藤次郎さん




「…魚屋と油問屋、と。これで終わり!」
人にぶつからない店の屋根下で紙を広げたはお店の名前を数え上げ大きく頷いた。
今日は買い物の発注で城下町にまで来ている。物が多いので品物自体は持ってきてもらうんだけどその注文はこうやって足で回るのが伊達の習わしらしい。

元いた世界ならメールや電話でことを済ませていたけど、これはこれで慣れるとなかなかに楽しい。きっと賑わい動く人達や目新しい商品を見て回れるからだろう。徐々に顔も覚えてもらえてるしね。

「終わったら寄り道してもいいって佐和さんにいわれたし、あそこにでも寄っていこうかな」
うひひ、とほくそえんだはこの城下町でも美味しいと評判の団子屋に向かった。


「おばちゃーん!お団子くださいな」
「はいよ!あらまぁちゃんじゃないかい。今日は藤次郎さんは一緒じゃないのかい?」
「はい。今日は仕事のお使いで来てたんで」
「じゃあ藤次郎さんも寂しがってるだろ?これおまけしとくから一緒にお食べ」
「え゛っ?!あ、ありがとうございます」

どうやらおばちゃんは2人1セットで覚えているらしい。確かに政宗とのコンビは見た目凸凹で面白いんだろうな。っていうか政宗が寂しいってどういうこと?普通逆じゃないの?
そう思ったけど口にはせず、は笑って団子を受け取った。


小十郎に隠れてこっそり政宗と城下町に来た時、『藤次郎』で名乗っているのと城下の人達と顔見知りということにひどく驚いたことがある。
それだけ政宗が常習犯だってことに涙が出そうになったけど(小十郎の苦労が垣間見えて)、質素な服を着てても滲み出る上品な雰囲気に臆することなく普通に話かけてるおばちゃん達にも驚いた。

口調や見てくれはともかく、育ちがいいのは隠しようもないからきっと気づいてるんだろうけど、みんな『藤次郎さん』を親しい仲間だと思ってくれてるらしい。


「あら、今日は藤次郎さん一緒じゃないの?」
「ああ残念。折角髪を結い直したのに。ほらしなやかな髪、色っぽいでしょう?」
「いい品が入ったんだ!この前のあんたと旦那の目利き大いに役に立ったからさ。今度も頼むっていっといてくれよ!」
ちゃんの色男は一緒じゃないのかい?…だそうですよ!…いやね、爺さんがあの坊やと勝負したいって煩くてね。この辺じゃ負けたことがなかったから悔しいんだろうけどさ。気が向いたらでいいから相手してやってくれっていっといておくれよ」
「あー残念。藤次郎さんが来たと思ったのに…。慌てた私が馬鹿みたいじゃないか。…今度来る時は藤次郎さんをちゃんと連れてきておくれよ」


すれ違う度そんな声をかけられては笑顔で返して、てくてく歩いていくこと20分。
その場所には散りかけの1本の桜がある。根元に1人だけ座れる岩があってはそこにちょこんと座った。ここは前にお使いで迷子になった時に見つけた場所だ。

両側に立ち並ぶ城下町とその間に真っ直ぐそびえ、空の青に浮き立つ政宗の城があまりにも綺麗で。その景色を初めて見た時感動してしまったはここを忘れられないでいた。だから次に来た時はここで団子を食べてゆっくりしようって決めていたのだ。

「やっぱりここの団子おいひぃ〜」
「…呑気に道草とはいい根性してんな。お前」
「?!…っ!政?!…藤次郎兄さん?!」

さっき買った団子を1本手に取り口に含むと後ろから地を這うような恨みがましい声が聞こえ慌てて振り返ると何でか息を切らした政宗が立っていた。
ちなみに藤次郎兄さんとは前に思わず作ってしまった設定だ。藤次郎の従妹で城に奉公してる。それが私だ。


「なんでここに??」
「Ah〜油問屋にちぃとばかし用があっていたんだよ」
「え?もしかしてまた抜け出したんですか?!」
「人聞きの悪いこというな。俺は大事なbusinessの話があってだな」
「そういっていつも小十郎さまに叱られてるじゃないですか」
「…っそういうテメェこそいいのかよ」
「私はちゃんと佐和さんにお許しを貰って寄り道してるんです。政宗さまと一緒にしないでください」
…お前最近sassyだぞ」
「そう思うなら堂々と来れるようにちゃんとお仕事をなさってください」
「…I can't take this any more.こっちはお前に何かあったのかと思って必死に探してたのによ」
「え?」
「団子屋のおかみがこっちの方に行ったっていうんでそこらじゅうを走り回ってたんだよ」
「う……それはすみませんでした」


おばちゃん余計なことを。そうは思ったが政宗は本当に疲れてるようで自分が座ってた場所を明け渡すと、彼はどかりと座って襟をぱたぱた動かし扇いだ。チラチラ見える肌がなんともエロい。

「あちぃ」
「そんなに走り回ってたんですか?」
「Of course!こっちはお前が性質の悪い奴に拐かされたんじゃないかと思って…て、もういい」

うおぅ。それはご迷惑をおかけしました。苛々と頭を掻く政宗は「暑い暑い」と何度も繰り返す。どうやら勘違いしてた自分が恥ずかしくなってきたらしい。
やっぱり元の世界の感覚抜けてないのかなぁ。大通りは大丈夫だとか明るいから大丈夫とか勝手に思い込んでたのかも。だからあんまり城下町へのお使いさせてもらえないのかな。

「申し訳ありません。政宗さまが治めてる町なのでうっかり油断してました」
「まぁ、そうならねぇように気をつけてはいるがな…だが間違いがないとはいいきれねぇ。出かける時は十分に気をつけろよ」
「はい」

手拭を差し出し、素直に謝ればさっきよりも落ち着いた声色で手拭を受け取ってもらえた。小十郎も十分過保護だけど最近政宗も過保護度合が高くなっていないだろうか。嬉しいけどちょっと心配だよ。




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2011.09.23
英語は残念使用です。ご了承ください。

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