覚めない夢・5




山も土も真っ白に変えた雪は、空と地の間の空気すらも埋めてしまわんばかりに降り続けていた。コンコンと降り続ける雪を見ながら、ヘタをすれば明日にはの胸くらいまでにはなるんじゃないだろうかと考え、身震いをする。
はぁ、と手に息を吐いたは目的の場所につき声をかけた。中から控えめな声が聞こえ、襖を開けると読んでいた書物から目を放した政宗が手招きそれに従い中へと滑り込んだ。

「身体の具合はどうだ?」
「お陰様で大分良くなりました。ご心配ありがとうございます」
「It's OK.…んで、何で呼ばれたかわかってんな?」

火鉢を囲むように政宗の隣に座り、微笑んだ顔を引き締めた。

「奴等に何かされたか?」
「いえ、私は道具を持ってくるようにいわれただけで何もされてません」
「Really?」
「Sure.」

全てを見透かすような鋭い左目には腹に力を込めて頷いた。本当に何もなかったのだ。だから安易に信じてしまった。小十郎にそういったら「注意力が足りない」と叱られたけど。


「ただ、魔が差しただけかもしれませんし」

相手は政宗を慕う上女中だと聞いた。はあの辺の人達とはあまり話をしたことがない。だから声をかけられた時ひどく驚いた気がする。
あの女中達は自分より低い身分を毛嫌いしていて、それで今回の事件が起きたんじゃないかと噂話で聞いた。この時代の井戸端会議を見るとは思わなくて他人事のように感心してしまったけど、政宗は怒りを露にの肩を掴む。

「魔が差して殺されるところだったんだぞ!」
「その時はその時です。運がなかったと諦めるしかありません」


この世界に来てもう半年も経った。帰れる兆しはまだない。


「ここで働くことになった時、覚悟も一緒に決めておりました」



覚悟らしい覚悟なんて政宗達に比べたら天と地の差かもしれないけど。それでも自分なりに腹を括った答えだ。
この世界でこれだけ優遇されて生きてるのだ。BASARAの世界で、戦国の世界で考えれば農民出の孤児が小十郎に拾われただけでもラッキーなのに政宗にこうやって構ってもらえるなんてラッキー以外の何ものでもない。

そのせいで他の人に妬まれたりするのはごく自然なことだと思った。


「だから大丈夫です」


彼らの好意を跳ね除けて放り出されたら間違いなく自分は死ぬだろう。それならば触れたい世界で触れたい人達と共に過ごす方が最も効率よく有意義なんだと思えた。
それが明日までなのか数年先なのかわからないけれど、帰れない今はまだこのままでいたい。

そんなない交ぜな顔で政宗を伺えば眉を潜めた彼がを引っ張り腕の中に閉じ込めた。

「…んな顔すんじゃねーよ。 Don't cry my kitty.」
「………」
「お前は武将じゃねぇんだ。だからそんな覚悟持たなくていい……子供らしくお前はただ、笑って俺の傍にいればいいんだよ」

そんなに早く大人になるんじゃねぇ。とくぐもった声が聞こえた。その言葉になんとなくムッとしたけど可笑しくて、それから呆れて、少しだけ悲しくなって肩の力を抜いたは彼の蒼い着物を引っ張るように握り締めた。


「嫌です。私いつか政宗さまを守れるような大人になるんですから」

子供からやり直す羽目になったのはショックだったけど政宗の為ならまた頑張れる気がした。まあ、いらないっていわれるかもしれないけど、目標を立てるくらいは自由だよね。そう自分に言い聞かせていれば噴出すような笑いが聞こえてきた。


「…俺を守るなんていう言葉、こんな子供にいわれたのは初めてだぜ」
「ええそうでしょうよ。無謀なのはわかってます。でも」

「ああ。後にも先にもお前だけだ」


遮るように政宗が言葉を連ねると耳元でリップ音と共に「Thanks.」と聞こえは固まった。


ああ、きっともうこの温かさから私は逃げれない。




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2011.05.11
2012.05.11 加筆修正
英語は残念使用です。ご了承ください。

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