素直な下心・1




は走っていた。小十郎に元気付けられて2日と立たない内に政宗達の出立の日が来てしまったのだ。それを事前に小十郎から教えてもらっていたは佐助の目を盗んで慌てて部屋を飛び出した。
佐助は以前の仕返しをしたいのかに政宗達が出立する日を教えてくれなかった。その意味をは知る由もないが、今はただ一心に目的の場所へと向かっている。

目的地は政宗の部屋だ。政宗は最後に部屋を出るからそこに行って話すといい。そう教えてくれたのも小十郎だった。
正直に言えば会って何を話したらいいのかわからない。あの夜以来顔すら合わせてなかったから会いづらさの方が強いけど、だからこそ会わなきゃいけない気がして。

迷惑かもとかマイナスのことを考えるとお腹の辺りがキリキリ痛んで嫌だけど足も震えるけど、それを叱咤して走った。肩で息をしながら政宗の部屋を覗き見ると丁度旅支度を終えた彼が中庭を眺めているところだった。


「政宗さま…」
「Ah?何だ?」
「今日、出立されると聞いたのでお見送りに…」
「外じゃ待ちきれなくて迎えに来たってか?HA!ご苦労なこった」

少し棘を感じる言葉に胸がつかえたけど振り返った彼の顔を見てやっぱり来て良かったと思ってしまった。そちらに行ってもいいか?と問えば「勝手にしな」と投げやりに返され戸惑ったけど、黙って部屋へと足を踏み入れた。

「触れても、いいですか?」
「…いっとくが俺はその癒しの力ってのに興味ないぜ」
「っ?!」

小十郎はえらく世話になったようだがな。
視線を中庭に向けたまま鼻で笑う政宗にギクリと肩が揺れた。


久しぶりの抱擁の後、小十郎を見たら思った以上に顔色が良くなっていて互いに驚いた。それくらいいい効果があったのに政宗はいらないというのか。誰が見てもわかるくらい顔色が悪いのに、なのに楽になりたくないんだろうか。
まるで私をいらないっていってるみたいで苦しい。悲しい。辛い。下を向くと涙が出そうで上を向きたかったけどその視線の先は結局政宗になってしまう。仕方なく顔をあげ、同じように視線を中庭に向けた。

「……お身体、辛くないんですか?」
「ああ。全然なんともねーよ。湯にでもつかればすぐに治る程度だ」
「ならよかったです」
「……」

政宗がとうとう沈黙してしまった。気まずい。やっぱり来るべきじゃなかったかな。もう帰った方がいいのかな。


「……しょ、正直に言うと、癒しの力は下心を隠す為の言い訳にしようと思ってました」

ああ、なにいってるんだろ。こんなこと喋る気なかったのに。恥ずかしくて逃げ出したい。自分は馬鹿かと叫びたい。緊張で震え、握り締めた掌にじわりと汗が滲む。


「政宗さまを怒らせてしまったから…本当はここに来るのも不安で…でも、少しでも癒せるならそれをダシに使っちゃおうなんて体のいいことを考えて」
「…What's your point?」 (何がいいたい?)
「………ただ、政宗さまに触れたかった、だけです」

奥州を出て行く前は躊躇なく触ってたけど、今は近づくのもままならない。
会えない間は我慢も出来たけどこうやって見てしまうと欲求が止まらなくなる。欲しくて欲しくてたまらないとか、どこの肉食女子よ、とか思ってしまうけど、今はただ純粋に政宗に触れたい。感じたい。
だって、ずっと会いたかったんだ。この物悲しく感じる隙間を埋められるのは誰でもない、政宗だけだから。

けどそれも無理みたいだ、そう思って頭を下げたは踵を返しとぼとぼと歩く。後ろ髪を引かれる気持ちで歩いていれば、本当に後ろ髪を引っ張られた。

「いたっ」
「ばーか。そういうのは下心っていわねぇんだよ」

ぴん、と張られた髪はすぐに放された。そのかわり、背中に当たる温かな感触と肩に回された腕には目を見開く。


「下心っていうのはこういうのをいうんだよ」
「ひゃっ!」

政宗の腕だ、と視覚で確認して顔が熱くなるのと同時くらいに少し掠れた声が耳元に聞こえて背中が粟立った。うわっなんて声出すんだ。ぞくぞくする背中に身を強張らせると耳に柔らかく温かい唇が当たって、しかもチュッという音に思わずの膝が抜けた。
気が抜けた身体は後ろに引っ張られ、政宗の膝の上に乗る。耳をなぞり、舌先が耳の中に入ってきての肩が揺れた。粟立つ感覚に身を強張らせれば耳朶を食まれ逃げるように腕を突っ張る。

「No way.逃がさねぇ」
「やっ!政、宗さま…!」

うなじを吸われ、力が抜けたはまた政宗の胸に落ちた。首筋を辿り、耳裏を舐められるとまたの肩が揺れ、ぎゅうっと政宗の下袴を握り締める。ちょっと待ってほしい。政宗ってこんなこと考えてたの?ていうか、まさかここでことに及ぼうなんて思ってないよね?


「ま、政宗さまっ待って!ここ、上杉さまの」
「It's not my business.」 (関係ねーよ)
「かかかかかか関係ありますっわあ!」

ごろんと床に寝かせられ天井が見えたと思ったら政宗と目が合った。さっきまでの不機嫌顔とはうって変わって、すっごい楽しそうな顔してる。
怒ってないんだ。その事実にホッとして肩の力を抜いたが胸の辺りに感じる違和感に身体がピシリと固まった。




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2011.11.15
英語は残念使用です。ご了承ください。

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