溜め息混じりに思った。


絶対付き合ってんだろお前ら!




2013.05.19
海外かぶれのリア充。