眠れない子守唄
そんな警戒した俺には小さく溜息をつくと「妙芳さまがご懐妊されたんですか?」と変なことを聞いてくる。
奥州の情報を与えていないから知るはずもないけど佐助の耳にそんな話は届いていない。もし外と繋がっているなら知っていてもおかしくないが見当違いな話題だ。
「さぁ?俺は聞いてないよ」
「なら今夜は様子見ですよ。力を持て余してる方ですから悪乗りしてここまで来ちゃったんだと思います」
「ちゃんの様子を見に来る為に?」
そういった途端、の肩が揺れ顔を上げた。その表情は困ってるような、はにかんだような戸惑ったもので佐助は無意識にの肩を掴んだ。
「いっとくけど、逃げだそうなんて考えないでね。その時はアンタを殺して最悪奥州に攻め込まなきゃならない」
「……」
「ちゃんは同盟の人質としてここにいるんだよ」
思わず口にした言葉に舌打ちをした。いう必要のなことまで喋ってしまった。
自分は一体どうしたんだろう。さっきから要らぬ言葉を吐いてはを煽っている。
ただ間者を聞き出すだけなのに。こんな感情的な言葉は得策じゃない。けれど彼女を見ているとどうしても苛々とした気持ちが前に出てしまう。感情の波が鎮まらない。
「…もしかして政宗さまに何かいわれたんですか?」
「………何の話?」
「今の佐助さん、変に苛々してて余裕がない感じです」
「………」
「ここに来ることを望んだのは私です。だから政宗さまに怒られようが命令されようが奥州に帰る気は当分ないですよ」
まっすぐ向けられた言葉に息を呑んだ。奥まで見透かされるような恐怖と、いいようのない羞恥心が心を掻き乱す。この純粋な瞳を俺は知ってる。こちらの抱える薄暗いものなど全部白日の下に晒してしまうような、そんな目だ。
壊したくて守りたい、主と同じ瞳。
「政宗さまに何かいわれても気にしなくていいですよ。あの人過保護なんです」
「…右目の旦那も来てたよ」
「ええ?!何やってるんですかあの人達!2人がいなかったら城ががら空きじゃないですか!!……あ、綱元さまがいるか」
ゲッと驚くはさっきまでの曖昧な表情が生き返ったかのようにコロコロ変えて溜息を吐く。その声色が呆れているのにどこか暖かい色を含んでいてその色に目を細めた。
が外と繋がる訳がないのだ。居場所をなくしたからここに来たのに、頼れるのは自分や上司の幸村や信玄、それから前田慶次くらいしかいないのに。それを自分が1番よく知ってて、だからここに連れてきたのに。
「…佐助さん?」
ぽすん、との肩に頭を乗せると心配するような声が聞こえてくる。
あーあ、何やってんだろ俺。こんないたいけな子苛めるようなこといってさ。恥ずかしいったらありゃしない。
「竜の旦那がさ、殺気飛ばして苛めてきたのよ。お陰で俺様すっごく疲れちゃったみたい」
「うわぁ。お疲れ様です」
げんなりした声でぼやけば同情する声がすぐに返ってきて胸の辺りがじわりと温かくなる。忍が感情に振り回されてはならない。感情に飲まれれば間違いなく命を落とす。それなのにどうしてかな。頭を撫でられてホッとしてるなんてさ。
「ちゃん」
「はい?」
人質だといわれても動揺しなかったこの子はきっとわかっていたんだろう。でもそれは誰かから告げられたことじゃなくて自分で悟ったことで。
思うよりも勘のいいに政宗が手放さない理由を少し垣間見た気がした。
「寝付けないなら俺様が添い寝してあげようか」
「へ?」
「ついでに子守唄も歌ってあげた方がいい?」
「佐助さんの子守唄?!」
子守唄と聞いた途端驚くになんとなくムッとして彼女を腕の中に閉じ込めた。夏独特の暑さがあるとはいえ、の身体は少し冷たい。それを温めるように包み込むと「ぎゃあ暑苦しい!」とが暴れたので耳元に息を吹きかければビクッと身体が固まった。
「俺様の子守唄が下手なんて聞き捨てならないねぇ」
「下手なんていってませんよ!」
「じゃあ何で笑ったの?」
「わ、笑ってなんか…っだってそんなの聞いたら絶対眠れないって!」
「…それってやっぱり下手だっていってるんじゃないの?」
「違います!」
力を込めていう割に口元がヒクヒクと動いている。それを指摘すれば手で口を隠された。
「…わかった。今日はちゃんが眠るまで添い寝してあげる。勿論子守唄つきでね」
「嘘…っ」
固まってるに佐助はにっこり微笑むと軽い彼女の身体を抱き上げた。
腕の中で「絶対寝不足になる」と呟いた声はしっかり佐助の耳に届いていたが聞かなかったフリをして垂れ下がっている蚊帳の中に足を踏み入れた。
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2011.10.12
○安さんに囁くように子守唄歌われたら眠るどころじゃないってば(笑)
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