イベント発生?




気候も春らしくなり雪も山の天辺を残してすっかり溶けた頃、がお世話になってる政宗の城では客人を向かい入れる為の準備が始まった。
先日、政宗から直々に武田・上杉と同盟を組むことになったと公表があったのだ。

も他の女中達と違わず、準備に取り掛かるはずだったのだが。


「なんで私だけ暇を出されたのかな…」


見上げた空は綺麗な水色で近くで鶯が鳴いている。なんとも長閑だ。
稲田が見渡せる小高い丘の上ではハァ、と溜息をついた。

絶対忙しいってわかってるのに何故か政宗と小十郎に暇を出され、は小十郎の家に帰されていた。しかも同盟の手続きが終わるまでの1週間ここで過ごさなければならないらしい。1週間なんていったら武田・上杉に絶対会えないってことじゃないか。


「見たかったなぁ。お舘さま…幸村も…謙信さまとかすがも…あー…」


ゲームキャラ勢ぞろいなんて戦でもなければそうないだろうに。ゲーム画面じゃない生の人達が拝めるかもって期待した私がバカだった。
ちくしょー、政宗のバカー。近くに生えていた雑草をぶちぶちと引っこ抜きながら政宗への文句を思いつくだけ垂れ流してやった。

戻っても絶対口をきいてやらないんだ。卵酒飲みたいっていっても作ってやらないんだ。
…て、これはレシピ教えちゃったから意味ないか。いや、そもそも雇ってくれてるのが政宗だから口きかないとか無理な話じゃないか?


城を出る間際の上女中の噂話なんか失笑もので「きっと殿に粗相をしてクビになったんだ」と物凄く嬉しそうにいってたし、事情を良く知らない小十郎の女中達も腫れ物を見るかのように扱うし、この前卵をくれたおきよには「失敗なんて誰でもやるもんさ!」と見当違いな励ましをしてくるし。
違うってわかってても本当にクビになった気がしちゃって、悲しくてならない。

その周囲の目に居た堪れなくなって仕方なく外をぶらぶらして、夕方くらいに小十郎の家に帰るという何ともいえない日々を過ごしていた。
まるでリストラにあったサラリーマンのおじさん状態だ。


「……いっそ帰ってしまおうか」


小十郎も城につきっきりで帰ってこないし、政宗の目もないから元の世界に帰る術を探すのは今しかない。

「せめて帰れるのか帰れないのかくらいは確認しておきたいなぁ」

自分が別世界の人間だという証明は政宗に預けたネックレスくらいしかない。その上、日に日に元の世界の方がどんどん色褪せてきていて、むしろあっちが夢だったんじゃないかとさえ思ってしまう日もある。
それなりに頑張って生きてきた時間がこの世界だとぎゅっと凝縮されてる感じで、今迄の自分ってなんだったんだろうって思ってしまう。
どれだけ適当に生きてきたんだ、私は。そう考え、また溜息が出た。


「あれ?」

風向きが変わり後ろから耳慣れない音が聞こえ、それと同時に森にいた鳥達が一斉に飛び立つ。神経を集中し耳をすませば遠くで草が擦れる音と木にぶつかる音が聞こえた。

普段の生活ではわからなかったが1人でいる時間が増え気づいたことがある。
前に野盗に追いかけられ死にそうになった時、音に随分敏感になっていた。
動物の鳴き声や木が擦れる音、それから動物や人が動く音。いろんな音に反応して聞き分けていたのだ。

それがここにきて十分に能力を発揮しているらしい。音の感じは1人か2人くらい。村の子供が猪にでも追いかけられてるのだろうか。
助けに行ったほうがいいかな?と山に足を踏み入れるとがさがさと草をかき分ける音がこっちに近づいてきた。

「っ?!」
「あ、」

背の高い草をかき分けてきた最初の色は同じ緑色だった。そして高級な紫色の着物を肩まで出した自分と同じくらいの男の子…。その人物に驚き声を上げると後ろでもう1つ近づく音が聞こえた。

「こっち!」

とっさに彼の手を掴むと近くにあった茂みに逃げ込む。彼の頭を押さえつけしゃがみこむ。するともう1人の人物も草むらから出てきた。


「(げっあの白い髪は…半兵衛?!)」


ふぅ、と前髪をかき上げた紫の仮面をしてる変た…竹中半兵衛には目を見開く。なんでここに半兵衛が?そんなの横で緑髪の子が憎たらしそうに睨みつけ起き上がろうとしたので慌てて引き止めると今度はこっちを睨んでくる。

「(邪魔すんな!)」
「(そんな傷だらけで戦えるわけないでしょうが!)」

そうなのだ。この緑髪の子…森蘭丸はかなり負傷していて血だらけになっている。
逃げてこれたあたり、深手は負ってないみたいだけど頭に血が上ってるから動けるだけかもしれない。かたや半兵衛は白い服を着るに相応しく怪我も返り血の汚れすらも見当たらない。これを見れば誰だってどちらが勝つか目に見えている。


「こんなところまで来てしまったか…僕としたことが…」

顎に手を当て暫く考える素振りを見せたがすぐに踵を返す。偵察に来ただけだったのだろうか。なら蘭丸も?と視線を送るが彼は半兵衛が気になっててそれどころじゃないらしい。とりあえず戦いを挑まないように腕を必死に掴んでおいた。




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2011.06.16

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