恋のお悩み相談室・1
ああ、心臓に悪い。昨夜の佐助を思い出してはまた溜息を吐いた。赤くなった頬を手の甲で擦ってみるが一向に冷える気配はない。
あそこでたまたま起きた慶次がこなかったらどうなっていたことか…。これが慶次ではなく小十郎だったら……間違いなく血祭りにあがっていただろう。主に佐助が。
「(ていうか、佐助さっさと出て行っちゃうんだもん…あの微妙な空気を収拾しなきゃいけない私の気持ちを考えろっての)」
慶次と鉢合わせした佐助は素早くを手放し、自分だけ逃げやがったのだ。今度会ったら何かしらの報復を覚悟しとけよ、と出て行った背中を恨みがましく睨んだのはいうまでもない。
そんな佐助だけど、慶次が来るまでは本当、別人みたいで。いつも冗談半分みたいな言葉ばかりだから鵜呑みしづらいんだけど、キスとか触り方とか前よりもずっと意味深で…こう、無駄にドキドキするというか。
これがいつもの佐助だったら抱きしめるあの手も躊躇しなかったし、佐助だってあんな返答に困るような言葉も視線も寄越さなかったはずだ。
考えれば考えるほど佐助が自分に恋的な意味で興味があるようにしか考えられなくて頭を抱えたくなった。
そりゃ戦国時代とはいえ目の前にイケメン集団が逆ハーレムみたいにいたら目移りしたくもなる。恋の経験が少ない自分なら尚更だ。ほんの少しの優しさですぐに勘違いする。
しかしよ、よく考えろ。相手は2次元でも3次元でもいい男集団(中身はそれぞれ気になるところあるけど)だけど、自分はその辺にいるモブクラスの人間だ。一般常識はあるけどここでは微妙だし顔も性格も含めて取り立てるものはない。
…取り立てるものがないからある意味逆に引っかかったのか?いやそしたら主人公が乱立して物語どころじゃなくなる。オンラインゲームの酒場みたいになってしまう。
趣旨がずれた。
「どうした、。さっきから顔を赤くしたり青くしたり」
「ぅえ?!い、いえ!なんでもありません…っ」
前を歩く小十郎が訝しげにこっちを見てたのでは慌てて首を横に振った。折角昨夜の一件を隠せそうなのに私がバラしたら意味がない。
にっこり笑って誤魔化してみると意外にも小十郎はつっこんでこなかった。それはそれで寂しい気がする。頭おかしい子だと思われてたらどうしよう。
「俺は昼餉の準備をしなくちゃならねぇ。あがる頃に迎えに来るからそれまでゆっくり浸かってろよ」
何かあったら大声で呼べ、と念を押されて小十郎は踵を返し坂道を上っていく。こんな冬場の山奥に何が出るっていうんだ。むしろ大声出したら熊が起きるんじゃないか?
「それにしてもいい天気」
見上げれば青い空が広がっている。昼間から温泉なんて贅沢だ。怪我するのも悪くないな、と着物を脱いで足早に温泉に飛び込むと「うおっと」という声が聞こえ身を硬くした。え、誰?
「。入るならもっと静かに入れよな。湯が頭までかかったじゃないか」
「け、慶次さん?!」
なんでここにいるのよ!とつっこめば「こんないい天気の日に温泉に浸からない方が罰が当たるだろ?」とさも当たり前のように返された。うん、慶次はそうだよね。さすが風来坊。またの名をフリーマン。
程よく距離をとって体育座りと胸をこっそり隠しながら慶次を見ると水も滴るいい男になっていた。笑顔だから怒ってはいないらしい。ん?でもこの場合は私が怒っていいのか?
「そして、温泉といえばこれだ」
「あ、お酒だ」
どこからか調達してきたのか桶に徳利をいれて浮かべる慶次は持ってるお猪口を煽ってにんまり笑った。さすが抜け目ない。「いいなぁ」といえば慶次が笑ってお猪口を寄越してくる。
「けど、1杯だけだからな。は酔っ払うと手がつけらんねぇし」
「うっあの時のことは反省してるってば」
むしろ、被害は自分に返ってきたし。そう何度も失態を見せるつもりはない、と口を尖らせれば「頼むぜ」と慶次がお酒を注いでくれた。
「ふはーっ私初めて温泉の中でお酒飲んだよー」
「そりゃ温泉なんてどこも山の中だったりするからな。城勤めじゃ入ったことないか…っておいおい、それ3杯目だぞ」
「大丈夫大丈夫!…それもあるんだけどお湯の中でお酒飲むと酔いが早くなるって聞いたことがあってさ」
「へぇ。そりゃ初耳だな」
「まあ、昔は長寿の酒ともいわれてたしね〜。最近の話だよ。ワイン風呂とかかなり酔っ払うとかいうし」
「…わいん?」
「あ、…」
「酒のこと?」
「うん、そう」
酒風呂なんて夢だけどべろべろになったら洒落にならないし、そんな豪遊はできないから一生無理かもね〜、なんて思ってたら慶次が不可思議な顔で見てくるので思わず口を噤んだ。しまった。
調子に乗ってお酒飲んでいらぬことまで口走った。思ってたよりも酔いが早そうだ、と思ったは抱えてた桶にお猪口を戻すと慶次に押し渡した。
「わいん風呂って?」
「うーんそういうお風呂……温泉、みたいな?」
「……」
「……」
「って嘘つけないよなー」
「…放っておいて」
フッと鼻で笑われた気がしてそっぽを向くと夢吉がこっちまで泳いできたので肩に乗せてあげた。もたれかかる夢吉の背を撫でていると「、」と呼ばれ不承不承振り返る。
「首のそこ、どうしたんだ?虫刺されみたいに赤いぜ?」
「え?どこ…」
慶次の指がの首を辿りビクッと肩が揺れる。髪を結い上げてるから感触がリアルに伝わってくる。
主にくすぐったからなんだけど、そのくすぐったさに昨夜の一件を思い出し顔が熱くなる。
「丁度、着物で隠れるとこだけど、擦ったのか?…………あ、」
「い、いわないで!」
「もしかして、さす」
「いわなくていいから!!」
わかってるから!と真っ赤な顔で慶次を睨めばなんともいえない彼の顔が引きつって、それから岩場に背を預けた。
「意外だなー。佐助、結構積極的だったんだ」
「そこ感心する場所じゃないから」
「もしかして年の差とか気にしてんの?まあさすがに気が早すぎるかもしれないけど、でもそろそろ婚儀の話とか来る時期だろ?」
「正直、話したくない話題だね。ていうかどうでもいいし」
「そんなこといって俺みたいに根無し草になっても知らないぜ?」
「自虐ネタなんてらしくないよ。それに、慶次さんは落ち着く先をわざと見つけてないだけでしょ」
「なんか変なとこ強調された気がするが…あ、でもは嫁ぎ先っていうより相手が問題か。幸村含めたら4…」
「?!そ、そんな訳ないでしょ?!」
声を荒げたに肩に乗ってた夢吉がドポンと落ちて危うく溺れかけた。それを慌てて拾い上げ怒る夢吉に平謝りすると今度は慶次を睨みつけた。顔が熱い気もするがきっと温泉のせいだ。
-----------------------------
2013.11.01
2013.11.28 加筆修正
TOP //
NEXT