だんご3兄弟・2
「あーあ、俺様知らないよ?」
「あ、佐助さん!お帰りなさい」
「はーい。たーだいま」
ぼんやり幸村を見送っていたら後ろから声をかけられ振り返った。そこには任務から帰ってきたらしい佐助がいて、桶を抱えながら呆れたようにこっちを見ている。
「知らないって何が?」
「俺様の口からおいそれといえないなあ」
「むう、ケチ。…そうだ!何で幸村さまに政宗さまが来てたこと教えてないの?」
「勿論面倒だからに決まってるでしょ」
即答ですか。
「今は旦那が満足できるような戦もないし、それで越後に連れてったらどうなると思う?」
「鍛錬という名の決闘を申し込みますね」
「でしょー?竜の旦那だって鬱憤溜まってるだろうし、その申し出を受けちゃうと思うんだよねー」
「あー…確かに」
疲れてはいたけど目はギラギラしてたからなあ。奥州筆頭さん。
「それで人様んちの塀や庭を壊してみなよ。止めるのだって一苦労なのにさー」
「…心中お察しします」
うわ〜安易に想像できちゃったよ。何か泣けてきた。きっと小十郎も同じこと考えてたんだろうな。そう考えるといわなくてよかったのか。私も気をつけよう。
「って、あれ?」
「んー?何か用?」
そのまま立ち去ろうとする佐助に思わず声をあげた。振り返る佐助は不思議そうに見てくるからも首を傾げてしまう。
だって桶を持ってるってことは外で仕事をしてきたってことでしょ?そしたらお疲れ様です、ていう例の儀式をするんじゃないの?そんな視線でじっと見つめていたら向き直った佐助が呆れたように溜息を吐いてを見た。
「さすがに室入りしたお嬢さんにベタベタするわけにはいかないでしょ」
「室?……私、室入りした覚えないんだけど…」
なにいってるんですか、と熱くなった顔で佐助を睨めば「嘘!」と驚かれた。
「出立が遅れたからてっきり…俺様のこと謀ってない?本当に何もされなかったの?」
「…………何もないですよ。何言ってるんですか」
心底驚いた顔を隠さずまじまじと見てくる佐助にはなんともいえない気持ちで返した。結局、あの後様子を見に来た小十郎に見つかり止められたんだけど、正直心臓が止まるかと思った。
だってああいう時に人が来るとか、現場に遭遇した父親みたいに真っ青になってる小十郎とか思い出すだけでも頭が痛い。その上あそこで仲良く正座で小十郎のお説教を受けたのだ。甘い記憶よりも苦い記憶の方が残るに決まってる。
もっといえば政宗といちゃいちゃしてた時間よりも説教の方が長かった。
「…でも、竜の旦那と仲直りしたんでしょ?」
「それは一応。その節はありがとうございました」
ぺこりと頭を下げれば「あはーそりゃよかったね」と温度のない言葉が返ってくる。
顔を上げれば佐助は曖昧な表情を浮かべていた。嬉しいような、でも顔に出しちゃダメだよなあって感じだ。あらま、珍しい。と思ったはもっと近くで見ようと皿を抱えたまま彼の元へ駆け寄った。
「暑いんだから走らなきゃいいのに」
「あ、残念。もっとちゃんと見たかったのに」
折角漏れ出た感情を引っ込めてしまった。「何の話?」と嘘臭い笑顔に変えた佐助は1歩後ろへ下がる。逃げる気満々だな。
「そうだ。佐助さんこれから時間ありますか?」
「…うん、まあ。この後の仕事は日が暮れてからだし」
「だったらお願いがあるんです!私今、例の癒しの力のコントロール…じゃなかった。制御の訓練をしてるんですけど、出来ればそれに付き合ってほしいんです」
「俺様が?かすがに習ったんじゃなかったの?」
「そうなんですけど、1人じゃいまいち勝手がわからなくて。佐助さんなら気配に敏感だしこういうのも得意そうだなって思って」
「えー?忙しい俺様をこき使おうっていうの?」
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ。いいじゃないですか。少しは回復するんですから」
元々駄々漏れしてるらしい力だ。使わない方が勿体無い。
それに小十郎と政宗の顔色を見て、そこそこ役に立つとわかったのだ。もっとうまく使いこなしたい、と思うのは自然の流れだろう。
少し嫌そうな素振りを見せる佐助に口を尖らせたは「足を引っ張らないですから」と念を押した。何か、越後から帰ってから佐助が冷たくなった気がする。やっぱり黙って政宗に会いに行ったのがまずかったのかな。
「それって他の人間でも良くない?他の武将の面々とか何気にお疲れよ?」
「私は佐助さんにお願いしたいんです!」
「…っ……へえ?」
一瞬、言葉に詰まったような顔をした佐助には気づかずむくれた。お舘さまと話してる時に教えてもらったんだけど、結構前から佐助はこの力に気づいていたらしい。でも根拠もないのにいうのはどうかと思って伏せていたのだという。
「子供の自分じゃろくに何もできないし、役に立ちたいんです。だからお願い、佐助さん」
監視でもずっと見てきた佐助なら他の誰よりもわかってくれてる気がして。真っ直ぐ見つめれば彼は視線を泳がせた後、真一文字にしていた口から盛大な溜息を吐き出し頭を掻いた。そんなに嫌か、と眉を寄せると皿の上に乗っていた団子をひとつ持っていかれた。
「あ、行儀悪い」
「いいでしょ。ちゃんの訓練に付き合ってあげるんだから」
泥だらけの手で摘み口に入れる佐助に眉を寄せると、彼はしれっとした顔で歩き出す。
「?!本当?付き合ってくれるの?」
「だってちゃんの力わかるの俺様くらいなんでしょ?仕方ないから付き合ってあげるよ」
「ありがとう!」
手を拭いたら残りの団子もあげますね!と皿を掲げれば「…団子で釣られたわけじゃないんだけどね…」と苦笑された。幸村と同じ扱いは嫌なのか。
そんなつもりはなかったんだけどな、と笑うとそうじゃないよ、と返された。じゃあどういうこと?と覗き込めばはぐらかされたけど。
さして追求する気がなかったは「でも疲れた時は甘いものがいいんですよ」というと佐助の隣に並んで屋敷の中へと歩いていった。
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2011.11.18
越後編後のちょっと蛇足的なオチ。
タイトルに意味はありません(笑)
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