だんご3兄弟・1
越後から帰ってきたは信玄が治めている躑躅ヶ崎館でしばらくお世話になることになった。越後で信玄にマッサージをした時にどんな町か見てみたいといったのが切欠だろう。
上田城よりもずっと制限が緩くなったは慶次を連れて城下町を観光したり、屋敷内の手伝いをしたりして日々を過ごしている。毎日がこんなに楽しいなんてなかったかも、ていうくらい今のは充実していた。
「。ご機嫌でござるな」
「幸村さま!お城の方はもういいんですか?」
女中さんからおやつを貰ったは部屋で食べようと皿を持って庭先を歩いていると大手門の方から元気な幸村がやってきた。お帰りなさい、ていうのは変な話だけどいつもの癖で声をかければ幸村は嬉しそうに笑って頭を撫でてくる。
留守を任されてた幸村は一旦上田城に帰ったのだが用事があるみたいでこっちの屋敷に戻って来ていた。空けた上田城は大丈夫なのかな、となんとなしに聞けば力強く頷く幸村。きっと綱元のようにしっかりした人が守ってくれてるんだろうな。
「…越後で何かいいことでもあったか?」
「あはは。そうですね。あ、これいかがですか?」
「おおっすまぬな!」
そういって立ち止まった幸村は同じように止まったの手にある皿からおやつの団子を1つ摘んで口の中に放った。その緩んでいく顔が青年というよりも幼さが前面に出てきて可愛くて仕方ない。うん。これで話は逸らせそうだ。
別に隠す必要はないんだけどなんとなく自分の口からは言い辛かったりする。何を隠そう、ここまで浮かれている理由は間違いなく政宗でありこの前の和解が切欠だからだ。
その兆しは謙虚なもので、その日からぼやけた元の世界は見なくなったし奥方、妙芳様へのお門違いな対抗意識も考えなくなった。
ただ単に"政宗不足だった"だけなのだ。
それに気がついた時の自分といったら…私は10代の子供かと羞恥で身悶えてしまったけれど今は苦笑するしかない。
私は政宗が好きだ。勿論、前々から持っていた好意は恋に等しいものだったけれど、心の奥底にあるものはやはりどこかで拒んでいて。
いつか帰るんだろうから。こういう関係もきっと終わりがくるだろうとか。知られないままでいれるなら墓まで持っていこうとさえ思ってて。
なのに今のはそれを壊そうとしている。
"農民出の孤児"を捨てて"未来からやってきた異邦人"として受け入れてもらいたい。そう考えている部分がある。わかってはいるつもりだ。そんなことを今更話したところで困惑させて最悪捨てられるか殺される可能性だってある。
それでももう1人の自分を政宗に知ってほしい。そんなささやかで青臭い子供染みた想いがじわじわとの心を染めていく。まるで思春期の子供のような考えに苦笑しか漏れないけど、政宗のことを考えて胸いっぱいになれるのはある意味幸せだと思えた。
「どうかしたか?」
「いえ!…思い出し笑いです」
気持ち悪いことをしてすみません。にまにまとしてたのを不審に思った幸村が覗き込んできたので慌てて両手を振った。顔に出るのはやばいわ。ちょっと自粛しないと。
しかし幸村も飽きずに聞いてくるよね。お舘さまを迎えに来た時から聞いてくるんだもん。日も経ってるし、佐助やお舘さまから聞いてると思うんだけど。
「それはそうと。、そろそろ上田城も紅葉の季節でござる。その折には馬で紅葉狩りなどいかがか?」
「うーん、ごめんなさい幸村さま。私、1人で馬に乗れないんです」
「そうか!では某の馬で参ろう!」
あれ?即決?何か今馬に乗れなくて凄く嬉しそうな顔しなかった?
ニコニコと笑う幸村をは困惑気味にじっと見つめてみたが、笑顔が可愛いくらいしかわからなかった。でもそっか。もうそろそろ秋になるのか。こっちにきて1年…そう考えると感慨深いなあ。
「じゃあ慶次さんにも聞いて…どうしました?」
「い、いや……!」
「……」
「……」
そういう催し物が好きな慶次を誘ったら楽しいんじゃないかと思って口にしたら幸村の顔がわかりやすく引きつった。物凄く嫌そうな顔してるな。
「…私だけでいいんですか?」
「ああ!に案内したい場所があるのだ!」
ぱあっと輝かんばかりに微笑む幸村が可愛くてもニコニコしてしまう。
もしかして秘密基地でも教えてくれるんだろうか。いやそれなら男同士がいいはず。あっでも慶次は壊しそうだな。
慶次とか政宗はしっかりした基地を作りそうだけど幸村は申し訳ないが脆い家しか思い付かない。例えるなら三匹の小豚に出てくる長男の家みたいな。そこが幸村らしくて可愛いんだけど。
まあいいか、と頷けば幸村は「では早速準備をしなければ!」、そういって引き止める間もなく走り去っていった。
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2011.11.18
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