□ It is no use crying over spilt milk - In the case of him - □
は俺らの良心みたいなもんだった。氷帝で慣れ親しんだ感覚に冷静にツッコミを入れてくれてくれる数少ない友達だ。大抵は跡部に感化されてちょっと傲慢になる勘違いな奴も多いけど関わっても変わらないは俺にとってとても好ましい存在だった。
跡部とつるむのはスゲェ面白れーけどその分変なのにもつきまとわれたから結構大変だった。お陰でそういう耐性も大分ついたけど。しかも俺だったら丸め込めそうって思ったんじゃないかな?よく俺を通して話しかけたり取り次いでほしいとかお願いしてきたりあったんだよね。
俺と跡部は部活仲間で友達だけどそういうことはしねーっつの。そんなことしてたらキリがないし、それって友達でもないじゃん?
だからそういう下心がある奴は付き合わないことにしてる。そういう天秤でしか見れない奴と友達になれるとも思えないしね。俺がいいって思った子は大抵いい子だし、外れることは殆んどないから跡部達も信用してくれるわけ。
と久しぶりに会ったのはお互い大人になってから。高校の時もメールや電話はしてたけど、が自分の気持ちに気がついて距離をとるようになってからはどんどん疎遠になった。
自身もそうじゃいけないって思ったかもしれないけどやっぱり跡部と関わってる俺と会うのは辛かったみたい。そしてその内俺とも顔を合わせなくなって電話もメールもなくなって気づいたら連絡もつかなくなっていた。
そんなの俺は望んでなかった。
できることならバカやってずっと一緒にいたかった。
だから俺は内心ずっと跡部が許せなかった。
別に話せるし仲間としては好きだけどを傷つけたのは許せなくて。跡部も大事な友達だからって身を引いた自分が恨めしくてならない。
こんなことなら最初から俺がを守ってやれば良かったって、今もずっと後悔してる。
部活も終わってのんびり着替えていると「オラ、ジロー!施錠するのは俺なんだ!さっさと着替えろ!!」と跡部が発破をかけてくる。面倒くさいCーと思いながら口を尖らせ少しだけスピードをあげると既に着替えていた向日と忍足にも怒っていた。今日の跡部機嫌悪いんじゃね?
「なんや跡部。今日1日低空飛行のまんまやな」
「うるせー。着替えたんならさっさと帰りやがれ」
忍足が肩を竦めればそれにも噛み付き、うつったように機嫌を悪くした向日が「アイツ彼女とケンカしたんじゃね?」とぼやいた。そしたら跡部が目を剥いて「うっせーよ!」と叫んだから目を丸くした。
あれま。本当にケンカしたんだ。宍戸じゃないけど激ダサだね跡部。
近くにいた宍戸に視線をやると彼も呆れた顔で跡部を見ていたが、「宍戸さん」と鳳に呼ばれてさっさと帰っていってしまった。ちなみに滝と日吉は帰宅済。着替えんの超早いんだよあの2人。
俺も跡部にどやされる前に帰ろ、とシャツを羽織ると何を思ったか忍足が変な顔で笑って「まーまーまー」と跡部の肩に手を回して睨まれてた。何やってんだろあのメガネ。
「そうカリカリしなさんな。そういう時はこれでも見て和みや」
「アーン?」
何言ってんだ?テメェ、と睨んだが目の前に差し出された携帯にとりあえず視線を向けた。見てはくれるんだ。向日も気になったのか再生ボタンを押す忍足の隣に回ると「ああこれ、この前のやつか」と零した。
「アーン?この前っていつのだよ」
「先週だよ。お前来なかった日」
「跡部が早百合ちゃんと仲ようデートしてる間に俺らで美味しいもん食いに行ったねん」
なー、と向日に同意を求めたが「え、ただのファミレスだけど」と返されメガネが撃沈していた。
あの日はどっかの牧場に行って遊ぼうといういつもの跡部の庶民てどんな遊びしてるの?企画だったんだけど、土壇場で跡部が参加しないと言い出したので仕方なくいつものようにカラオケをしてファミレスでダラダラしてたのだ。その日はも来てたのに跡部もバカだよね。
「そういや、の奴久しぶりに参加してたよな」
「ああ、牧場のふれあい広場に行きたいいうてたな」
「行けないってわかって大分落ち込んでたけどな」
「……」
「あ、そろそろやで跡部」
『ちゃん、そのパフェ食べさせてくれへん?』
『えー自分で食べなよ』
『そういう絵が欲しいねん!ちゃんで欲しいねん!』
「バカだな」
「バカだ」
「関西人にバカ言うなや!」
どうやらデザートを食べてるところらしく、そういえば忍足が携帯を取り出してを撮ってたなと思いだした。そしてかなりキモかった気がする。宍戸とか引いてたし。
ヒヤリとする言葉を述べる2人に忍足は怒ったけど、ここは東京だから関西人の言い分は通らなかった。何か見てて不憫になってきたな。
