□ 見てはいけなかった - In the case of him - □
「だから、何で私を呼ぶの!」
今日は部活もないし普通の休日を満喫するぞー!と思ったら電話で泣きつかれこんなところまで来てしまいました。ここは氷帝中等部のテニスコートでが睨んだ先には全国大会という大仕事を終えた日吉部長がふんぞり返っている。
「呼んだのは俺じゃありませんよ」
「そうだけど!でもアンタ部長じゃん!」
「鳳は副部長ですよ」
「そういう問題じゃない!」
うがーっと叫んだが日吉は素知らぬ顔だ。最終権限はアンタにあるっていうのに何で断らないんだよ!態度でかく椅子にどっかり座るキノコ頭に益々跡部さんに似てきたな!と思った。
こういう呼び出しは1度や2度じゃない。何でか見計らったようにの時間が空いた時に連絡が来て、こうやって他校のコートでマネージャー業をする羽目になるのだ。
私にも休息を!という思いを込めて叫んでみたがどんどんへこんでいくのは目の前のキノコ頭じゃなく大きい身体をしてる鳳くんと樺地くんで、巨体のくせに可愛い反応をする2人に申し訳ないやら可愛いやらでそれ以上何もいえなかった。
こうやって毎回宥めすかされるから呼び出しにあうんだけどね!クッ!
今回の呼び出しはマネージャー業の引き継ぎの件もあって、それで呼び出されたんだけど別に私を呼ばなくたっていいんじゃないだろうか。
「跡部さんのせいで色々面倒なんですよ。だからこれを機会に全部変えようと思って」
「跡部さんの前は?」
「ここまでマネージャーがいなかったんで参考になりません」
それはないだろ、と思ったが困ってるのは確かみたいなのでは頭を掻くと「わかったよ」と諦めたように返した。
「ありがとうございます!先輩!!」
「ありが、とう、ございます」
「君達に言われるととても感謝された気分になるよ」
「…聞き捨てならないですね。俺だって感謝してますよ」
感極まって涙目の鳳くんに意外にも頬を染める樺地くんを見たらいいことしたなって思うけど日吉の顔を見ても一切そんな気は起こらない。鏡で見てみなよその顔、すっごい睨んでるから。
「…下剋上だ」
むっつりと命の危険に関わるようなことをいう日吉に鳳くんが怒るといつもの?じゃれあいが始まり、は樺地くんに後をお願いして現在のマネージャー達と話に向かった。
話し合いが終わる頃には日吉達の練習も終わり、書き出したノートを手渡すとそれを読んでそれなりに納得した顔になっていた。「あとはみんなで話し合って決めてね」と鳳くんに笑いかけると彼は見ていたノートから顔を上げ「はい!」と大きく頷いた。良い返事である。
これで役目も終わったぜ、と思い「それじゃ私は帰るよ」と手を振ったらマネージャー達に引き止められ、鳳くんに諭され、気づいたら3年生組と一緒にファミレスに行くことになってしまった。
お腹すいてたからありがたいけど奢られるのはちょっと…。奢るのも勘弁してね。お小遣いじゃ全然足りない人数だから。
「今日はありがとうございました」
お腹を満たしてみんなと別れるはずだったがなんだかんだと駅まで一緒に帰ることになってしまった。後ろも前も氷帝の生徒に囲まれてなんだかボディーガードみたいだ、と思っていると隣にいたキノコ頭がぼそりと呟き、その言葉に目を見開いた。この子、お礼言えたのね。
驚き見やると反射のように奴は睨んできたがいつもより威力が弱い。顔が少し赤いからかな?
