オカン、叱る




慶次と折り紙を折りながら世間話をして、夢吉に遊んでもらって親睦を深めていると庭の方に何か大きなものが降り立った。緑?と思って視線を向けると1番最初に入ってきたのは日に透けた綺麗なオレンジと迷彩柄。それからあからさまに不機嫌な顔。

「あ、佐助さ…」
「このおバカ!!」


なんとなく嫌な予感はしたものの、それは見ないフリをして近づく佐助に笑顔で声をかければ頭ごなしに怒られた。

「俺様いったよね?ちゃんは嫁入り前の女の子なんだって。あんだけ怪我とか危険な場所に行っちゃダメっていったでしょーが!」
「え?いったっけ…っむぎゅぅ」
「いいました!!覚えてないとはいわせないかんね!」


こここっ怖っ!!佐助怖ぁーっ!!
にっこり笑ってるのに冷気しかこないんですけど!いっそ殺気なんだけど!!表情隠すのうまい佐助が笑顔の裏でメラメラ怒ってるのが滲み出てる…!!
ゾワゾワ!と背筋を震わせたは逃げたくて仕方なかったが佐助に両頬を潰さんばかりに押さえつけられ、目を逸らすことも出来ないでいた。

「ったくもう!額に傷だって?しかも相手は豊臣の竹中半兵衛だっていうじゃないか。敵の中でもあいつはとび抜けて冷酷な男なんだよ?もしかしたら斬られたのは目かもしれなかったし、首だったかもしれないんだよ?!」
「お、おい。そこまでにしておいてやりなよ…」
「アンタは黙ってて!ちゃん。自分が女だって自覚ないでしょ?忍とかじゃあるまいし。そんな傷作っても褒められるのは男だけなんだからね!?わかってる?」


勢い良く捲くし立てる佐助に慶次が水を差そうとしたがばっさり切られて大人しく引き下がった。うん、気持ちはわかる。本当は助けて欲しいけど慶次ってこういう時逃げることは出来ても助け舟を出すとか話を逸らすとかの技術持ってなさそうだもんなぁ。
それにこんな佐助に怒られるのは嫌だよね。特に慶次は矛先向けられたら色々困るだろうし。門とか塀とか絶対壊してるはずだもん。

「らいひょうぶらって。すぱっとひられらんらからあろらってあんましのこらないひょ」(大丈夫だって。スパッと斬られたんだから痕だってあんまし残らないよ)
「なら、ちゃんは俺様に怒ってほしくて傷を作ったのかな?んん?」
「いひゃい、いひゃい!顔ひゅうれちゃあよ!」(顔潰れちゃうよ!)


そんなぐいぐい力込めないでよ!まるでお母さんだ!と思ったのがバレたのかっていうくらい頬にかける圧力が強くなる。幸村の気持ちがやっとわかったよ。こりゃ怖いわ。
佐助のこと『オカン』って呼んでもいい?って、いつかいいたいとか思ってたけどこれは当分いえなそうだ。この状況でいったら間違いなく吊るされる。

「は、反省ひてますっれ…」
「俺様の目を見ていえる?」
「ごめんなひゃい。いもひをふけまふ」(以後気をつけます)
「…前も同じこと聞いた気がするけど…はぁ……しょーがない。今回はここまでにしてあげるよ」


やっとお許しを得て頬を解放してもらったは労わるように頬を撫でた。心なしか頬骨が痛い。変形したらどうするんだ、と思ったけどこれ以上怒られるのは嫌なので頭の中でブツブツ文句を並べ立てた。

「オカン…」

「何かいった?」


やばい。つい脳内で叫んだ言葉が漏れ出ちゃったのか?と口を押さえたが佐助の視線は慶次に向かっていた。いったのはあんたか、KG…。

「そーいやあんたには貸しがあったな。門の修理費とか塀の修理費とか」
「あれ?そーだっけ?」
ビンゴ!やっぱり慶次やらかしてたか。ずいっと間を詰める佐助に対して慶次は引きつった顔で後ろに下がる。

「真田の旦那にまで怪我負わせるし…。アンタが払えないっていうならあの夫婦に明細書送ってもいいかい?」
「げっ!待ってくれよ!!それはちょっと…」
「だったら、修理費分みっちり労働で返してよね」
「わ、わかったって!…あ、そうだ!も行かないか?」
「私?」
「そうそう!甲斐はいいぜ〜緑豊かだし食い物もうまい!武田の城下町や上田城も一見する価値アリだ!何より名物の信玄公もいるし!」
「うちの大将が凄いのはわかるけど見世物じゃないからね」


間違いなくみっちり働かされるのが嫌で緩和剤のつもりで声かけたでしょ。と慶次の心があからさまにわかったが奥州以外の領地を見るのは心が揺れた。
甲斐っていったら山梨でしょ?名産は桃だっけ?いいなぁ。桃なんてもう何年も食べてないや。捲くし立てる慶次に苦笑してる佐助を見やれば少し驚いた顔で目を合わせてきた。

「佐助さん。甲斐に桃ってある?……あ、咲く方じゃなくて」
「水菓子の桃のこと?あるにはあるけど、滅多にお目にかかれない高級菓子だよ」
ふと、つい最近木に咲く桃を見たのを思い出し付け加えると、大将の献上物で何度か見たことあるけど。と返ってきた。この時代だと希少な食べ物らしい。やっぱり無理かぁ。


は桃に興味あんのかい?」
「んー。ちょっと前に噂で聞いてたから。それより甲斐ってそんなに楽しいの?」
「楽しい楽しい!京都の祭りほどじゃねぇが賑わってていい人達ばっかだぜ!!なっ!」


ちゃん、ホントに武田に行く気あるの?」


そんな希少価値なものの話をしてたらボロが出そうだと思ってすりかえれば慶次は嬉しそうに何度も頷いた。肩に乗ってる夢吉も頷いてる姿はなんとも微笑ましい。その笑顔のまま傍らにいる迷彩忍に同意を求めたが、何故か佐助は真剣な顔で私に詰め寄った。

「きょ、興味はあるけど…」
「赤くて煩くて毎日派手に殴りあったり無駄に暑っ苦しい人達がいるけど、それでも大丈夫?」

佐助さん、本音漏れてませんか?明らかにお舘さまと幸村だよね?

「興味はありますよ」

それも含めて、むしろそっちがメインで興味ありますとも!今だって探しに行きたいのをずっと我慢してるんだから。
興味深々です、といわんばかりにきっぱりいうと佐助は顎に手を添え「そう」と呟くと少し考える素振りをしてからこっちを見た。


「わかった。大将に聞いてみるよ。まっダメでも真田の旦那なら引き取ってくれるだろうし」
「引き取…?」
「おっし!頼むぜ!!」

「…いっとくけどあんたの為じゃないからね。前田の旦那」


嬉しそうな慶次の横では首を傾げた。今佐助がいった台詞はおかしくないだろうか。引き取る?遊びに行くだけで?どういうこと?と考えてるうちに佐助は音も立てずにその場を後にした。




-----------------------------
2011.08.14

BACK // TOP