『もうしょうがないなー』というの声が聞こえ、跡部を見ると食入いるような顔で画面を見つめていた。
『これでいい?』
『それで"はい、あーん"ていうて』
『えええっやだよ。それくらい察しろよ』
『あかん!ここまで来たんやからやってください』
『標準語の侑士キメェ』
「あ、俺の声入ってる」
『あんま苛めると通報すっからなー』
「あ、俺も入ってる」
「ジローは顔も映ってるぜ」
「もう自分ら黙り!」
今いいとこなんやから!と監督さながらに怒る忍足に向日と一緒にキメェ、と思っていると悩むの声が聞こえてきて、『しょーがないなー』と諦めたように呟いた。
『"はい。あーん"…』
『ああ!俺のパフェ!』
『ん〜っおいし〜!!』
『!俺も食わして』
『はいよーあーん』
『ちょ!何で岳人は食べさすん?!』
『だって忍足くん携帯持ってるし、』
『俺も俺も!それ食べたいC!』
『クッ!ジローくんこれは私が楽しみにしてたものなんです…っ』
『え、じゃあこれと交換しよー』
『OK。それ乗った』
『随分あっさりだなおい』
『これも好きだからいいんですー。ジローくん、あーん』
『あーん!』
『…なんや、俺の心ズタズタなんやけど』
これ苛めなん?と零す忍足に達は笑って、『可哀想だから食べさせてあげなよ』という亜子の言葉に『しょーがないなぁ』と3度目になる言葉を言うと『その抹茶アイスくれたら食べさせてあげよう』と笑っては忍足にパフェを食べさせた。
「なかなかええやろ?」
「主にお前がイジられて喜んでる様はわかった」
「そっちかいな」
「…改めて見ると侑士が犯罪に走らねぇか益々不安になる映像だぜ」
「岳人オブラート!言葉をオブラートに包んでや!」
ここに本人おるんやで!両腕をさする向日に忍足が食いつき、いつもの掛け合いが始まったがジローはじっと跡部を見つめていた。さっきから食い入るように画面を見つめた固まっている。むしろ忍足の携帯を自分が持っていて、黙って様子を見ていた樺地に近づき同じ映像をまた見だした。
「…まったく素直やないな。うちの部長さんは」
「素直も何もわかってねーんじゃん?」
そっと隣に来た忍足にベルトをかけながら返すと今度は向日も混じって映像を見ていた。どうやらさっきとは別の映像のようだがやっぱりがいる時のもののようだ。
…もしかしてにストーカーしてんじゃないだろうな。
不審な目で忍足を見やれば「まだ法律は守っとるで」と微妙な返しをされた。
「…もしかして、わざと撮ってたわけ?」
「んー主に俺の趣味やけど……ちゃん、跡部がいない日ねろぅて来てる気がしてな」
「…そっか。あっちは情報ダダ漏れだもんね」
これみよがしにつけてた指輪を思いだし、やっぱ距離縮まらないなーと溜め息混じりにジャケットを羽織れば岳人が大笑いしてるので自然と目がそちらに向いた。
何の映像かはわからないけど跡部も可笑しそうに笑っている。
跡部は見た目にそぐわず結構豪快に笑う方だ。大抵は格好つけてニヒルに決めてみたりするけど喜怒哀楽はわかりやすい。
だから今見てる跡部は1番自然で本物なんだよね。一緒に見てる樺地も嬉しそうだし。
「跡部ってバカだよねー」
「渡瀬もそういぅとったわ。でも、バカというより子供なんちゃうん?跡部もちゃんも」
「…忍足ってどっちの味方なの?」
自分だって同い年じゃん、と思ったが関西メガネは変なところで達観してるからあながち間違いじゃないのかも、と頭の片隅で思った。
「俺はどっちも味方してるで?友達やしな」
「ふーん」
「ちゃん達とつるむんは楽しいし、続けられるんならその空気保ちたいなぁ思たんや」
「…そうだね」
ロッカーに背を預けたまま零す忍足の横顔見て思わず驚いてしまったが、でも確かにそうだな、と頷いた。多分それはきっと無理なんだろうなと心のどこかでわかってたけど、忍足の気持ちは十分伝わってきてジローもそうなればいいのに、と切に願った。
「忍足、後であの映像ちょうだい」
「ええで。あ、そうや。跡部っ!その映像欲しいのあったらコピーしたるわ」
操作する岳人の横で見ていた跡部がこちらを見て驚いた顔をしたが忍足の言葉を理解すると「…あ、ああ」とどもりながら返してきた。まったくもって跡部らしくない。そんだけ映像に集中して見ていたんだろう。
「跡部の顔ニヤニヤしてるC〜」とつつけば途端に眉をひそめたのでジローはゲラゲラ笑った。確かに子供かも。
「ほんでジローはその映像コピってどないするん?」
「もち日吉に見せんの」
絶対羨ましがると思うんだよね。にかっと笑えば、「絶対嫌がると思うわ」と忍足が可笑しそうにニヤリと笑った。
それぞれ思うこと。
2013.10.29
2016.01.23 加筆修正