大好き




「好いた奴でもできたか?」
「…ノックアウトできるくらいいい女になれっていったのはどこの誰ですか?」

驚き見やってくる政宗にはにっこり笑った。政宗はからかい半分でいってるのはわかってる。だからどっちでもいいかなとは思ってて。
求められれば応えたいとか、救ってくれた恩人を支えたいとか。帰ること二の次でここまで思えるようになったんだから相当絆されてしまったということだ。

本命の奥さんがいると政宗の口から聞いて結構ショックだったけどそれだって仕方ないことだし。当たり前のことだし。
政宗をじっと見つめていると固まったように動かなかった彼がコトリとお猪口を置くと2人の隙間を埋めるように間合いを詰めてきた。


「俺と身体を合わせる覚悟があるのか?」
「覚悟…というか、求めるのは自然の摂理なのでは?」

覚悟というのは政宗の子供を宿してからいう言葉であって、身体を合わせるだけで覚悟が必要だとは考えにくい。現代社会でもしのような子供に手を出すなら間違いなく警察にご厄介になる覚悟が必要だろうけど。
それすら打ち消せるくらい政宗の立場は強く高いものだと思ってたけど彼の表情は硬いままだ。

「…俺と添い遂げるということはこの醜いものを見るということになるんだぞ」
「…っ!!」

ゆっくりとスローモーションのように外された眼帯にの肩が揺れた。月の光に照らされただけでもわかるおうとつにぞくりと背中が粟立つ。


「おぞましいだろう?」
「………」

暗く、挑発ともとれる視線には息を呑んだ。まさかここで打ち明けられると思ってなくて内心焦った。彼にとってかなりナイーブな部分だからあえて触れなかったし、彼も明かす気などないのだと思ってた。
それだけ自身も政宗の中に入り込んでいるのだろうか。そう思ったら今度はワッと身体が熱くなった。


「触れても…?」

慎重に言葉にすれば政宗はゆっくりと目を閉じた。それに合わせるように左手を右目があった場所に添えると目に見るよりはっきりとしたおうとつが伝わってくる。

「怖いか?」
「………少し、」
「気味悪くないか?」
「いいえ、」

震えた指先を感じ取ってしまったのか政宗の低めの声が鼓膜を揺らす。政宗も緊張してるんだ。


「とても痛そうに見えて」

くぼんだ右目は正直ゾッとしたけど人間の神秘みたいなのも感じている。この瞼の裏には何もなのだ。その暗い空洞に震えはするけれどそれでも人は生きていられるんだという不可思議な気持ちになる。
役目を失った右瞼を撫でると政宗の左瞼が怖がるように揺れた。

「痛みはないんですか?」
「ああ」


確か、本物の伊達政宗はあの時代にしては長生きをしてた気がする。手足が失うよりも脳に近い目が失われる方が危険性が高いように見える。
でも実際はただのパーツが欠けただけに過ぎないのかもしれない。

触れていた左手と伸ばした右手を政宗の首後ろに回すとそのまま引き寄せるように抱きしめた。政宗にとって人生最悪な日々を過ごさせたであろうこの右目が、ただ人の身体に添えるだけのモノだとしたら…なんて滑稽な話なんだろう。


「知ってますか?女は完璧な形よりも実は少し欠けてる方がとても魅力的に感じるんですよ」
「What?」
「人は何かしら欠けて生きているものです。完璧な形になろうと必死に努力して欠けた場所を埋めていくんです」
「……」

「その直向な姿に女は惹かれるんですよ」


元々完璧な人は(まぁ滅多にいないけど)埋める努力が必要がないから見る機会もない。政宗はこの失った右目があったから努力して今の地位がある。
もし仮に何も失わずにきたなら母親の愛情は受けられたけど、その代わりここまで小十郎や成実達との絆があったかはわからない。

「お前は時々、仏の教えみたいなことをいうんだな」
「変ですか?」
「Non.女が惹かれるってところが気に入った」
「フフッそうですか」


完璧な形に人が入る隙はない。だからこそ私も女も人も欠けたところを埋めようと寄り添い支えあいたいって思ってるんだろう。
の背に回った手がぎゅっと力が入り政宗との隙間が完全になくなってしまった。足以外冷たい場所がないくらい今の私の身体は温かい。

「両目が見えていた頃の政宗さまは知りませんが、私は眼帯をしてる政宗さまの方が凄く格好いいと思ってます」


それが隠す為のものだったとしても。


「政宗さまはそのままでも十分に魅力的な方なんですよ」


柔らかい髪に頬擦りして抱きしめる腕を強めればそれ以上に強い力で抱きしめられた。てっきり「そんなことは知ってる」と返ってくると思ってたのに政宗は無言のままで、暫くそのまま2人は抱きしめあっていた。




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2011.09.07
英語は残念使用です。ご了承ください。

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