水遊び・2




「では仲直りということで。はい、もうそろそろ食べれると思いますよ」
「すまねぇな」
、俺の分も」
「慶次さんは目の前にあるじゃないですか」

慶次が捕まえ串に刺して焼いていた川魚をひとつ取り家康に手渡せば、彼はにこやかに受け取った。それを見ていた慶次が自分もと声をかけてくる。
の手前には2本の川魚があるが慶次の前には3本ある。どれもそろそろ食べ時な焼き具合だ。それを見た上で返したのに慶次は唇を尖らせて拗ねる素振りを見せる。

、なんか俺と扱い違くない?」
「?誰とですか?」
「あちっ」
「ああっ家康さん大丈夫ですか?」


隣を見れば魚が熱かったのか家康が舌を出していては苦笑した。
なんだか幸村みたいな人だな。そう思ったら家康が可愛く思えてきて魚を持ってる彼の手を取り、冷ますようにフーフーと息を吹きかけた。

「これで大丈夫ですよ」
「……っす、すまない」
「あ、そうだ!忠勝さんもいかがですか?」

木陰の下で控えていた(日向だと熱を吸収して焼肉の鉄板になってしまうらしい)ホンダムこと本多忠勝に声をかけると、彼は無表情に目だけ瞬かせた。凄い、そんなことも出来るんだ。
顔は人間だけど身体が機械だから色々謎に思ってることが多い。まず食事はどうしてるのか。

何もいわない忠勝に痺れを切らして家康を見ればじっと魚を見つめたまま動かない。どうしました?と聞けばなんでもない、と挙動不審に返された。いや、食べる前に忠勝との会話を成立させてよ。
黙々と食べ始めた家康には仕方なく振り返り忠勝を見上げた。


「忠勝さん、魚嫌いでしたか?毒見が必要ならしますけど……」
そしたら食べれますかね?と聞くと忠勝からキュイーンキュイーンという音が聞こえてきた。まさかレーザーで魚焦がしたりしないよね?

「え?」
「乗れってさ」

差し出された手に驚き忠勝を見上げると後ろから不貞腐れた声が聞こえてきた。慶次だ。おずおずとその大きすぎる手に乗れば忠勝の目の前まで持ち上げられた。
さすがにこんな小さいものを自分で食べることが出来ないと思って「はいどうぞ!」と焼き魚を差し出すと忠勝はゆっくり開いた口で一口食べた。


「あれ?熱かったですか?」
ビクッと肩が揺れ顔を赤くする忠勝には慌ててフーフーと息を吹きかけると今度は大丈夫なようでもぐもぐと食べている。なんか餌付けしてるみたいで楽しいな。

「いいなあ。2人揃って猫舌かよ」
「いいなって何が?」
「俺も家康みたいににフーフーしてもらいてーなー」
「んなっ!何故ワシだけなんだ!!」

頬杖をつきぼやく慶次に家康が慌てて立ち上がった。心なしか顔が赤い。ていうか慶次フーフーしてほしいって…。それで拗ねてたのか。やっとわかって笑った。

「じゃあ慶次さんの魚にもフーフーしてあげようか?」
「おっマジで?やった!」


ぴょん、と忠勝の手から降りると慶次が持ってた焼き魚にもフーフーと息を吹きかけた。
一緒に食べたりしてるから知ってるけど慶次は猫舌じゃない。
でも1人ぼっちって思えることがあると急に寂しがり屋になる。

冗談が大半だから放っておいてもいいんだけど、彼が抱えてる事情を知ってるせいか突き放すことが出来ない。それに甘える慶次もなかなか可愛いんだよね。


「…随分と仲がいいのだな。お前達、その、付き合っていたりするのか?」
「え?違いますよ。慶次さんとは友達です」
「…何か友達ってとこ強調しなかったか?」
「聞き違いですよ。それより髪解いた方がいいんじゃないですか?雫滴ってますよ」

慶次を見ればよりも前に上がって日向ぼっこしてたはずなのに髪が濡れている。きっと髪の量が多いからなんだろうけど。結っていたら乾きにくいぞといえば面倒だと返された。


「わかりました。じゃあ拭きましょう。私が拭いてすぐに結い直しますよ」
「……。そいつを甘やかすとろくなことになんねぇぞ」

諦めて手拭を出せば呆れ顔の家康に釘を刺された。
いわれてみればちょっと差し出がましかったかな。女中仕事がないから慶次を世話することで紛らわせてたのかも。そういうとこ慶次優しいからいわないんだよね。気をつけないと。

「とかいって家康も羨ましいんじゃねぇの?」
「それ以前にお前はもっと自覚しろ。嫁でも侍女でもない女子に世話になるなどまつ殿が聞けばさぞや悲しむぞ」
「げ、それをいうなよ…」


ニヤニヤとしていた慶次だったがまつの名前に眉を下げた。やっぱり前田家、もといまつには頭が上がらないらしい。しょげる慶次を小さく笑ったは持っていた手拭を慶次に手渡した。

「はい。じゃあ自分で拭いてくださいね」
「ええ?!おい家康!お前がそんなこというから」
「当たり前だ。髪ぐらい自分で拭け」
「拭かないと風邪ひいちゃいますよ」

有無を言わさない掛け合いに慶次はちぇー、と口を尖らせながら髪を解き拭き出す。身体は大きいのに今の会話だけだと慶次が弟みたいだ。

。この魚も食べ頃じゃないか?」
「本当ですね。あ、フーフーしますか?」
「い、いや!大丈夫だ」

拗ねてる慶次が可笑しくてこっそり笑っていると家康に声をかけられいい匂いの焼き魚に手をかける。家康と自分の分とを手にし、渡す時思い出したように彼に聞けば何故か顔を真っ赤にされた。


「家康のムッツリ助平」
「慶次!何かいったか?」
ぼそっと呟いた言葉を聞きとがめた家康が食って掛かると、慶次は髪を振り回し雫を撒き散らした。

「おまっ何しやがる!」
「ほれほれっ逃げないとから貰った魚が水浸しになるぜ?」
「アホか!止めろ慶次!!」

ぎゃーぎゃーと家康と慶次が走り回るのを眺めながら忠勝のところまで避難したは溜息を吐いた。



「まったく、子供なんだから」


子供の自分にいわれるのってどうよ、と思いながら零せば隣にいた忠勝が同意するようにキュイーンとモーター音を鳴らしたのだった。




-----------------------------
2011.10.17

BACK // TOP