豊臣大脱走・4




この爆風、もしかしてBASARA技?と顔にかかった土や木の枝を払いながら目を開けると煌く6本の刀が見えた。
残像のように光ってるわけじゃない。あの三日月の兜も青い具足も全部覚えてる。

「HA!こんなもんかよ!豊臣の力はよお!!」
「まさ…っ」

政宗さま。痛む身体を無理矢理起こし彼を呼ぼうとした。が、背中の痛みに呼吸がうまくできない。官兵衛の腕を退け、痛む背中を押して身体を起こせば政宗は白い髪を揺らし紫の仮面をつけた半兵衛と戦っている。
すぐ近くでさっき聞いた戦場の声が響き渡った。どうやら達は離れたと思った戦場に近い場所まで飛ばされたらしい。

「…さま……むねさま……」

もう冬なのに何でここにいるのか。
奥州はどうしたのか。
怪我はないのか。
色々頭の中がごちゃごちゃに乱されて何を最優先に考えればいいのかもうわからない。

視界に映るのは蒼い具足を身に纏い戦う男の姿だけ。
その男が半兵衛に腹を斬りつけられ、噴出した血に頭の中が真っ白になった。


「政宗さまーーっ!!」


背中の痛さなど飛んでいた。腹の底から大きな声で政宗の名を呼んだ。喉がひりつく。まるで迷子になっ子が親を呼ぶような声には情けないと思った。
けれども、それしか思いつかなかった。



「………?」


土煙と交わされる金属音に声など聞こえないと思ったがしっかり届いていた。動きを止めた竜は片方しかない左目を大きく見開きをまっすぐ見据える。
目が合った瞬間、の心臓は大きく揺れて目も頭も熱くなった。零れそうになった涙を必死に堪えると唇が震えてぎゅっと噛み締める。そんな表情を見て政宗が一瞬だけ笑ったように見えた。


「…まだこんなところにいたのかい?道理で近くで雷が落ちると思っていたよ」
「すまんな…だが受けた命は全うする」
「っ?!」

腹に回った腕と浮遊感に驚き見ると官兵衛がふらついた身体で立ち上がっていた。赤い血は腹の下まで着物を汚している。どう考えても限界だ。

失血死してしまう、と動こうとすれば「大人しくしな。未来の嫁さんをこれ以上傷つけたくはない」と尻を撫でられる。こんな時まで、と赤くなった顔で非難しようとすれば土気色の官兵衛がニヤリと笑った。やせ我慢にも程がある。


「おいおい…いつからはテメェらの持ち物になったんだ?Ah?」
「彼女の価値もわからない君達でないのは確かだね」
「いうじゃねぇか。利用するだけ利用していらなくなれば捨てちまうテメェに価値なんぞ語れると思ってんのか?」
「戦で…秀吉の為に散れるのなら、本望だと思うけどね」
「HA!相変わらずご大層な心掛けだ。I feel like throwing up.…But,だからって何でも傷つけていいわけじゃねぇ。守るべきものは特にな」 (吐き気がするぜ)


視線を送ってくる政宗には胸がぎゅっと締め付けられた。大丈夫、そう言い聞かせて胸の前で拳を作った。
交渉決裂だと刀を構えた2人はそれぞれの空気を纏う。の頬にも静電気とぞくりとする寒気が襲ってきた。

勝負はすぐに始まった。
けれどそれを悠長に観戦することはできなかった。目の前には小十郎が刀を構えている。は官兵衛に抱えられていて、普通に考えればこちらが不利だというのに彼は果敢にも小十郎を威圧している。

「官兵衛さん放して!」
「黙ってねぇと舌噛むぜ」

そういうと同時に官兵衛が踏み込み、小十郎に斬りかかる。をちらつかせるせいで小十郎は防戦一方だ。何とか逃げなければ、そう思いながら視界の端に映った光景に目を見開く。


「政宗さま!」

片膝をつく政宗には声をあげた。押さえてる脇腹から赤い血が滴るのがこちらからでも確認できる。やばい、そう思っても捕らえられたはあそこに走ることも庇うことも出来ない。

「放して!放してってば!政宗さま!」
「くっ…政宗様!!」
「余所見してんじゃねぇ!」
の声に小十郎も政宗に視線を送った。そのために官兵衛になぎ払われてしまう。木に叩きつけられた小十郎に、は軋む背中を叱咤して反らすと官兵衛の視界を遮るように抱きついた。

「?!っ放さんか!」
「嫌っ誰も殺させない!」

私だって守りたいんだ。そう思って引っ張ってくる官兵衛の手に必死に抵抗しているとその隙に小十郎が官兵衛にタックルしては地面に転がった。
ズキっと痛む背中に意識が飛びそうになったけどなんとか奮い起こして政宗を見れば小十郎が走っていく背中が見えた。


「政宗さま…っ!!」

助けなきゃ。振りかぶる半兵衛には目の前にあった官兵衛の刀を握り締める。
土から引き抜いた刀が思ってたよりも重かったとかどうやって戦うんだ?とか何も考えられなかった。ただ政宗を助けたくて。それで刀を大きく振り上げる。

その瞬間全身が粟立つような寒気に襲われ、それから何か重くて強い光を感じた。光はを包み込み全てを真っ白に変えその眩しさに耐えられず目を閉じた。

五感で感じたのは頭上から来る衝撃と光の強さ、それから身体の中に駆け巡る何か。
降ってきた衝撃か、刀の重さに耐えられなくなったのか、は刀を思いきり振り下ろすと同時にそのまま白い世界に飲まれ意識を手放したのだった。




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2011.12.17
英語は残念使用です。ご了承ください。

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