4つの卵と小袋・1




身を切るような寒さに腕を擦りながら戸を開くと、空は久しぶりの快晴では「おおっ」と声を漏らした。
奥州の雪はを簡単に覆ってしまうような降雪量で、特に正月からの三が日までは1日中雪が降って朝夕に1回ずつ総出で雪かきをしていた。

寒いのは好きではないが雪は好きだったも雪かきという重労働にさすがに根を上げていた。その為、晴れやかな空を見上げ思わず安堵の息が漏れてしまうのも無理はない。
これなら朝は雪かきしなくてもすみそうだ。太陽に照らされキラキラと反射させた雪に目を細めたは口を弧に描き勝手場に急いだ。

!お前さんにお客だよ!」
「へ?誰ですか?」

朝の朝礼も終わり持ち場に向かおうとすると声をかけられ、勝手場の外に出た。するとそこには羽織を何枚も着込んだ40代くらいの女性がいてを見るなり笑顔になった。


「新年早々呼び出して悪いね」
「いいえ。それで何のご用ですか?」

この人を伺うとどうやら面識があるらしい。でもは記憶になくて困惑してしまう。
そんなを余所に女性は抱えていた風呂敷を解くと目の前で広げて見せた。

「わぁ!卵だ!!」
「あんたのことは旦那から聞いたよ。うちの田んぼの稲を守ってくれただろ?始め聞いた時は食い扶持を狭くしてどうすんだい!って文句もいったが今は感謝してるんだ」
「あ、もしかして定吉さんとこの」
「ああ!あのぐーたら亭主の女房さ」


"おきよ"という定吉の女房はケタケタ笑ってその時のことを話し始めた。
まだ小十郎の家に世話になっていた頃、雨が長く降り続いたことがある。それでそこを治めてる小十郎と一緒に近くの田を見回っていたら定吉に出会い悩みを聞いたのだ。

その悩みというのは水路から水があふれてきて稲を腐らせ困ってるというものだった。見てみると水田を作る時、水引に使う為の水路が板切れ1枚しかなく用水路との距離も狭い状態だった。
これじゃ確かに水が染み出て稲を腐らせてしまうだろう、と考えたは腐った稲を刈り取りそこを土で埋めてしまおうと小十郎に進言したのだ。

2人には奇異とした目で見られたけど殆ど毎年この状態になるというのでそれほど反対はされなかった。それから長くなった水路を板で固め隔離して田と用水路側に2つの水門を設けた。


「あの鉄板の水門は本当役に立ったよ!他の田んぼなんかうちよりも稲をダメにしちまったからね」
「そうなんですか?」
「ああ。片倉様にお褒めの言葉をいただいたくらいさ」

本当にありがとね!とおきよはの頭を撫でると持っていた風呂敷を手渡してくる。


「これはほんの礼さ。好きに使ってくんな」
「いいんですか?ありがとうございます!!」


深々とお辞儀をするとおきよは満足げに笑って勝手場を後にした。
手元を見ると今日産まれたらしい卵が4つと小さな袋が1つ。この時代の卵はとても貴重なのにいいのかな。それにこの小袋はなんだろう?と首を傾げると女中頭に声をかけられ慌てて勝手場に戻った。




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2011.06.01

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