「でも良かったよ。またケンカでもしたのかと思ってたから」
「しませんよ。そんな暇があるなら練習してますから」
「ほうほう」
よくもまぁそんなことが言えたもんだ。
数ヶ月前はテニス部の危機だって言って呼び出したくせに。
ニヤニヤと日吉を見やれば彼は嫌そうに顔を歪めるが何も言い返さず前を向いた。も習うように前を見ると丁度そこに志木さんがいて笑みが溢れた。
募集し直したマネージャーはすぐに定員になり、誰も来ないんじゃないかっていう鳳くんの心配は杞憂に終わった。
しかも蓋を開ければそのほぼ全員が解雇されたマネージャーで日吉が安堵したのはいうまでもない。と鳳くんに聞いた。
「よかったね」と日吉に微笑みかければ、何か言いたそうに眉を寄せた彼が口を開いたが何も言わずにそっぽを向いてしまった。困ってるというか、戸惑ってるというか。あ、そうか照れたのか。
手の甲で頬を擦る日吉にクスクス笑いを堪えれば彼は今度こそ赤い顔で「なんですか」と睨んできたので声を上げて笑ってしまった。可愛いところもあるじゃないか日吉。
駅に着いたら着いたで、何度も手を振っては話し、という行為を繰り返してしまい、堪りかねた日吉が「いい加減にしろ!」と怒ったところで解散になった。
氷帝の後輩達って結構親しみやすかったんだなー、と今更しみじみ思った。鳳くんは時々ズレるけどそれ以外は結構普通の感覚だと思う。
テニス部しか知らないけど、多分きっと跡部さんが飛び抜けて凄いんだろう、そう思った。
「…っ!」
そんなことを考えて歩いてたせいだろうか。カードを取り出し、改札機に向かう途中でやたらと目立つカップルを見つけた。
こんな公衆の面前でイチャつくなよ、と呆れたがその2人を見て目を見開いた。
片方は自分と同じ立海生で、もう片方は氷帝のよく知ってる人物だった。2人は改札機の前まで行くと繋いだ手を名残惜しそうに揺らし、それから女の子の方が爪先を伸ばし腕を彼の首に絡めた。
その光景を見た途端、弾かれたように後ろに下がったはそのまま来た道を小走りで戻っていく。何で?何で?とグルグル頭を回ったが別におかしいことじゃない。
そんな話を彼女はしていたじゃないか、と思ったがその時のには冷静に考える余裕などなかった。
「あ、れ?日吉くん?」
階段を下ると階段脇で携帯を弄ってるキノコ頭を見つけ目を瞬かせた。日吉と携帯ってあんまり似合わないね。
ちょっとだけ弦一郎と同じ匂いがする彼に声をかけると思いきり肩を揺らした日吉がゆっくりとぎこちない動きでこっちを見、そして目を見開いた。驚いてるな。まぁ、驚くよな。
「…帰ったんじゃなかったんですか」
「あー……いや、時間見たら乗りたい電車まで結構あってさ。コンビニで時間を潰そうかと」
ぎこちなく聞いてくる日吉にぎこちなく返すと彼は携帯をしまってこちらに歩み寄ってきた。そのまま通り過ぎて帰るのかと思いきや「つきあいますよ」とかいってそのままついてこようとする。どういう風の吹き回しだろうか。
周りを見ても日吉以外氷帝生は誰もいない。誰かと待ち合わせしてたとか?だったら悪いことしたかな?でもさっきは早く帰りたそうにしてたし…わかんない奴。
まさか改札口で見たあの人を待ってたわけじゃないよね、そこまで考えたら急に気持ち悪くなってせり上がるものに胸を押さえると、日吉がどうしたのかと覗き込んできた。
「…別に、気を使わなくてもいいのに」
「気なんて全然使ってませんよ。たまたまコンビニに用事があっただけです」
「ふーん。じゃあお言葉に甘えようかなー」
「用が終わったらさっさと帰りますから」
そういいながら日吉はが帰るまで一緒にいてやろうと思っていたのだけど、照れくさくて口にはできなかった。
コンビニまでの距離なんて大してないが日吉は鼻で笑ってさっさと歩いていく。せめて歩調ぐらい合わせろよ!と思ったが彼らしくては無理矢理笑うと「コノヤロウ!待ちやがれ!」といって彼の背中に突進してやった。
2016.01.05