闇夜の訪問者




伝えられた報告に腰を上げた佐助は持ち場を別の者に任せ闇夜に消える。
今夜の月は三日月で、殆どのものを隠してしまう。そう、この者も。

「こんな夜分に何の用?まさか夜襲、なんて考えてないよね?」

同盟を組んでるのに。降り立った林の闇の向こうに問いかければゆらりと人影が現れる。報告を聞いてまさかと思ったが目の前にいるのは間違いなく伊達政宗だ。

「HA!1人でつっこむほど俺はcrazyじゃねぇよ」
「何いってんの。後ろに右目の旦那がいるじゃない」

2人だけだって十分な敵だ。警戒を含ませた言葉に控えている小十郎が闇の中で動いたが政宗はそれを手で制した。
気配を伺うと上の方に1人、忍がいる。国の城主が忍を1人しかつけないなんてありえないからきっとこっちで引きつけて別の場所から中に入ろうと考えているんだろう。もしかしたら今頃半蔵達と接触してるかもしれない。


「目的はちゃん?」

いうまでもないことを聞いてみた。でなければ同盟国がこんな夜更けに夜襲紛いで来るはずがないのだ。具足を纏った政宗は表情を変えず足を1歩前へ進めた。佐助も顔色を変えずそっとクナイに手をかける。

「…まだはいるのか?」
「?さぁ、どうだろうね?」

まだ?不可解な言葉に一瞬返す言葉を迷ったが、素知らぬ顔で答えるとじっとこちらを見ていた政宗が踏み出した足を引っ込めた。


「…帰んの?」
背を向ける彼に驚いてそのまま問えば、いつもの自信満々な笑みが佐助を見た。

「ああ。ここにがいるならそれでいい」
「……ふーん」

随分あっさりとした幕引きに佐助は呆気にとられた。後ろに控えてる小十郎ですら殺気を消してしまっているのだ。自分の曖昧な言葉はそんなにもあからさまだったのだろうか。
俺ってそこまで嘘つくの下手だっけ?

少し不安なったところで足を止めた政宗が「猿飛、」と振り返った。その瞳は闇夜にとけているのに真っ直ぐこちらに向いてるのがわかった。


に何かあればすぐに使いを寄越せ」
「?何かあるの?」
「さぁな」
「それじゃ使いを寄越しようがないんだけど」

病持ちなのか?と問えば違うらしい。一体何なんだ?と聞いてみたが答える気がないのか肩透かしな言葉しか返ってこない。

「大事なのはわかるけど、ちゃんは人質ってこと忘れないでよね」

裏切らない為に仮初の人質として連れて来たがの役割は思った以上に大きいらしい。それだけは十分にわかって頭の中で信玄に報告しなくては、と予定を組んでいると身を切るような殺気が襲ってきた。


「…に何かしてみろ。そん時は全力でお前らをぶっ潰すぜ」


全てを切り裂くような殺気と声に佐助の額から冷や汗が流れ落ちる。ヤバい、動けなかった。
もしここが戦場なら間違いなく死んでいただろう。想像してごくりと喉を鳴らした佐助は政宗達の気配が完全になくなるまで1歩も動けなかった。



*



城に戻った佐助は一気に疲れた身体を引き摺りつつ報告を聞いた。予想通り半蔵達が黒頭巾組と接触していて佐助は溜息を吐いた。とりあえず交戦せず帰ってくれたということに安堵して解散したのだが、佐助は持ち場に戻らずある部屋へと向かった。

奥の客間に向かうと縁側に白い夜着が目に入る。ここ数日空を見上げてはぼんやりしているという報告を聞いていたがこうやって見ているととても寂しそうに佇んでいて胸が少し締め付けられる。
見張りの忍を手を挙げ下げさせた佐助はひらりと彼女の近くに降り立った。

「眠れないの?」
「あ、佐助さん」
ビクッと肩を震わせたは恐る恐る振り返り、自分だとわかった途端ホッと息を吐いた。
しかし、いつもなら可愛いと思う仕草も今夜は少しあざといと感じてしまう。

「何か目が冴えちゃって…。星が綺麗なので眺めてました」
「ふーん」


小さく笑い空を見上げるために伸ばされた首は白く細い。指をかければすぐに折れてしまいそうなくらいだ。が話すことをどうでもよさ気に聞いていればいつもの様子とは違うことに気づいたのか彼女が不思議そうに聞いてくる。

「さっき独眼竜が来たよ」
「え?」
「待っても今日はもう来ないよ」

だからさっさと寝なよ。なんでそんなことをいったのかわからない。でもさっきから腹の辺りにイガイガした物が刺さって苛々している。それに耐えられなくなって口にしたがすぐに後悔した。
目の前には不安と嬉しさが入り混じった顔のがいる。彼女は俺と目が合うと揺れる瞳を隠すように逸らした。

「いつの間に連絡つけたの?あわよくば救ってもらおうとしたの?」
「そんなわけあるわけないじゃないですか」
城を1歩も出てない。知り合いは佐助と幸村と慶次だけだ。そういっては力なく笑う。

「私、政宗さまと小十郎さまに追いかけられた夢を見て怖くて寝れないのに帰りたいだなんていうと思います?」
「そんなの関係ないよ。竜の旦那は欲しいと思ったものは相手に関係なく手にしようとするからね」


苛々した気持ちはそのまま棘になって口から零れ落ちる。自分にとってもの思いは関係ない。要は外に繋がってる誰かがいるかどうかだ。




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2011.10.12
英語は残念使用です。ご了承ください。

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