4つの卵と小袋・2
一通り仕事をこなしたは勝手場に戻り、あまり立ったことのない厨でこそこそ動いていた。
かまどの火加減と煮える鍋のお湯を見て、その中心に入れておいた徳利を出し少し冷やす。それから先に溶いておいた卵にその徳利の中のものをゆっくり入れつつ掻き混ぜる。そして同じくお湯の中に入れておいた湯飲みを取り出し、その中に綺麗な琥珀色の液体を注いで、最後に搾った生姜汁を少し入れた。
「うっふっふ」
出来上がった液体に満足げに笑ったは温まった湯飲みを手にすると揺らめく湯気を愛しそうに眺め、口をつけた。
湯のみに温められた黄色い液体はの喉を通り、身体の温度を上昇させる。
舌に残る甘さに「うん、上出来!」と唇を舐めると持っていた湯飲みを誰かに取られた。
「Hum...随分変わった酒だな」
「えっ政宗さま?!」
「この黄色いのは…eggか。それに生姜も混ぜてるな。いいchoiceだ」
から奪った湯飲みを躊躇なく煽った政宗はつらつらと使った材料を当てていく。
そう、が作っていたのは卵酒だ。味見と称してこっそり呑もうと思ってたのに鼻がいいなぁ、この人。
そういえば、本物の政宗公は料理好きでずんだ餅とか開発してなかったっけ?目の前の政宗も料理好きなんだろうか?と考えていると首を捻り眉を寄せるのでどうしたのかと声をかけた。
「この甘いのは何だ?米の甘みにしちゃ随分濃いな…sugarか?」
「Yes.ああでもここの砂糖は使ってませんよ。あと、お酒もちゃんと余ったのをいただきました」
「ククッOKOK.小十郎には黙っててやるよ」
卵と一緒に貰った小さな袋を取り出し、政宗の手にサラサラと白い粉を落とす。「これも貰ったんです」といえば砂糖を舐めた政宗がニヤリと口元を吊り上げ卵酒をもう1杯寄越せと湯飲みを突き出してくる。
「小十郎から聞いたぜ。お前、定吉の稲田を弄ったんだってな」
「はい。田んぼ用の土って柔らかいから水を通しやすいと思って。安直な考えかなって思ったんですが、うまく収穫できたみたいでよかったです」
「That's a good idea!綱元も褒めてたぜ」
「綱元さまが?わぁ、なんだか照れるなぁ」
騒ぐのが好きな政宗、成実と後見人でオトンの小十郎が近くにいる為、殆ど話していないがは物静かな綱元に好感を持っていた。それに仕事が出来る大人に褒めてもらえると凄く嬉しい。
「この卵もそれの礼で貰ったんだろ?」という政宗に笑顔で返しは温めた酒を取り出した。卵と酒を混ぜ、温かい湯のみに注いで政宗に手渡すとくゆる卵酒の匂いに目を細め、湯飲みを煽りごくりと喉を動かす。
その一連の動きに見惚れていると空になった湯飲みを差し出され、それを取ろうと手を伸ばした。が、その手は政宗に取られる。
おかわりじゃないの?と首を傾げていると「」と呼ばれ顔を上げた。
「お前はこの卵酒をどういう時に飲んでるんだ?」
「私は味が好きでたまに飲んでますが、風邪のひき始めとかによく飲んでるみたいですよ。発汗作用があるとか殺菌作用があるとか…。当てにならないですけど…って政宗さま?」
なんでそんな目を輝かせてるの?
じっと見つめてくる政宗は興味津々、という文字が顔に書いてあって、しまった!と口を閉じた。もしかして卵酒ってまだ開発されてなかったとか?
タラタラと冷や汗を流していたが、政宗はそんなを気にも留めず、発汗とは何か、殺菌とは何か、と矢次に聞いてくる。
話しても大丈夫なのかな?と悩みながらも答えれば、がばりと抱きしめられた。
「You're the best!That's the reason I like you.」 (あんた最高だ!お前のそういうところ好きだぜ)
「へ?え?ホ…Why?」
強く抱きしめてくる政宗に痛いやら困惑するやらで彼を見上げると満面の笑みで頭を撫でられた。
「卵酒うまかったぜ。お陰で正月疲れも吹き飛んだ」
「そ、そうですか?それはよかったです」
「後で recipe 教えろよ?」
「イ、Yes, sir...」
そういえば三が日まで政宗は親戚や部下の人達の挨拶で、ある意味篭りっぱなしだったように思う。この会話も年末以来だ気がつき、酒を飲んでもいないのに急に身体が温かくなった。
政宗がいれば卵酒で温まる必要もないのかもしれないなぁ、と小さく笑うと耳元に息を吹きかけられビクッと肩を揺らす。
「次はの手料理が食いてぇな」
驚き、彼を見やると有無を言わせない目でを見つめていてドキリと心臓が高鳴った。
後から聞けば卵酒を作る手つきとか作業しながら出来る会話とかでこいつ料理できるんじゃね?と踏んだらしい。相変わらず勘が鋭い。
そんな感情がありありと見える、悪戯が成功したような顔で政宗はニヤリと笑ったのだった。
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2011.06.01
英語は残念使用です。ご了承ください。
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