不安要素




「マジですか?」
「大マジ」
睨みあうように対峙したと佐助は一歩も譲らない格好で構えていた。その間に入り込めない慶次と幸村はただぼんやりと2人を眺めている。
道理でお舘さまが来てると思ったよ。佐助の手には豪華な着物が握られていて絶対逃がさないという視線でを見つめている。

「そんな高そうなものいただけません」
「…何度もいうようだけどこれは大将からの贈り物で突っ返せば大変なことになるんだよ?」
「うっ…」
ちゃんだって小袖暑がってただろう?それにこういうの南の方で流行ってるらしいじゃない。大将なりの心遣い、無碍にするつもり?」
「ううっ」


そういわれると言い返せない。生地も薄いし、と広げた露芝に蝶柄の肩裾模様の小袖は色も明るくて華やかで可愛いけどどう見ても丈が通常より短い。

佐助がいうには今夜は待ちに待ってない打ち明けの日だ。信玄を迎え、を大々的にみんなに紹介するつもりらしい。以前幸村との関係を噂されて事実究明を他の部下にもされたんだろう。佐助が持ってるもう一枚の打掛を見る限りお姫様辺りに収めるのは明白だ。
そんな大衆の面前で晒せというのか。

「みんなの前で足を晒すの嫌なんです…」

でなければこんな動きにくい着物をずっと着続けられるわけないのだ。
足が太い。それがずっとコンプレックスだった。子供に戻って少し細くなったけど女中として働き出してからは重い物を持って運ぶとか正座とか足を使う事が増えて随分たくましい脚になって愕然としていたのだ。

それでも耐えられたのは脚を見せることがない着物だったから。
今ここに来て初めてBASARA世界ということを恨みたくなった。


「見せられない傷でもあるのかい?」
「…そういうわけじゃないけど」
「だったら問題ないって。ずっと見てきたけどの脚綺麗だぜ?」

慶次の言葉に世界が凍った気がした。何を見たって?

「前田殿…殿の何を見たのでござるか?」
「え?…あ!別にやらしー意味じゃないって!!ほら尻から脚までの流れがあるだろ?それを見る限りいい形してるなぁって…いいたかったんだけど…」
前田の旦那。ちょっとばかし真田の旦那に鍛えてもらってきなよ

腰の括れから足までのラインを手で表した慶次の顔がどんどん青くなっていく。を隠すように立ちはだかった佐助と幸村の顔はわからないが慶次を伺う限りではあまりいい顔をしていなんだろう。


「では、行ってくるでござる」
「ちょっと待てって幸村!そこ、首が絞まる!!」

ぱっと振り返った幸村はいつもの顔だったが慶次の襟首を掴むとそのままズルズル引き摺っていく辺りいつのも彼じゃないことだけはわかった。
黒い幸村…?とカラ笑いをしていると開け放たれた障子の向こうに車が走っていった。
それに驚き外に出たがそこにあったのはただの中庭で車どころかアスファルトの道路もない。


「どうしたの?ちゃん」
「う、ううん…」
「前田の旦那のことなら気にしなくていいからね。それより足見せたくないっていうなら下に袴を穿くってのはどうだい?」
「うん、そうだね」

慶次のことを心配して出たのかと思ったらしい佐助はの手を引いて部屋の中へと即す。一瞬見たあの車はなんだったんだろう。振り返ってみたがやはりそこにあるのはただの中庭だった。

部屋に戻りながら過ぎる嫌な予感に何事もなければいい、そう思って障子の戸を閉めたのだった。



*



日も暮れた上田城では大宴会が執り行われようとしていた。大きな広間の上座には勿論お舘さまこと武田信玄が座り、その隣にはこの城の主である幸村、それからが姿勢を伸ばし座っている。

「(帰りたい…)」

まるで会社のミーティングの時のようなプレッシャーをかけてくる視線にお腹の辺りがちくちくと痛い。もう泣いてもいいですか?

「皆の者!よう聞いてくれ。既に知っている者もいるだろうが我が上田城に客人をお招きしている」
声を張り上げた幸村にがやがやとした話も視線も全部消え、耳が傾けられる。

打ち合わせはこうだ。は小十郎の縁者で甲斐には留学の一環という形で来ている。故に幸村との関係はなく敵意もないということを信用させることになっているのだ。
幸村がいい終わったところで目で合図がありは指を揃え引きつらないように微笑んだ。


と申します。世間知らず故、何かとご迷惑をおかけするやもしれませんが、よしなに」


軽くお辞儀をして顔を上げれば呆けた男達がこっちを見ていては固まった。
何かしでかしただろうか。不安げに信玄を見やれば彼はおおらかな雰囲気で微笑みずらりと並んでいる男達を見やった。

はこの豊かな甲斐の土地で奥州の民の為に知識を学び生かしたいと考えておる。ワシはその心に打たれ受け入れることを快諾した。各々思うところがあるだろうが、同じ国を想う仲間としてを受け入れてやってほしい」


再び信玄と目が合うと彼は優しく微笑みの肩に手を置いた。
それを見ていた男達は呆けた顔からいきなり泣き出し「勿論です!信玄様!!」、「あんなに小さいのに国のことを一途に考えていたのか!!」、「様!何か困ったことがあったら俺達に頼ってくれよ!!」と騒ぎ出す。
果ては信玄と幸村コールを叫びだし広間は賑わいだした。

「皆の者!今日は無礼講だ!!心行くまで飲むがよい!」
「おおおーっ!!!」
その幸村の一言で宴会は本当の大宴会になった。




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2011.04.21
英語は残念使用です。ご了承ください。

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