介入




半兵衛が遠くに行ったのを確認して2人はホッと息をついた。なんとか回避できたみたい。掴んでいた手を放すと蘭丸は訝しがるようにこっちを見やる。

「あ、傷大丈夫?」
「こーんな傷、へっちゃらに決まってんだ…いつつ」
「あーいわんこっちゃない」

多分半兵衛の技を食らってしまったんだろう。森の中にいたからよかったものの、平地だったらもっと酷い傷だったに違いない。
流れ落ちる血に眉を寄せると、は自分の袖を引き千切り蘭丸の腕に巻きつけた。


「な、何してんだよお前!」
「何って応急処置に決まってんでしょ」
「んなことするなっ農民のくせに!」
「農民じゃないよ」

例え農民でもそんなこと君に言われる筋合いはない。農民じゃなきゃなんだ?と更に不審な目で見てくる蘭丸を無視しては彼の膝を覗き込んだ。うわ〜血みどろなんですけど。

「良く頑張ったね〜痛くない?」
「へっ!男がこのくらいの傷で弱音なんか吐くもんか」
「そう、偉いね」

息巻く蘭丸が段々可愛く思えて(ゲーム中から子犬みたいで可愛いなぁって思ってたけど)膝に滲んでる血を優しく拭き取った。その際、痛そうに顔を歪めたけど見なかったことにして、布を巻きつける。


「お前、この辺の奴なのか?」
「お前じゃないよ、私は。住んでるっていうならそうだけど?」

締め付けすぎないように縛り、顔を上げると神妙な面持ちの蘭丸と目が合い首を傾げた。
そしたら何故か「そ、そうか」とどもって顔を逸らしてしまう。どうしたんだい?
挙動不審な彼に声をかけようとしたらすぐ目の前を何か平べったいものが通り過ぎた。
何だ?と考えて間に、蘭丸に腹を蹴られ後ろの木にしこたま背中をぶつけた。

「いった〜!何するのよ!!…え?」
「やぁ。こんなところに隠れていたのかい?」


腹を押さえ蘭丸を見れば、丁度誰かに蹴られ転がるところで目を見張った。その人物はさっき帰ったと思っていた人で日に、照らされた白がキラキラ輝いてる。
その持ち主の半兵衛がこっちを見て嬉しそうに、冷たい視線で微笑んだ。

風は木をざわめかせ、を追い込むように吹き付ける。その寒さに身体がぶるりと震えた。半兵衛はその細い腕のどこにそんな力があるのか蘭丸の胸倉を掴みあげ、ニヒルに口元を吊り上げる。

「仲間を隠してたのかい?…それにしては随分頼りない感じだけど」
「こっこんな奴が仲間なわけないだろ!」

逃げようと蘭丸は必死にもがくも全然ビクともしない。それに暴れたせいで余計に苦しそうだ。どうしよう、と目を走らせていると森の中で彼の透き通るような声が響く。


「ああ。君も何もしない方がいい。死が早まるだけだ」
「…それってどのみち私も殺すってこと?」
言葉の意味を汲み取って睨みつけると仮面の中の目を細めた半兵衛は「察しがいいね」と微笑む。その笑みがやたらと怖い。


「僕の姿を見たからには、ただでは帰さないよ」
「蘭丸が、お前なんかに負けるわけない、だろ!」
「…その怪我でよくそんなことがいえるね。なら君から先に殺そうか」
「…っ!!」
「ダメ!」

半兵衛がスラリと鞘から刀を抜いた。あの刀は知ってる。ゲームで散々使ったんだ。どこまで伸びるのか、どれだけ攻撃力があるのか、十分な程知っている。


引き止めた声に反応して2つの視線がこちらを向く。その冷たい視線に背筋が震えた。これだけ離れていても手が届く範囲だ。けどこのままじゃ蘭丸も私もただ殺される。
それは嫌だ。なんとか時間を引き伸ばして、逃げる方法を探さなきゃ。




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2011.06.16

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