水面下・1




が退出するのを見送ってから反対側の襖が開かれた。そこには自分の大将である信玄、不機嫌顔の政宗としかめっ面(これはある意味いつもだけど)の小十郎が膳を前にして酒を嗜んでいるところだった。
謙信はこの部屋の上座に座るとスッと合わせたようにかすがが現れ差し出された猪口に酒を注いだ。

「"竜の花"か…上杉よ。また随分と入れ込んだ言葉をいうておったな」
「あのむすめごはまだおのれのちからのおおきさもいみもしらぬちいさきはな。いまここでたおるのはてんもなげくというもの…そうしむけたのはあなたでしょう?」
「…あなたもの力なるものを知っていたのですか?」


ニヤリと笑った信玄に謙信もフッと笑って酒を煽る。それを後ろで見ていた小十郎が恐る恐る、と言う顔で口を挟んだ。その驚きが滲み出ている顔を見た謙信は「あなたもひとがわるい、」と信玄を見やった。

「直に知ったのはつい最近のことよ。のう佐助」
「(うっ…)はい」

ニヤニヤとした顔で見てくる信玄に俺は後ろで内心冷や汗ダラダラで同意した。前に聞かれた時何もないっていっちゃったからなあ。給料下げられても文句言えないわ。

「触れてみて感じるものがあってな。まあ、微々たるもの故確信は持てなんだがこれではっきりしたわ」
「わたくしをかくにんのどうぐにつかうとは…まあ、それもいいでしょう。わたくしもよいものをえました」
「よいものとは?」
「ここすうじつさしこみがひどかったのですがそれがきえました」


冗談か本気かわからないような笑みを浮かべた謙信は残りの酒を煽る。その後ろでは謙信を馬鹿にしたのかと信玄を睨んでいたかすがが慌てたように謙信を見、驚きを露にしている。
うわあ。感情駄々漏れじゃないの。忍が…って今更いっても仕方ないか。幼馴染の同業者に佐助は人知れず溜息をついた。

「…その様子ではの力のことは知らぬようじゃの」
「いえ、そういうわけでは」
「ああ。知らないね」
「政宗様!」

かすがの動揺っぷりを呆れた顔で眺めていれば信玄がずっと黙っている政宗へ挑発とも取れる言葉を投げる。それを小十郎が素早く返そうとしたが政宗がそれを斬り捨てた。右目の旦那が慌てるのも無理ないけど、竜の旦那何考えてるんだ?

にそんな力は必要ねぇんだよ」
「なれど、てにしたちからをしったいまはどうです?」
「どうもしねぇよ。。それだけの話だ」


用がそれだけなら退席させてもらうぜ。そういって猪口を投げ捨てるように膳に置いた政宗は立ち上がり部屋を後にする。後ろに控えていた小十郎も慌てて頭を下げ、政宗の名を呼び同じく部屋を出て行った。

あの人最初から機嫌悪かったもんなあ。理由はいわずもがな、だけど。
それにしたって何も知らないってありうる話なの?それだけちゃんを溺愛してたってこと?考えてイラっとした。俺がそんな気持ちになっても仕方ないのにさ。


「クククっ若い若い。伊達の小倅もまだまだ青いのう」
「このためにせきをもうけたのですか?あなたのいたずらぐせもこまったものですね」
「何をいう。お主とて知った上で乗ったのであろう?」
「さて。なんのはなしやら」

うわ。ここにおっかない人達がいる!竜の旦那を酒の肴にしちゃってるよ。笑いあってる2人に年の功って嫌だね〜と引いていれば、「佐助」と信玄が肩越しに呼んできた。

「何ですか?」
「どうせだ。お前も一枚噛め」
「は?本気ですか?俺が行ったら殺されちゃいますよ?!」
「そうさな…こういってこい」
「ちょ!俺の話聞いてくださいよ!!」

耳を貸せ、という信玄に佐助は心底嫌そうな顔をしたが逆らえるはずもなく、仕方なく耳を貸した。聞いて絶対嫌だと思った。

「では、頼んだぞ」
「わたくしのしろをあまりこわさないでくださいね」
「……もし帰ってこれたら給料上げてくださいよー…」
嫌な予言しないでよ、と佐助はうんざり気味に立ち上がり姿を消した。




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2011.11.05

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