夕日だけが知っている




が走っていったのは城の方とは少しずれていて慌てたが思ったよりすぐに見つかった。
団子屋の前で立ち止まってる姿に政宗は思わず足を止めてしまう。
肩をすくめる姿に、もしかして泣いてるんだろうか、と思ってしまったからだ。

まさか、あの視線は嫉妬していたんだろうか。自分以外の女にかまけて放っておかれたからそれで面白くないと思ったのでは?だったら逃げずに主張すれば良かったのに。などと思考を巡らせた政宗は気づけばを抱きしめていた。

「ぎゃ!…っま政…藤次郎さま?!ちょっ何やってるんですか!」
「見つけたぜkitty.この俺から逃げられると思ってんのか?」
「別に逃げたつもりは…ってもう放してください!公衆の面前ですよ!子供もいるのに!」
「Ah?」

耳元で甘ったるく囁けば首まで真っ赤にしたが腕を突っぱね騒ぎ立てる。
公衆の面前ってのはこの刺さるような視線でわかっていたが子供までは気づかなかった。の影に隠れてしまうくらい小さなガキは3、4歳くらいの坊主でさっきまで泣いていたのか目が赤く腫れている。そいつは何でか俺を見て固まりやがりやがった。


「団子を買ってやったのか?」
「はい。少なくとも泣き止むと思って」
困り果てた顔で笑うと団子を口いっぱいに頬張るガキに悪戯する気が失せた政宗は腕を解くと「これからどうするんだ?」とに聞いた。

「そうですね。とりあえずこの子の家か親を探さないと…」
「ちょいと待ちなよ!」
「「え?」」


顎に手をあてて考え込むの横顔を眺めていれば叱るような声が響き、と一緒に顔を向ける。そこには棒を持った団子屋のおかみが挑むような顔で俺を睨んでいた。

「あんた、この子のなんだい?」
「え?」
「お、おばちゃん?あの、この人は」
「あんたは黙ってな!女の子を羽交い絞めにするような男だ!もし悪さするようなら私がただじゃおかないよ!」

と坊主を背に隠し、果敢に挑んでくるおかみに俺は頭を掻いた。悪戯のつもりが周りにはそう見えるらしい。おかみの声に周りの奴らも不穏な視線を寄越してくる。
そうだった。こいつとの関係を考えるの忘れてたぜ。傍から見たらただの子供だからな。

「い…従兄!従兄なんです!!お休みをいただいたので藤次郎"兄さん"に町を案内してもらってたんです!」
「…本当かい?」
「ああ。まぁな」

その子供のがおかみを引っ張り必死に取り繕ったお陰で政宗の疑いは何とか晴れたらしい。ついでにこの辺をうろつく"いい男"と噂の"藤次郎"だとわかってからはおかみの態度は一変した。
照れくさそうに笑いながらおかみは政宗の背中を叩くと「また寄っておくれ」といって見送ってくれ、ついでにと手を繋いでる迷子の坊主の家も教えてくれた。


「おうち、ここ?」
「うん」
辿り着いたのは町外れの長屋で頷いたものの、坊主はの手を放そうとしなかった。むしろ中に入れといわんばかりに手を引っ張るので政宗はムッとした顔でそ2人のやりとりを眺めている。
さっき坊主に声をかけたらまた泣かれたのでに泣かせるなと何でか叱られたばかりだ。これ以上不快な思いはしたくない。したくないが面白くはない。

「せん太!!」
「母ちゃん!」

そのうち坊主に気がついた長屋の住人が母親を呼び出すとその姿を見たせん太は今度こその手を放し母親の元に走っていった。
抱きしめられる坊主に政宗は目を細めそれを外した。あの光景に何の感情も浮かばないが見ていたいものでもない。いいものではあるが羨ましいものではない。そんな気分だ。

何度も礼を言う母親にはとんでもない、と返しぐずるせん太にまた来ると約束をしてやっと解放される頃には日は西に傾いていた。



「すみませんでした。つき合わせてしまって」
「構わないぜ。用事はすんだしな」
今日の用事はを1日連れまわして髪紐を買ってやることだったのだから。の胸元には買ってやった櫛も入ってる。いつの間に?と首を傾げるを微笑ましく思いながら政宗は彼女の足裏に手を回すとそのまま抱き上げた。

「ちょ!うわ!何するんですか?!」
「HAHAHA!驚いたか?」
「驚きますよ!ていうか下ろしてください!!また変な目で見られますよ!!」
「日が暮れるこんな刻限にここら辺をうろつくのはいねぇよ」

もう城下町を抜け、城に向かう道だ。いたとしても部下の野郎共くらいだろう。腕を突っぱねるの持ち方を変えてやれば彼女は慌てて抱きついてきた。不意に香る匂いと温かさに目を閉じた。

「…よかったんですか?」
「何がだ?」
「小間物屋で声をかけてきた人達放ってきちゃったんですか?」
「ああ、名前も知らねぇしな。別に礼をされることもしちゃいねぇよ」


その後何があるかは大体予想はつく。それで1日潰れるくらいならと遊びまわってる方が面白いに決まっているからな。あからさまに肩の力が抜けたの背を撫でると「嫌われても知りませんよ」と茶化すような声が聞こえてくる。

「それくらいで嫌われるような俺じゃねぇよ。Don't you think so?」 (お前もそう思うだろ?)
「フフッ自信満々ですね」

やっと笑ったに安堵した俺はずっと触れたかった髪にキスをする。くすぐったいとが身を捩ったが追いかけるように何度も髪にキスをした。


「政宗さま」
「ん?」
「ありがとうございます。追いかけてくれて…」

凄く嬉しかった。

くぐもったように聞こえるのはがぴったりとくっついているせいだろう。政宗は顔が見たくなって引き離さそうとしたり頬をくすぐってみたが恥ずかしいのかの手はかっちりと政宗の首に回ってて離せなかった。…可愛いことしやがるじゃないか。

「髪紐と櫛、大事にしますね」
「ああ」

揺れる瑠璃色と山吹色の髪紐を眺めながら政宗はを抱えなおすとそのまま城への道を歩き出した。




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2011.09.15
英語は残念使用です。ご了承ください。

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