覚めない夢・6
「」
ぎゅっと胃の辺りが締め付けられる。吐き出す息も自分でわかるほど緊張していて浅い。落ち着け、落ち着けと言い聞かせて目を開ける。顔を上げれば鋭い隻眼がまっすぐを見ている。
1つしかないのに相変わらず強すぎて心臓を貫かれるんじゃないかと錯覚してしまう。
私が普通の子供と違うのはもうとっくに知られてる。その度に政宗が嬉々として私に構うのも知ってる。その知識のお陰でここで生きていけてるのも知ってる。
きっと全部曝け出してしまったら楽になれるのに、そうしてしまったら彼の興味がなくなってしまいそうで怖い。その事実を話して殺されない、という保証もない。
「何が不満だ?」
「いえ、不満など」
「件の首謀者を殺せばいいか?」
心臓と一緒に身体も跳ねた。政宗は私を閉じ込めた人達に制裁を与えないことを不満だと思っているのだろうか。
「政宗さま。私は恨みで人を殺めるつもりはありません」
「寝首をかかれてもか?」
「はい」
偽善だと思う。けれど私は21世紀の一介の平和ボケした市民で自分が生きるために他人を殺すことはできない。動物や魚を食べることはできても同じ人間の命を奪うことはできない。
「私は臆病者です。死を受け入れることは出来ても、他人の未来を奪う覚悟がありません」
後ろに下がり、は平伏した。私は誰よりも自分の命の重さを知っている。ここで政宗に彼女達に仕返しをしてほしいと願い出ても何のプラスにもならない。私にとっても。勿論政宗にとっても。
これくらいのことで恨むとかそれを晴らすとかあまりにも小さいことなのだ。
それに私が死んで泣いてくれるのは妹でも両親でも誰でもなく祖母だけで、でもその祖母も去年他界した。だから私を生涯を通して特別に想ってくれる人はいない。この世界も。元の世界も。
「…なら、お前を貶めた奴らの crime を許すというんだな?」
「はい」
「………」
「…………政宗さま」
黙り込む政宗に少しだけ顔をあげ伺うと、眉を寄せた厳しい顔と目が合った。怖い、と素直に思ったけど垣間見える悲しみの色に視線を下げた。何故そんな顔をするのだろう。
「政宗さまのお手を煩わせたこと、深くお詫びいたします。お咎めがあるのでしたら思惑を見抜けず仕事をまっとうできなかった私めが受けます。ですから、そのお怒りをお収めいただけませんか?」
「……Duh. お前が悪いんじゃねぇよ」
ハァ、という溜息と一緒に頭を撫でられは今度こそちゃんと頭を上げた。
「ったく、お前を見てるとガキだってこと忘れそうになるぜ」
「……っ!」
「今回はに免じてあいつらを見逃してやる。だが次はねぇ。それでいいな?」
次に何かあれば確実に殺す、そういう目で見てくる政宗にの心臓はぎゅっと縮まったが、言い返せばいった言葉を解消されそうだったので口を噤んだ。了承の意味を込めて頭を下げようとすれば、その前に腕を捕まれそのまま政宗の胸に落ちた。
「え?あ、あの…」
「いいからこのままでいろ」
何を思って抱きしめられてるのかわからなかったは目を白黒としたが、がっちり回されてる腕は簡単には放してくれなそうだった。
「You might live.」 (生きててよかった)
微かに聞こえた声と何度も撫でる大きな手には胸が熱くなって鼻がツンと痛くなった。
今迄もこれからも私はただ生きていくのだと思っていた。
誰からも特別に必要とされず流れていく日々と記憶の中で朽ちていくのだと。
流す涙も一時的なもので、相手を傷つけるほど強い存在になりえないのだと、そう思っていたけれど。
けれど、もしかしたら…もしかしたらこの人は違うのかもしれない。
そう思ったら全身の力が抜けて身を委ねるように目を閉じた。
抱きしめる腕が、分け合う体温が心地よく温かい。
兄などいないのに酷く懐かしくて愛しくて。
私がずっと欲しかったものだと気づく。
そうして私は酔いしれる。伊達政宗という人に。
たとえそれが、いつか醒める夢であっても。
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2011.05.11
英語は残念使用です。ご了承ください。
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