どうしようもない




「それはナシですよ、佐助さん」
「どうして?」
「政宗さまが癇癪起こすから」
至極真面目にいってみたが佐助は変な顔をするだけだった。いや、本当に癇癪起こすんだって。

「戻れば殺されるよ?」
「それでも…約束しちゃったんですよね」

あの城で待ってるって。だからここを出て行くわけにはいかない、そういえば佐助が溜息混じりにを覗き込んだ。


ちゃん。この神社の周りには竜の旦那以外の命を受けてる忍があいつ以外に3人いる。でもこいつはちゃんを殺すつもりはないらしいよ」
「え?」
「あくまでこの奥州から追い出せればいいんだとさ」
「俺はアンタの抹殺命令と共に監視と擁護の命も受けている」
「政宗さまに?」

小さく頷く長門には政宗に感謝した。オブラートに包む気のない言葉を見れば政宗の命令がなかったら間違いなく私を排除していたんだろう。私は仲良くしてるつもりでも仕事は仕事だしって割り切られてるのかと思うとちょっとやるせない。

「…長門さん?」
「お前にと。鬼庭様からだ」
長門が懐から手紙を抜き取り差し出してきた。相手が綱元と聞いてすぐに手紙を開く。
そうだった。確か彼は城に残っていたはず。


「……。なんて書いてあったんだ?」
「暫く旅に出てろって」

丁寧にひらがなを駆使して書いてくれた手紙はすごく読みやすかった。読みやすくて泣きそうにもなったけど。
手紙の内容は政宗達は1ヶ月は戻ってこないこと、城内を鎮めるには時間がかかること、その為は身を隠すようにと記されていた。

…それから、世継ぎが産まれれば帰還が早まるかもしれないとも。


「俺もできればアンタを殺したくはない」
「…そんなこといって大丈夫なの?」
「問題はない。外にいる者は俺の部下で主君は政宗様と仰いでいる者だけだ」

胡散臭そうに佐助は見ていたけどは長門が嘘をついてるようには思えなかった。何より自分を逃して彼に利益はない。

「でもなぁ。政宗さまにはなんていえばいいんだろう。絶対怒るよあの人」
「いいんじゃない?身から出た錆なんだし…とと。それも踏まえて甲斐においでよ。あそこならちゃんを隠してあげられるし、何より甲斐に行きたいっていってただろう?」

長門に睨まれ言葉を濁した佐助だったが悪びれもせずを誘ってくる。どちらにしろ政宗が帰ってくるまで居場所はない。かといって政宗達がいる戦の前線に行く気にもなれないし。足手まといなのは目に見えてるし。


「わかりました。私、甲斐に行きます」

佐助や長門、それに綱元が活路を見出してくれてるんだったら、それを棒に振ることもないだろう。そう思った。



*



『寄りたいところがあるんです』

そういって俺達はある村跡に来ていた。随分前に焼き払われた村は炭化した木を残すだけで田畑も家も草に覆われていた。人が使っていたらしい壊れた鍋や井戸があったが人の影はなかった。多分誰かが掃除をしてしまったのだろう。

慶次はそんなことをぼんやり考えながら木の根元に座り込んだ。さっきまで苦痛を強いられた苦しみは殆どない。さすが佐助特製の万能薬といったところか。
その佐助はを抹殺したと嘘の報告をしにいった長門と共に政宗の城に行っている。合わせて鬼庭という政宗の部下にも言伝を頼んだから、うまくやってくれるだろう。


『政宗さまには"月にでも帰った"とお伝えください』


半ば冗談としか思えない言葉を佐助はちゃんと伝えるんだろうか。もし本気ならもう奥州には帰ってこないってことじゃないか?

視線の先にはさっきから同じところをウロウロと歩き回るがいる。倒れかけている木に触ってみたり、しゃがんで穴を掘ってみたり、家だった塊の周りを何周も回ってみたり。そうして最後は空を仰ぐ。
何の儀式かわからないが背を丸めるの背中は小さくて切なくて今にも壊れてしまいそうだった。

「なぁ夢吉。こういう時どうしたらいいんだろうな」
「キキ?」

肩で同じようにを見つめてる相棒に声をかければ困ったように腕を組んだ。自分は奥州の人間でも政宗と親友でもないから出過ぎたことはいえない。それがお家騒動なら余計にだ。自分だってつつかれると痛い。
でも笑みをなくしたを見ていたらどうにも胸が苦しくて仕方なかった。暫く蹲っていたが立ち上がると目を擦るような仕草をしてこちらに歩いてくる。サラサラと髪が風になびいて美しく光った。


「お待たせしました」
「用事は済んだのかい?」
「はい」

笑う姿が痛々しく見えるのは目が真っ赤に腫れてるせいか、女の命といえる髪を切ったせいか。慶次はを手招きするとそのまま腕を引っ張り自分の足の間に閉じ込めた。

「慶次さん?」
「どうやら雨が降ってきたみたいだ。濡れないようにもっとこっちに来な」
「??雨なんか降ってませんよ?」
が空を見上げたが空から降ってくるものはない。

「いいや。こんなに冷えてるんだ。風邪ひかないように引っ付いた方がいい」
「……ふふ、変な慶次さん」


ぎゅうぎゅうと強めの力で抱きしめれば腕の中の少女はくすくす笑って身を預けた。
その声もすぐに消えて代わりに肩を震わす。合間に聞こえる嗚咽に慶次はを抱きしめる腕を強くするくらいしかできなかった。

を心の底から笑わせれるのはアンタなんだ、政宗。だからさ、さっさと邪魔なことを終わらせてを迎えに来いよ。




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2011.09.27
しばらく奥州とお別れです。

英語は残念使用です。ご了承ください。

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